ツルのひとりごと

Vol.17 頂点を極める

NHKが放映した「グレートトラバース・シリーズ」の「日本百名山ひと筆書き」と「日本二百名山ひと筆書き」をご覧になって感激された方が多かったのではないかと思っている。百名山は山そのものと登山をこよなく愛した文学者の深田久弥氏が自身の登山体験を通して選定した100座である。その候補に挙げた146座に、深田氏の遺志を継いで作られた愛好会の「深田クラブ」のメンバーが、56座を加えたのが二百名山である。百名山には富士山を始め3000メートル級の高山が多いが、残りの100座には、高さは低くてもルートもはっきりしていないような山も多く、「低きがゆえに楽である」ということではないようだ。

アドベンチャーレーサーの田中陽希さんがチャレンジした「グレートトラバース」はこの百名山と二百名山の残りの100座を、2度に分けてひと筆書きのように連日1座1座と登頂してくもので、日によっては何座かを登頂する日もあれば平地をひたすら移動する日もある。陸地は足で、海上はカヌーでと人力だけで踏破していくという過酷なチャレンジである。平地も車は使わずに徒歩と時にはジョギングで次の山を目指していく。もちろん夜は宿や山小屋などで休むが、雨や雪でも休む日はほとんどない。「百名山」の時は屋久島から北海道・利尻島まで、2014年4月1日から10月26日までの209日間、「二百名山」の時は北海道の宗谷岬から鹿児島の佐田岬まで、2015年5月25日から16年1月1日までの222日間の旅だった。

実はYMFS第1期生の2007年度のチャレンジャーだった田中正人さんが、世界で最も過酷なレースであるアドベンチャーレースのチームイーストウインドの代表者で、YMFSの助成金による活動の中で育てた最優秀の人材がこの同姓の陽希さんだったのである。正人さんはそのチームで世界のレースでも活躍し、そしてひと筆書きの企画にも関わって陽希さんのサポート役をした人だったのである。そうしたことから昨年3月のつま恋でのYMFSチャレンジャーズミーティングでの特別講演をお願いしたところ、陽希さんとともに参加してくださって、アドベンチャーレースや百名山踏破のチャレンジを話していただいたのであった。

スポーツの実践やスポーツ医・科学の研究でチャレンジを続けているYMFSのチャレンジャーにとって、その講演は強い大きな刺激を与えてくれた。ここではその内容は書ききれないが、NHKは終わったばかりの「二百名山」の再放映を行うようなので、何かにチャレンジしている人はぜひそれを見て、それぞれのチャレンジをしていく上での参考というか刺激にしてほしいと思うし、各自のチャレンジの質と量を高めていくためのヒントを得てほしいと思っている。

(このコラムは、平成28年2月に発行したYMFSスポーツチャレンジ助成会報誌Do the Challenge Vol.15に掲載された内容を転載したものです。)

プロフィール
浅見 俊雄(あさみ としお)

埼玉県出身。東京大学卒業。東京大学名誉教授・日本体育大学名誉教授。元国立スポーツ科学センター(JISS)センター長、日本サッカー協会顧問、アジアサッカー連盟 規律委員会・審判委員会 副委員長など。元YMFS理事・審査委員長・調査研究担当理事