提供教材:ボッチャ
山形県立山形養護学校(山形県山形市)
病弱虚弱の児童生徒が学ぶ特別支援学校。病弱だからできない、ではなく、病弱でもできたという満足感を一人でも多く味わってほしいと思いボッチャに取り組み、子どもたちの状況を考慮してプログラムを工夫。普段、気持ちを表にあまり出さない生徒もハイタッチをするなど気持ちを表したり、ボッチャに参加することを励みに登校する生徒も出てきた。
学校の特色
山形養護学校は病弱教育の特別支援学校であり、隣接する山形病院と連携して教育を進めている。現在、山形病院に入院して教育を受けている児童生徒はいない。小学部13名、中学部9名、高等部16名計38人が在籍している。学級は計16学級あり、教育課程は単一障がい学級、重複障がい学級、訪問教育の3種類である。てんかんや筋ジストロフィーなど、慢性疾患に対応した学校であるが、20年ほど前からは精神疾患のある子どもや重度・重複障がいのある児童生徒の割合が高くなってきている。部活動は実施していない。
ボッチャボールを使っての活動
県から障害者スポーツ関連の用具が配布されるが、ボッチャの道具はなかった。そのためヤマハ発動機スポーツ振興財団のボッチャ用具頒布事業に応募した。ボッチャボールが届く以前から当校では教員手作りのボールを使ってボッチャを体験する授業を実施していた。
ボッチャには単一障がい学級、および重複障がい学級の子どもたちが主に参加していた。小学部では「あそび」の位置づけで実施、中学部では保健体育、および、総合的な学習の時間に実施し、高等部では体育や自立活動の時間で実施した。いずれも授業の中での実施であった。
当初は近隣の小中学校とボッチャを通しての交流なども構想していたが、コロナ感染拡大の影響により実施できず、校内での交流にとどまっている。
「ボッチャはルールがシンプルでありながら戦術面では奥深い。実施する子どもの実態に応じてルールを変えて楽しめるところがよいと考えている。例えば知的障害のある子どもであればジャックボールに近づけられれば楽しいし、知的障害のない子どもであれば、作戦、戦術を考える楽しさがある。重い肢体不自由の子どもであってもランプなどを使って参加することができる。(自分で投げられない子どもが使うランプは教員が段ボールなどで製作した。)このように、どのような子どもであっても参加できる点がボッチャの利点である。
活動の中では子どもたちの良かったところを教員が評価し、褒める。そうすると子どもたちもうれしくなり、ボッチャをまたやりたくなるという好循環がみられた。欠席しがちな子ども、体を動かすのが好きではない子どもも、ボッチャの時には登校し、楽しんでいた。昨年度はパラリンピックもあり、日本チームの成績もメダルを取るなど活躍したことからその分、子どもたちの関心は強くなったと思われる。また誰しもこれまで経験したことがないスポーツでみんな同じスタートラインに立てたことも良かった。
各学部での取り組み・子どもたちの変化
小学部
単一障がい学級と重複学級の児童4人が参加した。初めにボッチャやパラリンピックに関する情報などを子どもたちに伝え、ボッチャに対する関心を高めた。その後、実際にボッチャを体験した。全員でボッチャを楽しむことができるようルールを単純化させるなど工夫して実施した。具体的には的あてゲーム的な内容で手作りの的(写真参照)を使ってみんなで楽しんだ。
集団の中での活動が苦手な児童もいたが参加できた。そのことがみんなでできるきっかけになった。後半では「ナイス!」や「ドンマイ!」といった声掛けもできるようになった。
得点(数字)の数え方など、算数の内容を盛り込んで実施することができた。二人一組で実施したため、勝っても負けても個々人のプレーの結果とならなかったことも良かった。
一昨年までは、教員が手作りしたボールでボッチャを体験していた。本物のボッチャボールで活動できるようになり本当に良かった。
中学部
男子2名(単一障がい学級)で実施した。総合的な学習の時間にボッチャのことを動画で勉強すると関心が高まった。動画で見た技を自分たちもやってみたいと思うようになり、モチベーションが上がった。教師と生徒が二人で1チームとなりペア戦でゲームを実施した。生徒と教師で話し合い、作戦を考えながらゲームを進めた。コートの中に入って作戦会議ができるのも良かった。授業が進むにつれ、だんだんと生徒が主体的に作戦を考えるようになってきた。最初のころは、勝った負けただけに関心が集まっていたが、後半はお互いの作戦を評価できるようになってきた。さらに、審判もできるようになった。
今年は運動会でもボッチャを実施した。その際、保護者が、様々な方法で参加できることを知り、ボッチャに興味を持つようになった。
高等部
単一障がい学級の生徒も重複障がいの生徒も、体育と自立活動でボッチャを実施した。まず、動画でボッチャを学んだ。パラリンピックのテレビ放送なども視聴して興味を高め、その後ボールを使って実際の活動に入った。
発達障害のある生徒は勝ち負けに左右され、こだわりやすいこともあるが、生徒同士で作戦を考える時間を設定することで、徐々にコミュニケーションが取れるようになり、負けても笑顔で終われるようになった。いつもは活動に参加しない生徒も、ボッチャのボールを投げることは好きな様子で参加してくれた。ボッチャはジャックボールに近づけるというルールのわかりやすさが魅力であり、どの生徒も参加しやすいのではないかと感じた。
ボッチャのいいところ
今後の取り組みについて
学校を訪問しての感想
教頭先生、ボッチャを担当した門馬先生、新関先生、大泉先生それぞれ非常に熱心な取り組みをされていることが言葉の節々から伝わってきた。また、子どもたちが少しでも成長するように、様々な工夫をされていることがわかった。教材としてのボッチャの特徴、利点をよく考えておられ、教材研究の深さに感心すると同時にそんな先生に指導してもらっている児童生徒さんたちは幸せだなと思った。
新関先生は特にボッチャに詳しく、お伺いしたところ、大学時代は日本ボッチャ協会、元日本代表監督の村上さんのゼミにいらしたということだった。
なかなか公費で買うことができない高額なボッチャボールがもらえることに感謝してくださっていると同時に、4人の先生ともボールを大切に使っておられることがわかり、とてもうれしく感じた。
先生方のお話を聞く中で筆者自身これまで気が付かなかったボッチャの特性や良いところがわかりとても勉強になった。これからも様々な工夫をして、子どもたちに楽しい経験と成長のきっかけをたくさん届けてほしいと思った。
お忙しい中、長い時間お話を聞かせていただき、ありがとうございました。
日本福祉大学スポーツ科学部教授 藤田紀昭
(2022年11月取材)