提供教材:タグラグビーセット
宮城県栗原市立志波姫小学校(宮城県栗原市)
当財団の「2022年度スポーツ教材の提供」にて、タグラグビーセットの提供を受けた栗原市立志波姫小学校。教材提供への申請窓口を務めてくださった山内孝一先生から、体育科の授業公開でタグラグビーを積極的に取り上げるなど、タグラグビーを通して子どもたちがスポーツを楽しみ、好きになるような活動に取り組んでいるとの報告を受け、訪ねました。
運動が苦手な子どもを少しでも減らしたい
運動を苦手とする子どもたちを含め、体育の授業を通じ、少しでも子どもたちにスポーツを好きになってもらうことを目指してきた山内先生。もともとラグビー経験者であり、チームが一致団結してトライを目指し、試合後はノーサイドの精神で互いを称え合うラグビーの魅力を実感していました。加えてラグビーのような身体接触がなく、ボールをもって前に走るというシンプルなタグラグビーの特徴から、かねてより体育の授業にタグラグビーを取り入れたいと考えていたそうです。
「これまで赴任してきた学校にはタグラグビーの教材がなく、なかなか実施できなかった」と言う山内先生は、当財団の「スポーツ教材の提供」の事業を知り、早速応募。当選を受けて学校に教材が届くや、5年生の児童を対象に運動の得手不得手を越えて学級の全員がチームの一員として活躍できるようなカリキュラムを作成・実施したのです。
やさしく、楽しく。
ゴール型のボール運動としてタグラグビーを体育で行うにあたり、山内先生が重視したことは、“やさしく、楽しく”でした。
「日頃から個別最適化された授業を目指しており、どの児童も十分に運動を楽しみ、大いに活躍できるよう“やさしいゲームにする4つの視点”、①技能やルールがやさしい、②状況判断がやさしい、③プレッシャーが少ない、④道具や施設がやさしい、を常に意識しています」(山内先生)
またタグラグビーの特性を活用し、仲間意識を高め、協力することの大切さについて、クラスのみんなで考えていきたいとの想いもありました。加えて児童1人に1台タブレットが導入された年度とも重なって、体育の授業でもタブレットを活用できないか、と考えたそうです。
得意を活かして全員が活躍。互いを認め合い楽しめる環境づくり
タグラグビーは、競技経験者が少なくレベル差が出にくいこと、またボールを前にパスできないなどの特性から、比較的全員が活躍しやすいスポーツと言われています。それでもクラスのみんながもっと活躍できるよう、そして仲間意識を高め、協力することの大切さについて、みんなで考えていけるようにと山内先生が実践したポイントが以下の4項目でした。
- オリジナルルールの策定
- 役割分担
- “きょうだいチーム”の設定
- 作戦タイムを設ける
❶オリジナルルール策定
最初は、タグラグビーの基本である「はじめの5つのルール」を設定。授業を進めていくなかで、みんながもっと楽しくプレーできるよう、子どもたちと一緒にルールに工夫を加えていきました。
例えば、「全員にパスを回して得点したら2点入る」、「トライした人は控えの選手と交代する」といった具合です。
こうしたルールにより、運動が得意な子どもは積極的にボールを回して、仲間にトライを決めさせることで、長く試合に参加できるし、運動が苦手な子どもは、トライするチャンスをもらうことで、チームに貢献でき、達成感を味わい、身体を動かすことの喜びを実感できるのです。
❷役割分担
チームの一員としての使命感、自己有用感をもたせようと、キャプテン、副キャプテン、得点係、動画係、記録係など、チーム内で役割を明確にしたそうです。
さらにチーム名を決めたり、マスコットキャラクターを考えさせたりすることで、自分のチームを大切にしていこうとする気持ちも高めました。なかでも、運動は少し苦手でもイラストを描くことが得意な子どもにとって、自分が描いたイラストがチームのマスコットキャラクターに採用されることで、運動に対してのやる気と仲間意識が高まる効果があったと山内先生は話します。
❸“きょうだいチーム”の設定
さらに一緒に練習に励み、お互いにアドバイスしたり、相談しあったりする“きょうだいチーム”を設定。互いのチームが撮影した動画で動きを見ながら、良いプレーについて褒め合ったり、動きのポイントを教え合ったり、作戦の効果を確認し合ったりする姿が見受けられるようになったそうです。
時折、得点係、動画係、記録係など、同じ役割の児童同士で話し合わせることで、互いに高め合う良好な関係を築くことができたとも言います。
❹作戦タイムを設ける
ある程度ゲームができるようになったら、「ゲーム→作戦タイム→ゲーム→振り返る」という流れで、自分たちの課題を認識し合い、チームプレーを意識させる指導を行ったそうです。
「自分たちが得点するためにはどうしたらいいのか、動きを確認したり、作戦を考えたりと意見を話し合える場を設けることで、チームの団結力を高めていきました」(山内先生)
また、授業後の振り返りをタブレットで記録するほか、作戦や動き方を考えるための学習シートをタブレットに配布。体育の授業時間外に自主的に作戦や動き方について考える児童が増えたそうです。
学級づくりに役立つタグラグビー
実際にタグラグビーを授業に取り入れてみて、「運動の楽しみを実感できる取組を心がけた成果か、運動を苦手とする子や女の子がとても楽しんでいたことが印象的でした」と山内先生は振り返ります。
そして、「“きょうだいチーム”をつくり、子どもたちが互いに教え合い、認め合い、考えを共有し合う場を設けたことで徐々にチームの結束が強まっていくことを子どもたちも体感できたようです。また、それぞれが自分の役割を担ったことで責任感が生まれ、チームの一員として自覚をもって一生懸命に取り組む姿が見られるようにもなりました。さらに自分たちは負けてしまったけれど、相手チームがとてもいい動きをしていた時など、対戦チームの活躍を讃えられるようにもなったんです」
そうした児童同士の思いやりの気持ちが高まり、良好な人間関係づくりができたことでクラスにはいつも笑顔が絶えず、山内先生は「タグラグビーは学級づくりにも役立つスポーツですね」とまで言います。
さらに元々、志波姫小学校では学童相撲大会に出場して好成績を収める児童がいるなど、体育的活動が活発であったこともあって、体育の授業にとどまらず、子どもたちの希望で全国小学生タグラグビー大会宮城県予選に参加するほど、タグラグビーに夢中になったそうです。
「クラブチームとして日頃からタグラグビーに励んでいる子どもたちとの勝負でしたので、1勝を目標に参加したものの残念ながら叶わず。しかしそこで諦めることなく、改めて2023年に再チャレンジしたいと言う声が子どもたちからたくさん上がってきたんです。今は、とにかく1勝する!を目指してがんばっています」(山内先生)
実践的なルールへの変更、そして誰でも指導可能な内容へ
初めてタグラグビーに挑戦した2022年度は、とにかく楽しく、みんなが活躍できることを主体に取り組んできた志波姫小学校。タグラグビーの授業が2年目となる2023年、6年生は「全国小学生タグラグビー大会宮城県予選で1勝する」を目標に活動しているため、ルールもみんなが活躍できるオリジナルルールではなく、より競技に即したものへと方向転換しました。
また山内先生は、体育の各単元の指導用動画を作成しており、今後タグラグビー用の動画も準備する予定と言います。
「ラグビー経験者だからタグラグビーの指導ができるのではないか、と指摘されることもありますが、まずは、タグ取りゲームから始まって、パス回し、攻撃2人に守備1人の2対1での練習など、スモールステップで技能を高め、ルールへの理解を深めながら、子どもたちの状況に合わせてやさしく、楽しいゲームにしていくと良いのではないでしょうか?
特にタグを取られることは悪いことでないことを子どもたちに徹底すると、誰もが楽しく参加できると思います。タグを取られたからこそ、パスを回して前に進めますからね」
志波姫小学校ではタグラグビーへの理解があり、この先もタグラグビーの授業はしっかり継続されていきそうです。
タグラグビーに取り組んだ児童の感想
6年生・堀江明日香さん
みんなとの仲が深まったり、作戦を考え、それが試合で実行できるところがタグの楽しさです。昨年につづき、全国小学生タグラグビー大会宮城県予選に挑戦しますが、まだ練習が足りていないと思うので、一つでも多く勝てるよう、みんなとたくさん練習し、コミュニケーションを図っていきたいです。がんばります。
6年生・田中 優丞さん
タグラグビーの好きなところは、タグを取ってからパスをするので安全にプレーできるし、トライできるとうれしい気分になれるところです。他の競技と違ってみんながそんなにタグラグビーのことを知らなかったので、最初からみんなで一緒に練習したり、作戦を立てたりして、みんなで喜びを分かち合うことができました。
対戦相手がどこにいるかを確認してから、味方にパスをするところは、瞬間に考えなければならないので少し難しいですが、それが上手くできるとうれしいです。
タグラグビー大会宮城県予選に向けて、みんなともっと練習して、作戦も立てて、その作戦を実行に移せるようになりたいです。
学校を訪問して
5年生の時に初めてタグラグビーに触れ、今年でタグラグビーの授業2シーズン目となる6年生の授業を拝見しました。
体育に限らず、授業の内容に興味をもってクラス全員が積極的に参加する環境を作るのは容易ではないと言われますが、授業の45分間、準備から片付けまで、子どもたちが自分の役割をきちんと理解して自主的にテキパキ動き、みんなで楽しんでいる姿が印象的でした。
事前に山内先生から「子どもたちにスポーツを好きになってもらい、生涯を通してスポーツを楽しむ基礎つくりを目指している」と伺っていた通り、それが良く考えられ、実践されていました。
山内先生が中心となって、隣接する幼稚園、中学校とも連携し、体育の授業について、お互いに情報共有や交流するプロジェクトがあるそうですが、タグラグビーの授業をきっかけに、この子どもたちがスポーツを好きになり、この先もずっとスポーツを楽しんでくれることを期待しています。
事務局
(2023年11月取材)