ツルのひとりごと

Vol.13 個の力と全体の力と

ワールドカップの準決勝で、優勝候補の筆頭にあげられていた地元ブラジルが、ドイツの前に7-1という記録的スコアで大敗を喫した。攻撃のエース、ネイマールを負傷で、主将で守備の要のチアゴシューバを累積の警告で欠くという事態はあったが、多士済済の選手ぞろいのブラジルのことだから、むしろ出場の機会を与えられた控え選手が、ここぞと大活躍をするのではないかとも予想していたのだが、結果はチームの崩壊ともいえる試合になってしまった。前半11分にコーナーキックから均衡を破られたあともまだ勝敗の行方は分からない試合を展開していたが、23分に2点目を取られると、何か茫然自失状態になり、24、26、29分と6分間に4点と立て続けに失点して、試合の半分どころか1/3を過ぎたところで、試合は完全に決まってしまった。

個の力で言えば、2人の主力を欠いたとはいえドイツに勝るとも劣らないブラジルが、チーム全体の力としてはこれほどの差が出てしまうというのは、想像すらできないことだった。むしろ二人を欠いたがゆえに、二人のために個人の力もチームの結束力も上がるのではという予想が多かったし、私もそう考えていたのだが、結果は全く反対になってしまった。

なぜこのことをここに書いたかというと、YMFSのチャレンジャーの多くは、研究者にしろ競技者にしろ、全くの個人として目標に向かって挑戦しているのではなく、共同研究者とともに、チームあるいはクラブの一員として、あるいは個人のチャレンジであっても、周囲の仲間や指導者、家族などのサポートを受けてチャレンジを続けている人たちである。何れであっても、個人としてのチャレンジが目標達成にとって最も重要なことだが、同時に同じ目的に向かっている仲間や、それを支えてくれる人たちとのチームワークというかグループとしての力が目標達成に大きな役割を果たしていると思っているからである。

といっても、私にはそのチームワークというか集団としての目標達成への集合力をどうすれば高められるかという問いへの答えはない。ましてあれだけ優勝への高いモチベーションを持っていたブラジルの集合力がなぜ突然崩壊したのかを説明することはできない。

個人の力を高めることと、それを集合体としての総合力の高まりへとつなげていくことには、それぞれの目標へのチャレンジが必要なことは確かだが、どうするのが良いのかは、個人で、そしてそれぞれの集合体で考え、トライするしかないことなのかもしれない。

(このコラムは、平成26年7月に発行したYMFSスポーツチャレンジ助成会報誌Do the Challenge Vol.11に掲載された内容を転載したものです。)

プロフィール
浅見 俊雄(あさみ としお)

埼玉県出身。東京大学卒業。東京大学名誉教授・日本体育大学名誉教授。元国立スポーツ科学センター(JISS)センター長、日本サッカー協会顧問、アジアサッカー連盟 規律委員会・審判委員会 副委員長など。元YMFS理事・審査委員長・調査研究担当理事