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【対談】能瀬さやか×野口みずき

【対談】能瀬さやか×野口みずき/スポーツを『素晴らしいもの』にするために

体重を落とせば記録は伸びるのか?

【対談】能瀬さやか×野口みずき

YMFS能瀬先生がテーマにしている女性アスリートの三主徴は、基本的に「適切に食べていない」というところが問題の始まりですよね?

能瀬マラソンのような持久系と新体操のような審美系、競技によってエネルギー不足になる背景は若干違うんです。審美系競技のアスリートはどちらかというと食べる量を制限して身体がエネルギー不足になるというパターンです。陸上の長距離選手に関しては、エネルギー消費量と摂取量、そして体組成も測ってみると、食べてはいるのだけれど摂取量がエネルギー消費量に追いついていないことによってエネルギー不足に陥る選手が圧倒的に多いです。

練習量が増えた分、食事の量は増やさなければいけないし、同じ体重でも筋量の多い人の方がエネルギーは使うわけですから、よりしっかりと食事は摂らなきゃいけない、ということを踏まえて、無月経の治療を行なっていきます。

YMFS逆に選手の側からすると、理論的にそれはわかっていても、これ以上食べられない、というような状態はあったりするのですか?

野口私の場合は、食べても食べても、血液の状態があがらないというか、総蛋白がいつも低くて、ヘモグロビンの値もそこまで高くなくて、というようなことはありましたね。あとこれは私の感覚なんですが、一流の選手は元々内臓が強いような気がします。たとえどんなに疲れていても、しっかりと食べることができるんじゃないでしょうか。

能瀬たしかにそういうこともあるのかもしれません。あと若年層の問題としては、今の中高生は塾や部活で本当に忙しく、家に帰ったらもう夜の12時、食事を摂る時間がない、って言いますよね。学校の授業が終わったら部活動がすぐに始まるため、補食をとるタイミングもない、という子がすごく増えています。

野口そこまで時間の余裕がないと、能瀬先生のできることにも限界がありますよね?

能瀬限界はありますけど…、やはり私は彼女たちの身体を守るために、じゃあせめて部活が始まる前におにぎりを一個食べなさい、とか、練習が終わったらすぐになにか食べなさい、それが無月経の治療だよ、パフォーマンスにも影響が出るんだよ、と言い続けています。

YMFS体重を落としたいという気持ちも影響しているのでしょうか。

能瀬この間、女性アスリートの研究をしている人たちと雑談をしている時、なぜ体重を落とせば記録が伸びるのか?と指導者の人たちに聞いても、その理由をちゃんと科学的に答えられる人がいない、という話がでました。

野口それは罪ですよね。答えられるのだったらまだいいですけど。

能瀬なんの根拠があって、軽量化、軽量化と言っているのかなと。たしかにある程度まではいいですが、その一線を超えてまで軽くする根拠について答えられる指導者がいないし、体重ではなく体組成を見てあげなきゃいけないよね。という話をしていました。

YMFS野口さんの現役時代にも、とにかく体重を軽くする、という発想で指導していた方はいましたか?

【対談】能瀬さやか×野口みずき

野口はい、いました。これは他のチームのエピソードなのですが、ある時、海外の合宿地へ向かう飛行機が同じ便だったことがあるんです。国際線って機内食が出るじゃないですか。そのチームの選手は、目的地のホテルに着いたらすぐに体重計にのせられて、監督さんが「お前ら出発前より体重増えているじゃないか!」と。その話を聞いた時は、さすがにびっくりしました。

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