ツルのひとりごと

Vol.08 YMFSの障害者スポーツに関するプロジェクト研究について

ヤマハ発動機スポーツ振興財団(YMFS)では、平成24年度からこれまでのスポーツ科学研究へのチャレンジ助成に加えて、新たに財団独自の研究プロジェクトを立ち上げた。ここでは社会的な要請にこたえるような課題を取り上げた研究、調査を行うこととしていて、その最初に取り上げたテーマが「障害者スポーツに関する社会学的調査・研究」である。この研究分野での専門の研究者でプロジェクト・チームを編成して、初年度は大学での障害者スポーツ、特に競技者、指導者の養成や、科学的な研究の現状調査と、日本障害者スポーツ協会の協力を得て、各競技種目の統括団体の現状についての調査を、いずれも大学、競技団体を対象としてのアンケート調査で行っている。後者は、北京パラリンピックの直後に日本障害者スポーツ協会が行った調査の4年度の状況を調査するものである。

こうした研究、調査を始めるに至った経緯は、財団のスタート以来続けているスポーツチャレンジ体験助成に、多くの障害者スポーツ競技者が応募して、採択された競技者がむしろ健常者以上にパラリンピック等の国際競技大会で活躍してくれ、同時に彼ら彼女らの競技環境が、健常者と比較して極めて厳しい状況であることを知ったことに加えて、国がスポーツ基本法やスポーツ基本計画の中で、障害者スポーツの普及と強化を健常者と同様に取り組むことを示したことにあった。そして少し調べてみると、障害者スポーツについては、現状についての客観的情報が健常者に比べて極めて少ないことも分かった。

ということで、YMFSがこうした情報を提供することで障害者スポーツの発展に貢献することは、公益財団法人としての役割であろうとの判断から、この事業を始めるに至ったのであった。大学調査の回収は終わり、競技団体からも回答が寄せられている時期で、現在は回答の集計と分析が進められている、あるいは進められようとしているところである。

前記のように法規上や政策上では健常者と障害者のスポーツの壁が取り払われ、両者が同等に扱われるようになったが、所管する省庁は健常者スポーツは文部科学省、障害者スポーツは厚生労働省と分かれている。文科省にも障害者スポーツの担当官が置かれたようだが、一体化するのにはまだまだ時間がかかるだろう。スポーツ庁(省)も構想はされているが、実現への道はそう平坦なものではないだろう。競技別の統括組織も両者が別になっている種目が大半であるというのが今の状況なのである。

バリアフリーという言葉があるが、健常者と障害者のスポーツの間には、ソフト面、ハード面などでさまざまなバリアが存在しているといわざるを得ない。そうしたバリアを崩していくには、まずは人の心、思いの中にあるバリアを取り去っていく必要があるだろう。この調査・研究の成果が、そうしたことに働きかける情報を提供することができることになればと思っている。

(このコラムは、平成25年2月に発行したYMFSスポーツチャレンジ助成会報誌Do the Challenge Vol.6に掲載された内容を転載したものです。)

プロフィール
浅見 俊雄(あさみ としお)

埼玉県出身。東京大学卒業。東京大学名誉教授・日本体育大学名誉教授。元国立スポーツ科学センター(JISS)センター長、日本サッカー協会顧問、アジアサッカー連盟 規律委員会・審判委員会 副委員長など。元YMFS理事・審査委員長・調査研究担当理事