ツルのひとりごと

Vol.06 オリンピックとパラリンピックと

この文章を書いているのはロンドンオリンピックの開幕直前だが、皆さんがお読みになっているときはオリンピックもたけなわで、日本選手たちの活躍に一喜一憂し、また世界のトップレベルのアスリートたちの繰り広げる迫力あるシーンや美技に堪能されているころであろう。そして何日か後には聖火も消え、TV観戦で夜更かししていた生活も、また日常に戻っていくことだろう。

しかし日本を代表するアスリートたちの世界への挑戦は、またそのすぐ後に始まる。8月29日から9月9日まで、同じロンドンで開催されるパラリンピック大会には、日本から17種目に135人の代表選手が参加する。オリンピックの31種目、293人に比べれば規模は小さいが、アスリートとしての挑戦の厳しさは、健常者のそれ以上のものだと思っている。それは障害によるハンデを乗り越えるという厳しさが、アスリートとしての挑戦にプラスしてあるからである。ぜひ、このパラリンピックでの日本選手たちの挑戦にも関心を払い、声援を送っていただくことをお願いしたい。

実は私はつい最近まで、障害者スポーツやパラリンピックについての知識や関心はそれほどは持っていなかった。その存在自体はある程度知っていたし、文科省の委員を務めていたり、国立スポーツ科学センターに準備段階からかかわっていた時も、障害者スポーツへの配慮の必要性については発言していたが、それは厚労省の管轄ですからと言われると、それ以上のことは言えなかった。そのころは1964年の東京オリンピックの直後にパラリンピック大会が東京で行われたことすら全く知らなかったのである。

それが障害者スポーツにこれまでより関心を持つようになったのは、YMFSのチャレンジ助成に関わりを持つようになってからである。初年度から障害者アスリートの体験チャレンジャーへの応募があり、その申請の文章や面接での応対で、健常者以上のさまざまな困難に強い心で立ち向かっていることを知って、助成対象者に採用した。その後も6期生まで毎年障害者が採用されているが、全く健常者と同じ基準での選考の結果だった。6期生まで59人のアスリートが助成対象者となったが、そのうちの11人が障害者アスリートである。

その後も4半期ごとの活動報告を読み、それにコメントを返す中で、また時々に行われる報告会の折の討論の中で、障害者のスポーツチャレンジの環境が健常者以上に厳しい状況にあることや、それを克服して世界に羽ばたこうとしていることを知って、逆にこちらの方がもっと頑張らねばと思ったりもしていた。

そして今回のロンドンには、これまでのYMFSの助成対象者からオリンピックには3人が、パラリンピックには5人が参加する。人数だけでなくメダルの可能性もパラの方が高い。パラリンピックをどれだけTVで放映してくれるかわからないが、私はできるだけ多くの種目を見て、遠くからではあるが応援したいと思っている。それはこれまでオリンピックにしか関心を持たなかったことへのお詫びの気持ちを込めてのことでもある。ぜひ皆さんも、オリンピック同様にパラリンピック日本代表を応援していただきたい。世界の頂点を目指すアスリートの挑戦には健常者と障害者による違いは全くない。

(このコラムは、平成24年8月に発行したYMFSスポーツチャレンジ助成会報誌Do the Challenge Vol.4に掲載された内容を転載したものです)

プロフィール
浅見 俊雄(あさみ としお)

埼玉県出身。東京大学卒業。東京大学名誉教授・日本体育大学名誉教授。元国立スポーツ科学センター(JISS)センター長、日本サッカー協会顧問、アジアサッカー連盟 規律委員会・審判委員会 副委員長など。元YMFS理事・審査委員長・調査研究担当理事