提供教材:指導サポート付きタグラグビーセット
西郷小学校(静岡県掛川市)
互いの長所を見つけ声を掛けながら協力し合う。タグラグビーを通じクラスの輪を育みたい
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タグラグビーが徐々に普及し始めている一方で、指導方法・経験はいまだ課題が多いという指導者の声を受け、当財団では本年度よりヤマハ発動機(株)スポーツ推進グループと連携して、近隣市町の小学校を対象に指導サポート付きのタグラグビー教材の提供を開始しました。今回は、そのうちの一校、静岡県掛川市立西郷小学校をご紹介します。
Philosophy: 2019年ワールドカップ日本開催に向けてタグラグビー導入の好機到来
2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップの会場誘致をめざし、小学校にタグラグビーの導入を進めるなど、ラグビーの普及活動を積極的に推進している静岡県掛川市。その市内の一校・西郷小学校にて、企業勤めから転身し、この4月から教師として教壇に立つようになったのが、ラグビー経験のある櫻井勇希先生です。さまざまな縁とタイミングが重なり合って、クラブ活動や体育の授業にタグラグビーを採り入れるようになった西郷小の取り組みを追いました。
Plan: タグラグビーの楽しさを伝えるために指導方法も遊び要素満載
小学校の先生として、まだ右も左も分からないような赴任直後の櫻井先生に「こういう案内があるよ」と校長先生が手渡してくれたのが、当財団の「指導サポート付きタグラグビー教材提供の案内」だったと言います。
「実は高校・大学とラグビーに打ち込んだ経験があり、慣れ親しみ自信を持って取り組める領域でありました。何より自分がラグビーを通じて得たものが多く、いつの日か子どもたちにラグビーを教えることができればいいなぁと漠然とした夢を持っていたんです」と櫻井先生。
そこで早速教材提供に申請。ご自身が受け持つ5年生の体育の授業に1月からタグラグビーを導入することを目標に、まず教員向け指導を7月に受講。西郷小学校の先生15人が参加し、タグラグビーの概要から、ルールに練習方法、試合運びができるまでの指導方法などの講習を受けられたそうです。
「教えてくださった方が元ラグビー選手で、分かりやすく、ものすごく楽しい講習でした。参加した他の先生たちもおもしろがってくれましたし、ラグビーの楽しさを活かした指導方法で、教わったレクリエーションのひとつを早速体育の授業に取り入れた先生もいたくらいです」(櫻井先生)
![色々な巡り合わせから30歳を機に教職に就くことを決心したという櫻井勇希先生。「ラグビーに欠かせないチームワークは学校の教育活動にも大切な要素」](/project/support/supply/report/case_10/images/02_thum.jpg)
![指導サポート付きのタグラグビー教材提供では、ラグビートップリーグ・ヤマハ発動機ジュビロで活躍していた選手OBがヤマハ発動機スポーツ推進グループのタグラグビー普及担当として指導に出向く。教材を用い、教員向けと児童向けと提供先の状況に合わせて行なわれる](/project/support/supply/report/case_10/images/03_thum.jpg)
![7月に西郷小学校で教員向け指導が実施された際、ある先生が、指導内容を細かく丁寧にメモ。「このノウハウは西郷小学校の財産です」と櫻井先生](/project/support/supply/report/case_10/images/04_thum.jpg)
Do: クラブ活動ではタグの楽しさ訴求を最優先
授業に先立ち、櫻井先生が指導する4・5・6年生による放課後のクラブ活動・ボールゲームクラブでタグラグビーを3回行なうことに。初回、指導者向けの講習で教わったというボールを使ったレクリーエション「ダルマさんが転んだゲーム」や「円陣パス」、タグを使ったレクリーエション「牛馬ゲーム」に「手つなぎタグ」などを実施したそうです。
「細かいルールよりもタグラグビーは楽しいスポーツであることを体感してもらうことを優先しています。野球やサッカーは経験値のある子とない子との差が大きいですが、タグラグビーはほとんどの子どもにとって初めてのスポーツ。鬼ごっこの延長のような内容で高度なテクニックがなくても楽しめる特徴も手伝って、みんな楽しんでくれているようです。タグも球体でないボールも珍しく、タグを取ったら大きな声で“タグ!”と言うのですが、“タグ!”“タグ!”“タグ!”と大きな声ではしゃいでいますよ」
![チームごとに手をつなぎ、鬼である櫻井先生がボールをから手を離している間だけ移動できる「ダルマさんが転んだゲーム」。チームで協力し合う大切さを学ばせる](/project/support/supply/report/case_10/images/05_thum.jpg)
![「ボールは赤ちゃんや卵のように相手が取りやすいようやさしく渡して」と指導。ボールを雑に扱おうものなら「赤ちゃんがかわいそう!」の声が児童から飛び出る](/project/support/supply/report/case_10/images/06_thum.jpg)
![「牛」と「馬」チームに分かれ、呼ばれた方のチームはタグを取られないようにダッシュして逃げる「牛馬ゲーム」。「う、う、う、うし!」とじらしたり、チームを入れ替えたりしながら子どもたちの集中力を維持する工夫も](/project/support/supply/report/case_10/images/07_thum.jpg)
Check: 体育の授業ではチームワークでの達成感を教授
来年1月から5年生の体育の授業にタグラグビーを採り入れるにあたって櫻井先生は、「ゴール型ボールゲームの授業としてタグラグビーを行なう予定なので、クラブ活動とは異なり、ただ楽しいだけでなく、ある程度ルールを理解し作戦を立てさせなければなりません。タグラグビーのルールはそう簡単ではありませんので、そこそこ自由にプレーさせながら、前に投げてはいけないなど、ひとつずつ制約を設けて分かりやすく楽しくルールの理解に務めたい」と考えているそうです。
さらに「ある競技が嫌いになる理由はいくつかあります。例えばタグラグビーの場合、タグを取られてばかりでは楽しめないという児童がいるかもしれません。でも、タグを取られる=ボールを他の人に回すことができる、という捉え方が可能なんです。つまり全員がボールに触れられる球技であり、声を出し合いながらチーム一丸となって点を取る、チームワークが機能するスポーツ、それがタグラグビーなんです。できることをほめ、できなかったことはどうやって補完し合うのか。互いに良いところを認め合い協力し合ってこそ成り立つラグビーの魅力を授業を通して伝えたい。チームで何かを成し遂げる達成感は、クラスでの班の活動にも有効でしょうし、ひいては学校全体の調和にも結びつくと期待しています。体育の授業では、男女差が出にくいと思うので、女子児童の活躍が楽しみですね」と櫻井先生は相好を崩します。
Action: サッカーに次ぐラグビー王国・静岡を目指して
まだまだ夢のまた夢ですが、と前置きして櫻井先生は将来目指す姿をお話くださいました。
「ラグビーをサッカーに次ぐ静岡県を代表するスポーツへと普及させたいですね。小学生のタグラグビーを地元の高校生のラグビー部員が指導する、児童たちはいつか○○高校に行って、自分もあんな風になりたいと憧れる。高校生は高校生で、地元の大学生と一緒に練習に励み、大学生はプロの選手を目指そうと奮闘する。ラグビーを通じて他世代と交流することで、ラグビー文化を醸成し、ラグビー競技人口の裾野拡大にも結びつけばいいなぁと思い描いています。ラグビーは人間的にも成長するスポーツと自身の経験から身を以て体感していますので、まずは小さな第一歩ですが、子どもたちがタグラグビーに興味を持ち楽しめる授業から始めていきますよ」
![積極的に声を掛け合うことで協調性が育まれると櫻井先生。「体育の授業でも楽しさを忘れずに指導していきたい」](/project/support/supply/report/case_10/images/08_thum.jpg)
![課外クラブのボールクラブでは部員を4つのグループに分けて固定。6年生のリーダーを筆頭にタグの準備をしたり、順に並んだりと、チームとして行動させ、チームワークを高め機能させている](/project/support/supply/report/case_10/images/09_thum.jpg)
(2014年11月取材)