「元気」はわかりきった言葉ではあるが、私のいつもの流儀で広辞苑をひくと、「①天地間に広がり、万物生成の根本となる精気」「②活動の源となる気力」「③健康で勢いのよいこと」とある。①は性霊集にある言葉の説明で、この書は空海の書いた詩賦、表文、碑銘などを弟子の真済が編集した書10巻の中にある言葉だという。まあ現世の人は、いくら空海の言った有難い言葉でも、この意味で使っている人はいないだろう。
元気の反対の状況が「病気」だ。これも広辞苑で引くと、「生物の全身または一部分に生理状態の異常を来し、正常な機能が営めず、また諸種の苦痛を訴える現象。やまい。疾病。疾患。」とある。これだと植物も生物だから、病気になると苦痛を訴えているのだろう。また元気の説明は気に重点を置いて説明しているが、病気の方は生理状態の異常と極めて自然科学的に説明している。読み比べて何かすっきりしない説明の違いがある。
なぜこの元気と病気を話題にしたかというと、実は私がこの3月と6月の2度にわたって入院したからである。入院するような病気になったということである。3月の入院は心臓の期外収縮の治療のためで、太ももの動脈からカテーテルを心臓の内部に入れて、不正な信号を出しているところを焼き切るというアブレーション治療を受けてだいぶよくなって5日で退院したが、まだ不整脈は残っているので薬を飲みながら経過観察を続けているところだ。これは生理学的な異常を医学的な技術で処置したものだ。
6月はまさに気が病んだという状態になっての入院だった。昨年から高校や大学以来の親友が3人次々とあの世に旅立ち、また東大サッカー部の2年先輩で、4年間同じチームで戦い(岡野さんは6年間東大現役だった)、大学選手権での優勝や、OBになってからは東大LBというチームで日本選手権3位になった戦友であり、その後もサッカー協会の仕事でともに歩んできた畏敬する岡野俊一郎さんが2月に亡くなって、6月24日のサッカー協会の偲ぶ会で弔辞を読めということで、その大役を果たした後、何か気が滅入って体調がすぐれず、かかりつけの医師のすすめで入院したのだった。
いろいろ検査したが悪いところは見つからず、医師に先の話をしたらそのせいでしょうということで、これも5日で退院したが、元気を取り戻すのにそれから10日以上はかかったろうか。こちらは文字通り気の病で、心理学的なサポートは受けられるであろうが、自分で何とか対処しなければならないものだ。
なぜこんなことを書いたかというと、気持ちの持ちようで、頭の働きを含めて体が不調になる体験をしたことを書くことで、もうそうはならないぞと自分で自分を励ますとともに、困難なことにチャレンジしている皆さんに、より気持ちを強く持ってチャレンジの障がいになるものにぶち当たって突き破り、目的に向かって進んでいってほしいと思ったからである。元気こそ人の活動を前へと進める力強いエンジンなのだろう。ともに元気いっぱいがんばろう。
(平成29年11月)
プロフィール
浅見 俊雄(あさみ としお)
埼玉県出身。東京大学卒業。東京大学名誉教授・日本体育大学名誉教授。元国立スポーツ科学センター(JISS)センター長、日本サッカー協会顧問、アジアサッカー連盟 規律委員会・審判委員会 副委員長など。元YMFS理事・審査委員長・調査研究担当理事