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[Case15]特性にあわせた支援で成功体験を重ね、人との関わりと運動の喜びを知る

提供教材:タグラグビーセット

いわて高機能広汎性発達障害の人を支援する会 「エブリの会」(岩手県盛岡市)

ナチュラルなサポートを「マンガ形式」で表現。個別の支援方法の共有化を図る

Case15 いわて高機能広汎性発達障害の人を支援する会「エブリの会」(岩手県盛岡市)

高機能広汎性発達障害児を対象に休日活動の充実に努める任意団体「いわて高機能広汎性発達障害の人を支援する会(エブリの会)」では、個人の特性にあわせたポジションを与えてプレーでき、成功体験を積み重ねられるとタグラグビーに注目し、活動の主軸に据えて取り組んでいます。今回「エブリの会」の姉妹グループのひとつ「ABフレンズ」でタグラグビーを行うと聞いてお邪魔しました。

Philosophy: 高機能広汎性発達障害のある子どもたちが安心して自分をさらけ出し上質な時間が過ごせる場の提供

「学校では笑わないという子が、ここでは積極的に用具の準備を手伝い、よく走り、仲間と協調してトライを決めると、笑顔でその喜びを分かちあうんです」と話すのは、「エブリの会」の代表を務める佐々木全(ぜん)さん。盛岡市を拠点とする「エブリの会」は、その前身が1998年にスタート。高機能広汎性発達障害のある児童・生徒の支援やその保護者の自助を目的に社会の変化や参加者の要望に柔軟に応じて、支援の内容や形態を変化させつつ17年に亘ってよりよい支援モデルを追求し続けています。高機能広汎性発達障害とは、知的障害を伴わない発達障害のひとつであり、近年、自閉症スペクトラム障害とも呼ばれています。「相手の心情や意図をうまく読めない」という症状が特徴的で、人との関わりが苦手と言われています。こうした発達障害が疑われる子どもの割合は公立の小中学校の通常学級に約6.5%在籍しているとの報告もあります(平成24年度文部科学省調べ)。

「学校教育の場では、発達障害のある児童・生徒への支援がすすんでいるのですが、放課後や休日活動においては、まだ不十分。子どもたちが自分らしく過ごせて思い切り楽しめる居場所を作りたい、できるかぎりの上質な時間を少しずつ積み重ねることで生活の質向上に結びつけようと『エブリの会』や近隣の姉妹グループの活動を行っています」(佐々木さん)

Plan: 運動量もあり安全で理解しやすいタグラグビーに注目

「エブリの会」では、工作や鬼遊び、風船バレーに演劇など、さまざまな活動に取り組んできました。鬼遊びを発展させてもっと身体を動かせるスリリングなスポーツはないかと検討していた折にたまたま目にしたのがタグラグビーでした。さっそくDVDを観てみると、接触プレーがない安心感、攻撃プレーではボールを抱えて走るという容易さ、守備プレーでは相手のタグを取るという目的の明確さがある上に、豊富な運動量が確保できること、そして個人の特性にあわせたプレーが可能なことから、2007年から段階的にタグラグビーを導入。今では『エブリの会』の活動の中心となり、姉妹グループでもタグラグビーを取り入れる機会が増えています。より多くの機会にタグを取り入れて行きたいと検討していた矢先に出会ったのが当財団の教材提供でした。

Do: 熱中して取り組めるためのナチュラルサポート

佐々木さんがタグラグビーを実施する時は、「熱中してタグラグビーに取り組んでもらう」ことを主目的に、パス練習よりもゲームに多くの時間をあてています。その際「攻守それぞれにおいて目的を持ってプレーすること。そして自分の能力を存分に発揮し、同時にチームとして連携してプレーすること。トライが成功してもしなくてもそのプロセスと結果をチームメイトと共に分かちあうこと」を目指しています。

これらを可能にするのが、日頃から子どもたちの行動や心理状態をじっくり観察し、性格や特性を理解しているが故の具体的な個別の支援方法です。ボールを投げるのが苦手な子はそのまま走ってトライするポジションに、ボールを受けるのが苦手な子には手渡しでパスし、視野が広い子どもには後方の守備位置を任せ、自分の動きにひたむきな子には相手方のタグを追いかける前方の守備位置を任せるなどがその一例。しかも「支援されていると気づかれるようではまだまだ」(佐々木さん)と、子どもが苦手意識を抱かないよう、あくまでもタグラグビーとしての自然さと必然さを伴う「ナチュラルサポート」を心がけているのです。

Check: 成功体験が向上心を刺激。支えるスタッフ育成が鍵

「思い描いた通りにプレーできたり、チームの連携が決まってトライできると、もっと上手になって活躍したい!という気持ちが自ずと沸き上がってきます。上手になるにはどんな所に気をつけてプレーすべきかを考え、成功に結びつく体験が技術向上への道筋になっているんです」と佐々木さん。こうした戦略的ゲームが楽しめるのも、トライしやすい場所でパスを出したり、味方からのロングパスを受けやすいよう壁となって敵のマークを遮ったり、タグを取られてもその直後にリスタートのパスを促し「ナイスパス!」と声をかけたりするスタッフが存在してのことです。

学生や社会人のボランティアで構成されるスタッフは、競技が得意な人や子どもたちと接することに長けている人とさまざま。相互に高めあってよりよい支援方法を探っているなかで、これまでに蓄積された個別の支援方法や個別戦略などを伝達・共有・活用する有効的な表現方法として考えているのが「マンガ形式」。視覚的に分かりやすく、動作の流れも理解しやすいことから、スタッフ間の情報共有化ツールとしてだけでなく、子どもたちに指導する際にも活用したいと思案中です。

Action: 大人になっても楽しめるタグラグビー

ここでならみんなと上手く関わって行ける、自分らしさ全開で心地よくいられる……。「エブリの会」のような居場所を求める人がいる限り、これからも支援活動を続けて行くと佐々木さん。以前は小学生や中学生が対象の活動でしたが、その子たちが成長し高校生や社会人になっても参加を望む声があることから、最近ではタグラグビーを楽しみたい人なら年齢を問わずに参加可能な活動も開始。

「タグラグビーはラグビーの入門競技のような位置づけですが、いくつになっても楽しめます。活動を続けることで、私たちが行っているサポート的なポジションを子どもたち自身で担える自立したチームもでき始めています。これまでの取り組みが実を結びつつありますね」と佐々木さんは目を細めていました。

感情表現や人との関わりが苦手と言われる子どもたちが、仲間と共に活き活きした表情でタグを楽しむ姿に、誰もが自分の特性にあったポジションで活躍し達成感と自信を得られる競技として、タグラグビーの可能性を改めて実感しました。

(2015年9月取材)