提供教材:サッカーボール
神戸市立道場幼稚園(兵庫県神戸市北区)
長年の小学校教諭としての経験から、心身の基礎づくりは就学前の幼児期こそ重要
![Case18 神戸市立道場幼稚園(兵庫県神戸市北区)](https://www.ymfs.jp/cms/wp-content/uploads/2022/06/supply-report_case18.jpg)
保護者や地域の方々の協力を得て1978年に園庭全面芝生となった神戸市立道場幼稚園では、裸足になって園庭を走ったり、転がったり、毎日子どもたちが元気いっぱいに身体を動かして遊んでいます。長年小学校で教鞭をとって来たキャリアから、幼児期こそ運動を軸としたさまざまな経験や人とのつながりが先々の成長に欠かせないと語る、園長先生に話を伺いました。
Philosophy: さまざまな経験と人との出会い、そして元気な身体が何事も前向きに自分で解決していける力を育む
「ボールを投げられないとか、持久力や瞬発力などの身体的能力の低下はもちろん、集団になじめず、自分の思い通りに行かないとすぐに怒り出したり、あきらめてしまう、心的持久力のない、我慢ができない子どもが増えていますね」とお話しくださるのは、小学校の教諭・校長を40年近くにわたって勤め上げ、この春から神戸市立道場幼稚園の園長に着任した藤原匠さん。教員生活を送る中で、高学年時よりも低学年時、さらには就学前の幼児教育の大切さを実感していたことから、この春より幼稚園での職務に就いたそうです。
「小学校では教科ごとにカリキュラムが組まれており、時間をかけてじっくり何かに取り組むことがとても難しい状況です。また幼児期の方がまだまだ心に柔軟性があり、何か間違えたり怒られても素直に“ごめんなさい”が言えます。そこで、あきらめない気持ちや、困難に打ち当たっても自力で解決して行ける自立心を養えるよう、色々な人との出会いや遊び、モノづくりに運動など、幅広い活動や機会の創出を心がけている」そうです。なかでも机上の勉強と違い、例えば飛べなかった跳び箱が跳べるようになるなど、運動は成果が目に見えて分かりやすく、取り組みやすいと藤原園長は続けます。
「できる子のやり方を真似して学んだり、できる子ができない子に教えたり、友だち関係の構築にも役立ちます。それに何よりも人間、元気な身体が資本ですからね。全面芝生という恵まれた環境もあって、晴れているときはいつでも園庭に出て、身体を動かして過ごさせたいくらいです(笑)」
Plan: サッカー遊びが自由にできる環境づくり
そんなさまざまな活動の一つとして、5年前から市内のサッカーチームに月に1度サッカーを教えてもらっています。普段ボールに触れる機会が少なかった幼児の遊びの幅も広がり、体を動かす楽しさに気づいたり、さらに普段使わない筋肉も動かして、さまざまな場面で柔軟な動きができるようになっていったそうです。そこで、より多くの子どもたちがサッカーボールにふれて遊べるように、当財団の教材提供先募集のことを知ったPTAの方が申し込んだのです。
![小学校教育に長年携わってきたからこその実感を込めて「いくつになっても元気であれば何でもできる! やさしくたくましく笑顔で生き抜いていくには身体が資本ですが、そのベースが養われるのがまさに幼児の頃」と園長の藤原匠さん](/project/support/supply/report/case_18/images/02_thum.jpg)
![芝生の手入れは、藤原園長を筆頭に先生方や保護者のみなさんが、専門家の指導を仰ぎながら、2週間に1度行います。子どもたちが思い切り身体を動かせる恵まれた環境は、みなさんの協力を得て保たれているのです](/project/support/supply/report/case_18/images/03_thum.jpg)
![神戸市では、幼保小連携等の推進に取り組んでいることもあり、世の中には色々な人がいるという多様性を幼い頃から体感させたいと、小学校に隣接している立地を活かし、5年生が園児に本を読み聞かせたり、プールでふれあったりと、交流を図っています](/project/support/supply/report/case_18/images/04_thum.jpg)
Do: 多彩な使い方でボール遊びの楽しさを広げる
サッカーボールは主に、園児や保護者、地域の子どもを対象に降園後、園庭を開放する時の遊び道具として使われています。
「テレビで見るホンモノのサッカーボールと同じデザインのボールを手にし、プロサッカー選手の気分を少し味わえたようでとても嬉しそうでした」という保護者の方の声も。
時には運動会のいち競技として、竹の棒を2本使ったボール運びや、一輪車にのせてのボール運びにも活用。子どもだけでなく大人も一緒に競技し、立ったり、しゃがんだり、走ったり、ボールを使ってさまざまな動きで全身運動を行ったそうです。
さらに道場幼稚園では、毎年4歳児は竹こっぽり、5歳児は竹馬に取り組んでいますが、だんだん乗れるようになると、サッカーボールを蹴る子どもも出てくるそうです。転ばないように竹馬に乗り続けながら、ボールまでの距離を慎重に測り、1本足で立ってボール目がけて勢いよく蹴る、バランスはもちろん、高い集中力も求められます。
Check: 園庭全面の芝生を活かした裸足の効用
竹馬から落ちて尻餅をついても、思い切り走り回って転んでも、築山から転がっても、笑顔で楽しそうにしていられるのは、園庭全面が芝生だからです。
「他の幼稚園や保育園との交流も図っていますが、うちの園にやって来る子どもたちは芝生に大喜びです。たとえ転んでも怪我をしにくく、恐怖心が生まれにくいことから、裸足で思う存分動き回れるんです。その上、力強く地面を蹴り上げるので脚力がつく、足の裏が刺激され神経回路が鍛えられるなど、裸足で過ごすメリットは枚挙にいとまがありません」(藤原園長)
芝生の手入れは決してラクな作業ではありませんが、その苦労を上回るほどの効果を子どもたちの心身にもたらしているようです。
![竹こっぽりと竹馬は、保護者が子どもと一緒に毎年手作りするそうです。自分の好みに合わせてカラーテープで装飾を施したり、高さを調整します。物への愛着が沸き、大切に扱うようになるのだとか](/project/support/supply/report/case_18/images/05_thum.jpg)
![サッカーに限らず、ボールの多様な使い方を通じて、「体を動かすことが楽しい!」と子どもたちが感じてくれるような試みを行っています](/project/support/supply/report/case_18/images/06_thum.jpg)
![子どもたちは園長先生が大好き!「自由時間は私自身、なるべく園庭に出て、子どもたちの安全を見守るように心がけています」(藤原園長)](/project/support/supply/report/case_18/images/07_thum.jpg)
Action: 新しいことに果敢に挑戦し続ける
今後の取り組みとしては、園庭全面芝生の環境を積極的に活かした身体づくりを通じ、「この先、生きて行く中で問題に遭遇しても簡単にへこたれることなく、自分で解決策を見いだし、前向きにはつらつと進んで行ける自立心や、人の役に立つことで多幸感がえられるような素地を幼児の頃に身につけさせていきたい」と藤原園長。
当財団のスポーツ教材の提供は、子どもたちのスポーツ機会の拡大・充実を目標に実施しています。特に神経回路の発達が著しい幼児期から小学校低学年にかけては、全身を使ってさまざまな運動をすることがとても重要だと考えています。
今回ご紹介した道場幼稚園のように1,500㎡もの広大な園庭全面が芝生に覆われているという、非常に恵まれた環境においては、子どもたちがやりたいこと、できることの幅も選択肢も広がります。これからも子どもたちが興味をもち意欲を高めた事柄に恐れることなく果敢に挑戦し続け、心も身体もたくましく成長することを期待しています。(事務局)
![日ごろから竹馬などで体幹を鍛えているためか、子どもたちの姿勢がとてもいいのが印象的](/project/support/supply/report/case_18/images/08_thum.jpg)
![裸足で駆け回ると足首の使い方が上手くなり、足の指でしっかり地面を蹴り上げるので、ピッチ(足の回転数)を上げて走れるようになり、総合的に運動の潜在能力が高まるそうです](/project/support/supply/report/case_18/images/09_thum.jpg)
(2016年10月取材)