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【対談】山下良美×西村雄一

【対談】山下良美×西村雄一 審判という名の幸福
【対談】山下良美×西村雄一 審判という名の幸福

「私には私のスタイルがある」

山下試合には基本的にアセッサーという審判の仕事ぶりを評価する人がいるんですが、アセッサーは主にそれぞれの判定の分析に重点をおいています。西村さんからいただいたようなアドバイスは、それができるようになるかどうかは別として、自分ができることがより増えていく、自分の中の引き出しがふえる、そんな感じです。

西村もちろんレフェリーが100人いれば100通りの裁き方があります。僕の背格好でぴたりとくるレフェリングを、山下さんにそのままコピーアンドペーストしてもフィットするわけではありません。山下さんには山下さんのやり方があります。ただ、そこに至る過程として、理解しておいた方がいい知識やノウハウを共有する、ということです。

YMFS山下さんもそのまま西村さんのアドバイス通りにやるわけではないと。

山下私には私のスタイルがある、そこをわかった上でアドバイスをしてくれているんだな、ということもよくわかっていました。本質のところを教えて下さっているんだな、と。元々そのままやろうとは思っていないですし。ただ、受け入れる、ということに関しては、私はどういう意見も全て受け入れます。実際、自分のことがどう見えているのかは、第三者の人に聞かないとわからないですから。自分ではこうだと思っていても、ある人から見れば正反対に見える。それが全く自分の意図するものとは違っていたとしても、その人にはそう見えているわけです。そこを踏まえて、もう一度考えないといけないなと。

YMFS西村さんはその頃の山下さんがどういう審判だったか覚えていますか?

西村はい、よく覚えていますよ。審判というよりはまだプレーヤーでしたね。審判を心からやろうと思っていたかどうかはわからないけど、笑。大学を卒業した後、まだ自分でもサッカーをやっていたんだよね。

【対談】山下良美×西村雄一 審判という名の幸福

山下そうですね、まだ現役のプレーヤーでした。

西村だから、彼女の中では審判よりプレーヤーの方が比重が大きかったんですよ。わかりやすくいうと、山下良美という選手が耐えられるプレーかどうかでファウルの基準が決まっていく、という感じです。しかも山下さんは選手としても能力が高いので、かなり厳しいチャージでも笛が鳴らない。外から見ていると、きびしいなあ!って感じになるわけです。

山下私自身にはわからないですけど、最初の頃はそうだったんだろうなと思います。ですから、私が笛を吹く試合はよく荒れましたね。ただ自分としては、フィールドの上に立っているときは自分の基準でやっているわけではなく、審判員の基準としてやっているつもりではあったんです。

西村とにかく強度を非常に高いところに設定しているなあ、と思っていました。

YMFSそういう部分は変わりましたか?

山下すごく変わったという実感はないですが、自分なりに経験を積んできて、考え方は整理されてきたと思います。最初の頃は目の前で起こったことを見て、はい、これはファール、ファールじゃない、と決めることの繰り返しでしたけど、今はここがこう当たっているからファール、このタイミングでチャレンジしているからファールとか、より正しく判定できるようになってきたのかなと思います。

YMFS西村さんもそういうプロセスを歩んできたんですか?

西村もちろんです。いま山下さんがおっしゃった通り、試合という90分の流れの中で起こることを連続的に見ることは、審判を始めた頃はなかなかできない。一つ一つの出来事に対応するのが精一杯です。それが経験を積んでいくと、この時間帯だからこのプレーが起きるよね、ということが見えてきます。全体のストーリーが読めるようになってくる。例えば、交代ひとつをとっても、後半始まってすぐの戦術的な交代と試合終了間際の時間稼ぎとしての交代では意味合いが違います。ですから当然、我々審判のマネジメントも異なってきます。そういうことも経験からわかってくることですね。

【対談】山下良美×西村雄一 審判という名の幸福

YMFS経験すればするほど、あれこれってけっこう難しい仕事だぞ、ってなってきませんか?

山下なります。こんなことも考えているんだ、こんなことも意識しないといけないんだ、ということが増えていきます。一方で、経験を積むことで、こんなことが起こるかもしれない、という予測もできるようになります。なので、実際に起こることは少なくなっているのかもしれません。

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