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[Case25]高齢化地域の小規模校。障害者の協力で障害理解と地域交流を促進

提供教材:ボッチャ

高知県中土佐町立上ノ加江小学校(高知県中土佐町)

高齢化地域に位置する生徒数30名弱の小学校。町内の社会福祉協議会や地域活動支援センターに集う障害者との協働でふれあい体験会の開催、障害理解と地域交流を促進。誰もが楽しめるスポーツであることを知ったことにより、雨の日の休み時間では、中学年を中心にボッチャで楽しむ姿が見られるようになっている。

わかりやすくボッチャルールの説明をしていただきました。「ルールは簡単だね」

今回の実地調査の目的はボッチャボールを贈呈し学校が、どのようにボールを使い、どのような効果があったのか、どのような工夫をしていたのかを知ることである。

贈呈した各学校に対する事前のアンケート調査から、高齢化の進む中土佐町(人口約6,164人、65歳以上3,032人)において、町の社会福祉協議会と連携し、地域活動支援センター「つどい処」に集う障害者からボッチャを教えてもらいながら、障害について学ぶと同時に、地域交流の手段としようとした点が特徴的なことから、実地調査を行った。

地域活動支援センター「つどい処」

障害がある人を対象として、創作活動、生産活動、地域との交流促進などの機会を提供する支援機関。今回のボッチャ体験にあたっては、この「つどい処」を利用する方で、『ワンチーム(障害理解の啓発を目的に活動をするグループ)』のメンバーが指導された。

学校の特色

生徒数23名(1年:5人、2年:3人、3年:3人、4年:2人、5年:5人、6年:5人)の極小規模校である。体を動かすことが好きな児童は多いが、運動場は狭く(運動場の斜めを使って何とか50mの直線路ができる程度)思い切りボールを蹴ったり投げたりすることができない環境である(学校が高台のため、ボールがフェンスを越してしまうと下の方まで落ちる)。1・2年生が一つのクラス、3・4年生が一つのクラス、5・6年生が一つのクラスとなった完全複式学級である。

ほとんどの授業は2学年が一緒に実施している。体育では陸上や体操などの個人競技の運動は苦労なく実施できるが、サッカーなどのチームスポーツのゲーム形式での活動は難しく、ソフトバレー、バスケットボールなどを教員も参加する形で実施している。

近年、上ノ加江中学校は閉校となったため、小学校卒業したのち、中学校は隣の地区の久礼中学校にスクールバスで通うことになる。

ボッチャボールを使っての活動

中土佐町社会福祉協議会(以下、社協)、地域活動支援センターの方々と連携、協力して、本校の中学年(昨年度の3・4年生の7名)が、ボッチャの行い方を教えていただき、ともに楽しみながら障害者理解を深めることを目的として、総合的な学習の一環として実施した。

社協は中土佐町の小中学校の福祉教育の年間計画の中に、当該小学校と福祉関係組織との交流を位置づけ、計画的に障害者施設や高齢者施設との交流を行っている。

ボッチャは障害の有無に関係なく誰でもできるスポーツで、地域活動支援センターでもすでに取り組んでいる競技でもあった。そこで、福祉教育の一環として小学生と障害者施設、障害のある人との交流の手段としてボッチャが取り上げられ、交流が計画された。

一緒にゲームを体験したあとは、質問タイムによる交流を行いました。

また、ボッチャの指導は、社協の中にある障害者支援事業所である中土佐町地域活動支援センター「つどい処」の『ワンチーム』メンバーのボッチャ経験者の方が行った。障害のある人を含むメンバー(当日参加10名程)からルールを説明してもらい、一緒にゲームを体験し、その後質問タイムによる交流も行った。子どもたちに教えるということで『ワンチーム』メンバーにとっても特技を生かせる活躍の場にもなっている。

小学校ではこの他、高齢者施設訪問や独居老人訪問、高齢者とのふれあい活動などによる交流も実施している(ここではボッチャはしていない)。

このプログラムは、小学校、特に担任の教諭、社会福祉協議会、地域コーディネーター、障害者施設関係者の連携により、実現したと言える。

ボッチャボールを使った交流プログラムは、小学校の体育館で実施した。

小学校としては3・4年生の総合的な学習の中で、「地域の人を知ろう、触れ合おう」というテーマのもと学習をしたこと、国語の時間に3年生がパラリンピックのことについて学習したことも動機づけとなった。

現在は児童が日常的にボッチャをできる状態にはなっていない。今年度は体験活動以降も休み時間や全校レクリエーション等で活用できる環境を整えたい。

今後の予定としては、ストックヤード(就労施設)の見学を11月の終わりに実施する。その中の交流等でボッチャをやる予定。

3・4年生の皆さん。パラリンピックについて調べた発表資料を見せてくれました。

効果や子どもたちの変化

ボッチャは、誰もが楽しめるスポーツであることを知ったことにより、雨の日の休み時間では、中学年(3・4年生)を中心にボッチャで楽しむ姿が時々見られるようになった。

ボッチャを使っての交流までは「障害のある人は大変」というイメージが強かったが、交流を通して、障害のある人の得意な事や、障害のある人の実際のくらしの様子、障害にもいろんな現れ方があること等を知り、障害者のことに関して広がりが持って理解することができた。その結果もっと勉強したいと考えるようになった子どももいた。

ボッチャが、みんなが楽しめるスポーツであることを知ると同時に、いろんな人が一緒にスポーツができるということを知った。

ボッチャ交流で、児童にとっては障害に対するイメージが変化。教える側も楽しい活躍の場に。

ボッチャのいいところ

年齢や障害の有無に関係なく、誰もが楽しめるスポーツであることがわかった。
障害のある方が、自分の身体や体調に合わせながらスポーツを楽しんでいる様子を知ることができた。
児童が障害について、かわいそう、大変そう、というマイナスのイメージだけでなく、面白い、投げるのが上手、 教えてもらえる、といったプラスのイメージを持つことができた。
目で見える障害だけでなく、様々な障害について教えてもらうことができ、障害についてさらに学びたいという思いを持つことができた。
ボッチャ体験での出会いが、 以降の学習(障害者就労施設見学、 国語科の学習、総合的な時間の学習等)につながった。
地域の交流の手段となり、教員の学びの助けにもなった。

今後の取り組みについて

社協と連携した地域交流の中でボッチャを今年もやる予定。
ボッチャを習った上級学年が下学年に教えるような場面が設定できるかもしれない。
その後、ボッチャボールをもう1セット買った。これを使えるような条件を設定したい。
月に1~2回実施している全校レクリエーションの時間でもボッチャを使えるかもしれないと考えている。

お話を伺った上ノ加江小学校の角校長先生(左)、堅田教頭先生(右)
学校を訪問しての感想

海に近い高台に学校があり、なんとも心洗われる気持ちになった。

小規模校ということで、先生と子どもの関係が近く親しく、とても親密でよい関係が作られているように感じた。

先生方も子ども一人一人にしっかりと向き合っていることが実感できた。

町ぐるみで子どもの教育、高齢者のこと、障害のある人のことを連携して進めている印象を持った。小さい町だからこそできるメリットだと感じた。

お忙しい中、長い時間お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

日本福祉大学スポーツ科学部 教授 藤田紀昭

(2022年11月取材)