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[Case27]障害を持った子どもたちの未来のために、集団・友情意識を養う一歩

提供教材:タグラグビーセット

山形県立鶴岡養護学校(山形県鶴岡市)

[Case27]障害を持った子どもたちの未来のために、集団・友情意識を養う一歩

2023年度のスポーツ教材の提供でタグラグビーセットが当選した山形県立鶴岡養護学校は、小学部から高等部までの知的障害を持った児童・生徒が通う特別支援学校です。この中で小学部4年生を担任する茂木大地先生は、チーム競技の一つタグラグビーを通してスポーツに親しみ、楽しむ機会を提供するとともに、子どもたちの将来を見据えて「集団・友情意識」を養うチャレンジを行っています。

Philosophy

仲間たちとの絆を育くむ

「子どもたちの実態によりますが」と前置きした上で茂木大地先生は、「基本的に小学部でのボール競技は、投げる、蹴る、カゴに入れるという個人競技をベースとし、連携したとしてもリレー形式が中心でチーム競技はあまり行うことはありません」と言います。

その理由として、障害によって体が小さい子どももいれば、薬の影響もあり肥満体質の子どももいるため、集団でのチーム競技には体格差によるリスクがあること。ルールの理解が進まず、技能の習得に時間かかかること。先生の人数によっては支援が行き届かないなどの理由で、実施が難しい状況があるからです。

しかし2023年度、タグラグビーセットが当選した鶴岡養護学校では中学部でタグラグビーを実施し、「ボールを投げる動作やキャッチする動作に上達が見られた」、「生徒の“できる”につながり、休み時間にも自主的にゲームを楽しむ生徒がいた」、という成果をあげました。

そして2024年度、「正式なルールで行うのは簡単ではありませんが、教員の工夫により小学部の子どもたちも使えるようにしたい」と考えたのが茂木先生でした。その狙いも明確で、子どもたちが年齢を重ねて学校を卒業した後に働くなど社会に出た時に備え、ゲーム性のあるスポーツを通じて仲間たちとの集団意識や友情意識を育む第一歩にしたいということでした。

「互いが名前を呼んで気づきを与え、ボールを渡すという行為を通じて関わりあい、仲間のことを意識できるようになってほしい!」と、茂木先生は大きな希望を描いたのです。

[Case27]障害を持った子どもたちの未来のために、集団・友情意識を養う一歩
Plan

めざせ、トライ! ~タグラグビーを楽しもう~

今回は小学部3・4年生の単元で実施。事前に練習を兼ねた転がしドッジボールで5時間、タグラグビーで5時間、合計10時間の計画としました。転がしドッジボールでは、友達の名前を呼んでボールを転がしたり渡したり、タグラグビーにつながる経験をして臨みました。

授業作りでは、事前に茂木先生が独自のルールを作り、実施する前に先生たちの協力を元に実践。その中で、「タグを取っての攻守交代は難しい」など、さまざまな意見を集約してルールを改善したものを、さらにもう一度、先生たちの協力により実施して授業に落とし込みました。こうして完成したのが以下の目標と単元計画です。

目標

  1. 教師の支援を受けながら、楽しくタグラグビーをする【知識・技能】
  2. ボールを使った運動やゲームに親しみ、その楽しさや感じたことを表現する【思考力・判断力・表現力等】
  3. 簡単なきまりを守り、教師や友達と安全に楽しくボールを使った運動やゲームをする【学びに向かう力・人間性等】
[Case27]障害を持った子どもたちの未来のために、集団・友情意識を養う一歩
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単元計画

時数主な活動
1タグ取りゲーム→ボールパス(歩いて、小走り)
※ボールパスは、手渡しor横投げ・前投げ
2タグ取りゲーム→ボールパス(歩いて、小走り)→試合3分2回
※ボールパスは、手渡しor横投げ・前投げ
3・4・5タグ取りゲーム→試合5分2回
Do

味方と対戦相手がいることを把握

ラグビーボールを初めて見る・触る子どもたちが多かったため、1-2時間目はラグビーボールに慣れることからスタート。ボールを使わない「タグ取りゲーム」と、対戦相手がいない味方だけの状況でボールを回してトライを目指すなど、タグラグビーの基本を身につけました。

3時間目以降は、子どもたちの実態に合わせた独自のルールにより、ボールを使用したクラス対抗のタグラグビーのゲームを実施しました。子どもたちは、一緒にゴールを目指す「味方」がいること、タグを取る「対戦相手」がいることを意識できるように、常に言葉をかけ取り組みました。

[Case27]障害を持った子どもたちの未来のために、集団・友情意識を養う一歩

タグ取りゲーム(独自ルール)

  • 攻守交代はなし(シンプル化)
  • 競技エリアをスタート、ディフェンス、ゴールという3つのゾーンに分割(シンプル化)
  • オフェンス:タグを取られてもゴールに向かう(運動量確保)
  • オフェンス:全員がタグを取られたら再挑戦
  • ディフェンス:ディフェンスゾーンのみでタグを取る(シンプル化)

タグラグビー(独自ルール)

  • タグ取りゲームと基本ルールは同様
  • オフェンス:スローフォワードOK(シンプル化)
  • オフェンス:ボールを持ったら必ず一回は味方にパス(仲間・集団意識の醸成)
  • ディフェンス:ボールを持っていない児童のタグを取っても良い(シンプル化、運動量の確保)
[Case27]障害を持った子どもたちの未来のために、集団・友情意識を養う一歩
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Check

攻めも守りも、好プレーの児童を全員で称賛

現在の4年生は、3年生の時にしっぽとりゲームの経験をした上でタグラグビーにチャレンジしているので、子どもたちも見通しを持ってできていたということです。今年はラグビーボールを使用しましたが、子どもたちはこれまで使ったことのない用具に興味を持ち、タグを取られることに関心がなかったところから、取られないように守る意識が働くなど、成長を見せてくれているそうです。

一方ゲームなので勝ち負けが生じますが、今回は初めてタグラグビーを実施したことから、「ディフェンスをかいくぐってトライした子どもとチーム、タグを取った子どもとチームともに、やる気を維持し体を動かすことが楽しいと思ってもらえるよう勝敗に関係なく称賛したことで、みんなが嬉しそうな表情を見せてくれました。称賛する心は子どもたちの中にも芽生え、“●●さんは●個取れてすごいね!”という形で仲間を認め、見学している子どもの中には“がんばれ!”と応援する様子もあり、集団における仲間との関わりも育まれています。

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Action

校内でいつでも使える、財産として残す

「当初は通常のルール通りにボールを持っている対戦相手のタグをとるようにしたいと思っていましたが、実際は厳しい状況でした。しかし子どもたちも経験を積んでいるので、“ボールを持っている人のタグを取ってみよう”など、スモールステップで本来のゲームに近づけていきたい」という茂木先生。

さらに今回の授業内容は、学校でPDCAを回し成果だけでなく課題も確認。子どもたちの運動機会として、集団意識を醸成する機会として改善しアレンジを加え、一つの財産(教材)として残していくそうです。

また系統的な学びとして、小学部での経験が中学部、高等部でのより専門的な技能向上に生きてくることもあると考えられており、鶴岡養護学校にタグラグビーが根付き、さまざまな効果を生み出すことが期待されます。

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(2024年12月取材)