速く走ることは大事だけれども
能瀬基礎体温を記録し始めたのはいつ頃からなのですか?
野口たしか「ハーフの女王」と呼ばれるようになった頃、マラソンを走るようになってからだと思います。
能瀬私のところには無月経になった選手が数多く来るのですが、選手や指導者の方からは、いついつまでに体重を落としなさい、とか、体重を落とした方が記録が伸びるから、といった話がよく出てくるんです。
ですから、先日とあるシンポジウムで野口さんと初めてお会いした際、現役時代は体重を落とすことなく、しっかりと食べ、月経もちゃんと来て、なおかつ結果も出してきた、というお話をうかがって、これはすごい、アスリートとして理想的な形だなあ、と感心しました。
YMFSというお話を能瀬先生からうかがって、本日ぜひ対談していただこうとなったわけです、笑
野口そうなんですね!私は自分の全キャリアを通じ、指導者の方に恵まれていたと思います。みなさん、選手の身体を大事に考えてくれる人ばかりでした。高校時代の先生には、たしかに速く走ることは大事だけれど、でもそのために身体を壊してはいけない。だからちゃんとエネルギーを摂りなさい、と。
実業団での監督さんやコーチも、まずアスリートである前に一人の立派な女性であろう、という哲学をお持ちの方でした。今は選手だけれど、いつかは必ず引退する、そのあとは一人の女性として生きてゆくのだから、と身体と心の健康もちゃんとケアしてくれるような方々でした。
能瀬素敵なお話ですねえ。無月経で骨密度が下がって、疲労骨折を起こしてボロボロになってしまった、という女性アスリートの体験談はよく聞きますが、野口さんのケースはそれとは正反対なんですよ。
野口選手が伝えたいことをしっかり理解しようとしてくれる、そういう指導者の方々の存在はとても大きかったです。
能瀬月経を理由にして練習をさぼりたいだけだろ、みたいな見方をする指導者もいらっしゃいますもんね。
野口でも自分の周りには、能瀬先生が指摘されているような問題を抱えた選手もいましたよ。チームに入団した時点での持ちタイムを見れば、私よりずっと素質があったのに、何度も疲労骨折を繰り返し、3、4年で実業団をやめていった後輩とか。本当に故障が多くて、マネージャーさんから、彼女は未だ無月経、骨密度を測ると70歳くらい、そんな衝撃的な話も聞きました。
能瀬陸上の名門と呼ばれるような高校出身だったりするんですよね。
野口そうなんですよ!でも、彼女たちから聞く高校時代の練習とか価値観とか、私にはもうチンプンカンプンでした、笑
能瀬それをチンプンカンプンと思えたのも、野口さんのすごいところですよね。そういう強豪校出身の選手の経験談を聞くと、私もそうしなきゃいけないのではないか、という強迫観念にとらわれる選手は多いですから。
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