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[Case7]タグラグビーで投球動作の改善と俊敏性、ボディコンタクトを恐れぬ心の強さを獲得

提供教材:タグラグビーセット

盛岡市ハンドボールスポーツ少年団リトルハンド(岩手県盛岡市)

指導方法を日々探求するコーチの下、楽しく練習しながら日本代表選手を輩出するハンドボールクラブ

Case7 盛岡市ハンドボールスポーツ少年団リトルハンド(岩手県盛岡市)

色々な種類のボールを使ったアップ運動など、従来から豊富な練習メニューで楽しみながら、心身ともに健全な発達を目指した指導を行っている盛岡市のハンドボールスポーツ少年団リトルハンド。震災後に増えた低学年の入団者たちに、正しい投球動作を身につけるツールとしてタグラグビーに着眼したその理由は…。

Philosophy: “育て未来の名選手” 豊富なメニューで総合的にバランス良く才能を伸ばす

「ハンドボールど素人だったことが良かったのかな」とおっしゃるのは、リトルハンドを率いるコーチの安倍冨士男さんです。10年ほど前に「コーチを引き受けてくれないか?」と依頼されるまでハンドボールとは一切無縁だった安倍コーチ。何も知らないからこそ、先入観なく客観的にハンドボールを見ることができ、またハンドボールの指導方法について常に学び続けなければと、新しい練習方法を耳にすれば即、積極的に採り入れ実践されているのです。そんな安倍さんの指導ポリシーは「子どもは才能の原石。だから指導者の勝手な思い込みで可能性をつぶさないよう練習メニューも言葉の掛け方一つとっても自信を持たせるように心がけている」とのこと。こうした謙虚で真摯で熱心な指導により、卒団生から数多くの日本代表選手を輩出。トップクラスで活躍する先輩らの姿は、子どもたちの憧れとして練習の励みになっているようです。

Plan: 新加入の低学年児童の投球フォームを改善したい

盛岡市は内陸部のため、先の震災時に学校も体育館も難を逃れたそうですが、体育館が避難所として使われるなどし、ハンドボールの練習は4カ月ほどお休みに。ただでさえ体も心もくじけそうな環境に置かれていた子どもたちは、体を動かす場所や機会も奪われたことで、かなりストレスを溜め込んでいたそうです。そこで震災後、より多くの子どもたちにスポーツできる環境を提供しようと、それまで小学3年生以上だった入団基準を小学1年生にまで引き下げたのです。

ハンドボールの面白さは、片手で自在にボールを投げるところにあると言います。しかし低学年の手の小さい子どもたちには難しく、どうしたら上手につかみ、正しく投げられるようになるか…。常により良い指導方法を研究している安倍コーチは模索していました。そんな折に目にしたのが当財団の教材提供の案内。もともとボディコンタクトという点でハンドボールとラグビーは共通点があると思っていたこと。さらに小学校の体育館にあった柔らかくて小さくて、そしてカラフルなラグビーボールをアップ運動に使った際、あちこちバウンドして転がっていくボールを子どもたち、特に低学年や女子が面白がって取りに行く様子が印象的で、楕円球の動きの不確定さに面白さを感じていたこともあり、「タグラグビーセット」に応募したそうです。

Do: 色々なボールを使ったアップ運動の一環にタグラグビー

「うちのクラブは、豊富な練習メニューが特長」と安倍コーチ。昨年はヒップホップダンスを採り入れてみるなど、子どもたちが飽きずに楽しく、そして総合的にバランス良く才能を伸ばしていけるようさまざまな取り組みを行っています。

そのひとつとして以前から、投球動作の多様性を身に付けさせるべく、色々なボール競技をアップ運動に盛り込んでいたそうですが、今回のタグラグビーセットもその仲間入り。取材でお邪魔した時には、鬼ごっこやさまざまな変形ダッシュなどの準備運動の後、堅さや素材、大きさが異なるボールを一度にたくさん使ったサッカーや柔らかいボールを2個使ったドッヂボール、そしてタグラグビーを遊び感覚でアップ運動として行っていました。

タグラグビーを行ったのは今回で3回目とのことですが、軽いパス練習の後、学年別にクラス分けし早速タグを着けて2分から4分のミニゲームを2回ずつ実施。パスはどこに出してもOK、ボールを持っている人のタグを取ったら、ボールはその場で相手チームに渡る、というシンプルなルールで、ゲームに集中できる工夫を凝らしています。

Check: ハンドボールより大きくて重いラグビーボールが体のひねりを活かした投球フォームづくりに貢献

小学生用のハンドボールは軽いので、バックスイングせずになんとか投げられても、ラグビーボールは、大きくてどっしりした重さがあるので、小手先では投げられません。すると、子どもたちは両手でしっかりボールを保持し、体全体を使ってパスするようになったと言います。特別な指導を行ってはいないそうですが、日頃からさまざまなボールを扱ってきた子どもたちだからこそ、ボールの特性を体で理解し、それに適した投球動作が自然に生まれ出たのでしょう。

この「身体のひねりを利用して両手で投げる」という全身性が、ハンドボールの投球動作の改善に結びつくと安倍コーチは期待しているそうです。加えて敏捷性や判断力、そして突破力の発達も見込んでいるのだとか。「ハンドボールは手に持って3歩しか歩けません。でもタグラグビーは、相手の隙を縫えば好きなだけ走れる。制約が少ない中で周りを冷静に見てどこにパスを出すか判断する能力や瞬発力、ボディコンタクトを恐れずに自分でボールをゴールラインに持っていく気持ちの強さが伸びて行けばと思っています。ラグビーボールをぐいぐい運ぶ低学年の児童がいるのですが、このまま成長したら良い選手になるはずですよ」(安倍コーチ)

Action: タグラグビーでのゲーム展開をハンドボールに

今後は、タグラグビーのゲーム形式を洗練させて最終的にはハンドボールの上達に結びつけて行くと安倍コーチ。「小学生のうちは楽しくハンドボールを経験させたいんです。だからドリブルやシュート練習などの最後に必ず子どもたちが大好きなハンドボールのゲームを行い、楽しい気持ちで練習を締めています。この先、中学・高校に進学しハンドボール人生を歩んでいくのですが、いつも順風満帆とは限りません。レギュラーになれず苦しんだり、ケガをして長期に戦列を離れたりと色々なことが起きます。でもそんな時に小学校のときの楽しい思い出があれば、どうにか乗り越えていけると思うんです」

「ハンドボールの練習時にそういえばタグラグビーなんてコトもしたなぁ」と、遠い未来に楽しい記憶として子どもたちがふと思い出してくれることを願っています。

(2013年9月取材)