審判から見た女子サッカーと男子サッカーの違い
YMFSこれまでは女性のサッカーの試合を捌いていた山下さんが男性の試合を捌く、その難しさはありませんか?
西村山下さんがこれまで歩んできた女子サッカーとは違う感覚、インテンシティ(強度)だったりスピードだったり、これからはそういうものと向き合う新しい機会の始まりになるんじゃないでしょうか。
山下それは私も日々実感しています。正直なところ、男子と女子の違いはスピードだけだと思っていますが、考えるスピード、判断のスピードは絶対に上げていかなければならないので、そこの差は感じています。
西村あとは、女子サッカーの特徴として清々しさ、というものがありますよね。審判のジャッジに対して、たとえ不服があってもほぼそれを主張することはないのが女子サッカーの良さでもあり、魅力でもあります。でもそれが男子のサッカーとなると、わざと審判に激しく食って掛かってくる、そんな駆け引きが頻繁にあります。ある選手がわざと強い口調で審判に詰め寄って、それをキャプテンがなだめることで、審判を自分たちのペースに誘い込む、というような。そこも山下さんには新しい体験となるでしょうが、そういうことも一つ一つ学んでいってくれるのではないかなと期待しています。
山下たしかにそうですね。自分の担当する試合も変わってきて、審判員として研究や勉強のために見る試合も変わってきています。自分がフィールド上で経験する前に、予め映像であったり、試合を見に行ったりする中である程度経験しておきたいかな、と思っています。それがトレーニングになるのかなと。
西村いい準備だと思います。実はサッカーって毎試合全てが初めて起きることの連続なんですよね。ということは、用意していることは起きないって思っていた方がいいと思っています。全ては選手たちが新しく作り上げてゆくシナリオなので、誰にも何が起きるかはわからない。もちろん審判にもわからない。だからこそ、準備していたことには対応できるけど、準備していなかったものには対応できない、ではなく、準備しきれないことに挑戦する、だからこそサッカーは面白いんだ、って思うっている方がいいかもしれないね。
山下はい、余裕があれば私もそう思いたいと思います、笑
西村いやいや、誰も余裕なんてないから、笑
YMFSそれでは最後に、大先輩の西村さんから山下さんへのメッセージをいただけますか。
西村これから経験できることすべてが、新たなチャレンジになります。山下さんはスポンジのように吸収力のある人だから、これから起こるであろうことを恐れる必要はなく、上手にやろうとする必要もなく、今まで通りに素直に自分のできることを一つ一つやっていけば、かならずそれは未来につながっていくと思います。レフェリーという役割を通じて、自分の人生がより豊かになるはずです。苦しいことはあるかもしれないけど、かならず山下さんを応援してくれる人がいるので、自分の道を信じて進んでいってください。
山下私はいつも、自分にはのびしろがないなあ、と思っていたので、西村さんにそう言っていただけると、自分の未来に対してなんだか気持ちが前向きになります。応援してくれる人たちの支え、それを本当に日々感じて生きていますが、そのいただいた力を審判員という立場でちゃんと使っていけるよう、そんなふうになりたいと思います。
<了>
写真=近藤 篤 Photograph by Atsushi Kondo
西村雄一
YUICHI NISHIMURA
1972年4月17日 東京都生まれ。サッカー審判員。
1999年に1級審判員に登録され、2004年からはスペシャルレフェリー(現在のプロフェッショナルレフェリー)として、Jリーグや国際試合で活躍する。
2010年に開催されたFIFAワールドカップ南アフリカ大会では4試合で主審を務め、決勝戦の第4の審判員として判定に関わる。
また、2014年のFIFAワールドカップブラジル大会では、開幕戦で主審を務め、同年に国際審判員を退任。
トレーニングで培った正確な動きと判断で、一切ブレることなく審判としての哲学を貫き試合を裁く。その姿勢に世界のトップ選手からリスペクトを受けている。
現在はプロフェッショナルレフェリーとしてJリーグで活動中。主審およびVAR・AVAR担当審判員。東京都サッカー協会所属。