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[Case24]「ボッチャ」を軸とした授業と地域交流で、児童へスポーツの意欲や関心を高める

提供教材:ボッチャ

埼玉県久喜市立本町小学校(埼玉県久喜市)

全校児童数270名程(特別支援学級含む)の小学校。生涯スポーツへの誘いという旗の下に児童も教員もそして地域コミュニティも巻き込み、ある資源をフル活用しながら学校教育を進めている。本町小学校地区コミュニティ協議会と実施した「ボッチャ交流会」では、個々の児童に応じた学びが得られたとのことで、今後も継続的取り組みを予定されている。

今回の実地調査の目的はボッチャボールを贈呈した学校が、どのようにボールを使い、どのような効果があったのか、どのような工夫をしていたのかを知ることである。

贈呈した各学校に対する事前のアンケート調査から、①4年生の福祉の学習では、「体験を通して、ボッチャが障害の有無や性別、年齢を超えて幅広く親しめるスポーツであることに気づくことができた。加えて、体が不自由な人でも、驚くような素晴らしいプレーができるなど、体の不自由な人への見方が変わった。」また、②地域との交流行事では、「ボッチャを介することでよりスムーズにコミュニケーションを取ることができ、絆が深まった。」さらに、③特別支援学級においては、「ルールの理解が深まると共に投球の技能が高まり、スポーツへの関心意欲が高まった。」などの多様な効果がみられていたことが書かれていたことから、実際の取り組みを知るために実地調査をさせていただくことにした。

学校の特色

久喜市立本町小学校は、全校児童274名、1学年が1〜2学級と特別支援学級(知的、自閉・情緒)が2学級である。校内テーマとして「生涯にわたって健康を保持増進し、豊かなスポーツライフを実現する資質・能力を育成するための小学校体育」を掲げており、児童に「多様なスポーツへの関わりや親しみ」を培うことに創意工夫を凝らしている。また、地域コミュニティとの連携が特徴であり、特に本町小学校地区コミュニティ協議会とは「子ども祭り」「昔遊びのお手伝い」「防災訓練」「除草・樹木の剪定作業」など多様な関わりを持っている。

お話を伺った本町小学校の大森校長先生(左)、栗城教務主任(右)

4年生の総合的な学習の時間(福祉領域)

4年生の総合的な学習の時間(福祉領域)でボッチャを活用できるのではないか、また「生涯スポーツ」の切り口としてボッチャが活用できると思ったことから、ヤマハ発動機スポーツ振興財団のボッチャ用具頒布事業に応募した。ボッチャボールが届く以前は、校内にはボッチャはなく、また予算化という面で購入には難しさがあった。

東京オリンピック・パラリンピックの時期でもあり、ボッチャの認知度も高まってきた。授業を担当した栗城先生も本企画以前はボッチャの経験がなく、夏休みに職員レクリエーションでボッチャを体験、児童がただ楽しむだけでなく、どの程度までルールを噛み砕きながらやれば良いかなども考えながら実施した。福祉の単元としてボッチャを用いることから、競技のルールをそのまま使用するのではなく、児童の実態に合わせてルール等を変更していくことにした。

総合的な学習の時間(福祉領域)におけるねらいは、ボッチャを軸とし、卓球やシッティングバレーなどのパラスポーツを体験することによって、「できる」というポジティブイメージを引き出すこととした。その理由として、白杖の体験や体の不自由さの体験を軸とした「体の不自由な人を知ろう」という展開では「大変」「かわいそう」という一面的な捉え方になりがちだったことがある。そのため、まず児童がボッチャを行い、スポーツとしての面白さ、何ができるか、技術的な特徴などを体験的に学習した。次に振り返りとして、東京パラリンピック金メダリストの杉村選手の映像を見ることで、杉村選手の握力(5kg)や動きの特性(脳性まひ)とボッチャのパフォーマンスを自身のボッチャ経験に重ね合わせることで、児童の身体障害がある人への見方や捉え方が変わった。一連の授業を経た児童からは、「自分でやると難しい」「体が不自由だとスポーツはできないと思っていた」から「やり方次第で、ルールの工夫次第でこんなスポーツができる」「スポーツを通して楽しんだり、人生の中で楽しいことを見つけることができる」という捉え方の広がりを感じられる反応があった。

ボッチャ体験2時間の授業内変化は、児童のプレースタイルが時間経過とともに変わっていったことである。負けそうな時にジャックアウトを狙う、投球後にチームの児童らが自然とボールの近くに寄って作戦会議をするなどの様子が見られた。また、普段は運動が得意でない児童も、スーパープレーを連発してみんなから拍手をもらったり、その児童がガッツポーズをするなど、自信にもつながる成功体験を感じられる機会になった。

通常の学級においてボッチャを教材とした授業をするには1セットでは足りず、児童の待機時間が増えることから、活動を保障するためにも複数セットあるとありがたい。特別支援学級では、最大で8名なので1セットでも対応できる。コートは、ラインテープを貼るのではなく、コーンやマーカーを置くことで簡易化した形で実施した。

パラスポーツ体験は、「できる」というポジティブイメージを引き出すことにつながる。運動が苦手の児童にも、自信につながる成功体験を感じられる機会になる。

地域との交流行事

本町小学校には、本町小地区コミュニティ協議会(通称:コミュ協)という地域組織があり、小学校と有機的な連携のもとに様々な交流をしている。特に「本町小まつり」は本町小地区コミュニティ協議会主催の小学校体育館を会場とした行事で、毎年9月の第2日曜に開催してきた。射的やビンゴ、ストラックアウトなどのコーナーで遊び、景品も準備されるなど300人程度が集まる盛大なお祭りであった。しかしコロナ禍で祭の開催が制限され、コミュニティ活動として何かできるものはないかと探っていた。人数を制限する中でもできるものとして、大森校長がボッチャを提案したところ採用となった。

コロナ対策として参加者を事前登録50名程度とし、児童も含めた多様な年代でチームを作る形での「ボッチャ交流会」とした。準備の過程で、コミュニティ協議会が久喜市ボッチャ協会の存在を知り、用具の貸し出しと審判の派遣を受けることができた。交流会では、高齢者から児童まで幅広い年代で構成されるチーム特性、さらには連発するスーパープレーなどでの盛り上がりもあり、交流会後にボッチャの可能性を強く感じたコミュニティ協議会がボッチャセットを2セット購入した。また、参加者の実態に合わせたルールの設定などにも対応できるよう、今年度のボッチャ交流会では自前で審判もやることを計画している。また、近隣のコミュニティからボッチャセットの貸し出し依頼も来ているとのことである。

特別支援学級

特別支援学級では、9名の児童が自立活動の中でボッチャを行った。ボッチャは一定の期間継続して行い、教室内にコートテープを貼ったままにした。特別支援学級では、ボッチャを用いることを通して、「ルールを覚える」「仲間と楽しむ体験をする」「点数を数える」「ボッチャを通して自分の得意なこと、他児の得意なことに気づく」という観点から個別の課題を支援することにつながる取り組みになった。結果として、個々の児童に応じた学びが得られた。

学校を訪問しての感想

本町小学校は、生涯スポーツへの誘いという旗の下に児童も教員もそして地域コミュニティも巻き込み、ある資源をフル活用しながら学校教育を進めているという印象を強く受けた。大森校長の発言からは、「生涯にわたって健康を保持増進し、豊かなスポーツライフを実現する資質・能力を育成するための小学校体育」での活動が、本来想定していた内容から大きく制限されたままになっていることへのもどかしさも伝わってきた。また、栗城教務主任の「コロナ禍なので、体育館を自由に開放したり、用具を自由に使って良いという形にはできていない。」という説明からも、コロナの影響はどの学校も抱える課題であることを再認識した。その中でも、「することを前提にどうしたらできるか」という発想からボッチャを地域交流に活用する提案、それを形にした地域コミュニティとの有機的な連携、結果としてボッチャセットの追加購入につながったことなど、新たな地域間連携の広がりとつながりを感じさせるものでもあった。そして、エピソードとしてお聞きした「ボッチャを体験したことで、クリスマスプレゼントに『ボッチャセット』を頼むと話していた児童が複数いた」ということからも、ボッチャを軸とした総合的な学習の時間は、児童にとって楽しい活動であったことがうかがわれる。

特別支援学級の児童も積極的にボッチャに向き合ったようである。まだ、通常学級とのボッチャ交流は実施していないとのことなので、今後は交流学級などでもボッチャを軸とした教育活動が展開されることを期待している。

お忙しい中、長い時間お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

筑波大学体育系教授 齊藤まゆみ

(2022年11月取材)