ツルのひとりごと

Vol.04 「絆」について考える

昨年の漢字に、「絆」が選ばれた。大震災後の人と人との助け合いや、なでしこのワールドカップでの奇跡ともいえる優勝をもたらした素晴らしいチームワークなどから、この字が選ばれたのであろう。確かに昨年は、人が生きていくうえでも、また何かを成し遂げようとするうえでも、人と人の結びつきの強さが大切であることを、あらためて深く認識させられた年であった。

ところでこの絆という字は、絆創膏の字としては知っていたが、今まで使った覚えがないし、その成り立ちや意味をよく知らなかったので漢和辞典で調べてみた。すると漢字の分類の一つの形声にあたる字(意味を持たせる漢字〈糸〉と音を表す漢字〈半〉を組み合わせたもの)で、音読は、ハン、バン、訓読は、ほだし、きずな、つなぐ、意味は、もともとはひもをぐるぐる巻いてからめることであり、馬の足にからめてしばるひも、人を束縛する義理・人情などのたとえ、とあった。ちなみに絆ではじまる熟語は絆創膏だけだった。

広辞苑も引いてみた。馬、犬、鷹など、動物をつなぎとめる綱、が最初にあり、次に断つにしのびない思愛、離れがたい情実、ほだし、係累、緊縛とある。そして例示に「夫婦の絆が挙げられている。なお、きずなと読ませる漢字には、ほかに紲、絏、緤があるが、いずれも動物や罪人をつなぐ綱、縄の意味の字で、どれも明るいイメージのものではない。

多くの人と同様に、私も絆という文字や言葉にはマイナスのイメージを持っていなかったのだが、元の意味が無理やり縛り付けられているような結びつきを表す言葉だったのは意外だった。しかし、言葉の意味というものは時代によって変わりうるものだと考えれば、絆も今多くの人がイメージしているような明るい好ましい結びつきを表現する言葉として、広く使われていくことになるのではないかと思っている。

ここで絆をテーマにあげたのは、YMFSのチャレンジャーへの助成事業でも、人と人との、あるいは人と組織との絆が、個人のチャレンジにとっても、財団の組織としてのチャレンジにとっても、大変重要だと思っているからである。もちろん、ここで使っている絆はプラス思考の明るい意味での絆である。

チャレンジャー自身の体験あるいは研究での取り組みにも、指導者や仲間などとの人間関係が、チャレンジの成果を決定する重要な要因になるであろう。チャレンジャー同士の、あるいはYMFSとの関係も、助成期間だけの表面的な結びつきや、助成金でしばられた結びつきではなく、互いに励ましあい、成長の糧を分かち合えるような関係であってほしいと思っているし、そういう方向で事業が進められている。

これからは、絆のひもで拘束するというもともとの意味は、今までの辞書にしばり付けて封印し、お互いの自由を尊重しながら心と心が通い合う結びつきを絆という、と辞書に載り、さまざまな人たちが絆で強く結びあった時代が来ることを願っている。

(このコラムは、平成24年2月に発行したYMFSスポーツチャレンジ助成会報誌Do the Challenge Vol.2に掲載された内容を転載したものです。)

プロフィール
浅見 俊雄(あさみ としお)

埼玉県出身。東京大学卒業。東京大学名誉教授・日本体育大学名誉教授。元国立スポーツ科学センター(JISS)センター長、日本サッカー協会顧問、アジアサッカー連盟 規律委員会・審判委員会 副委員長など。元YMFS理事・審査委員長・調査研究担当理事