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僕にできる恩返しは、僕自身の夢を実現させること


森下 主税 2名/代表者:森下 主税

氏名 森下 主税 2名/代表者:森下 主税
競技名 陸上(障がい者スポーツ)/選手

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僕にできる恩返しは、僕自身の夢を実現させること
~かけがえのないパートナーとともに日本新記録の樹立へ~

両手を膝につき、肩を大きく上下させながら呼吸を整える森下主税さんは、呼吸が落ちついてからもしばらく無言のままだった。その森下さんの肩に手を添えて日本福祉大学陸上部の先輩であり、この日のレースで伴走者をつとめた大森清貴さんがいたわるように声をかける。「惜しかった、次のレースできっと5分を切れるよ――」。

5月27日に大阪で開催された『第18回日本身体障害者陸上競技選手権大会』。視覚障害(B1クラス)の陸上800mと1500mで日本新記録の樹立をめざす森下さんは、この大会で1500mに出場した。最終的には日本記録(4分49秒27)の塗り替えを目標とする森下さんだが、今大会ではその第1ステップとして「5分を切る」ことを自らに課していた。そのため当日になって得意の800mをキャンセルし、午後の1500mにコンディションとモチベーションのすべてを集中して臨んだのだ。

しかし、記録は5分05秒にとどまった。自己記録は更新したものの、狙っていたタイムに届かなかったうえに、手ごたえや充実感を得ることもできなかった。レース序盤は軽快な足の運びで好記録を予感させていたのだが、真夏のような気温の上昇も影響したのだろう、後半は思いがけず失速した。大森さんの労いの言葉をさえぎるように吐き出された「ぜんぜん惜しくない」「これじゃだめなんです」という強い口調に、芯の強さと込みあげてくる悔しさがにじみ出ていた。

森下さんには、大森さんを含めて3名の伴走者がいる。中でも大森さんは自らも現役アスリートでありながら、森下さんの夢を実現するために日常のトレーニングから親身のサポートを行っている。伴走者を得られずにアスリートの道を閉ざされる人びとも数多くいる中で、大森さんらの支援に対して「言葉では言い表せないほど、感謝の気持ちでいっぱい」と森下さんは話す。レース後、思わず口をついて出てしまった「ぜんぜん惜しくない」という強い言葉の後に、再び黙り込んでしまったのはこのためだろう。

高校時代の森下さんには、伴走者はおろか練習パートナーもいなかった。屋外をランニングすることもできず、2mにも届かないわずかな視力を頼りにたった一人で体育館を走り続けていた。だからこそ、多くの人に支えられている現在の環境を幸せに感じる気持ちは誰よりも強い。

「僕にできるせめてもの恩返しは、僕自身の夢を実現させること」――。

森下さんは、彼を支える多くの人びととともに、日本新記録の樹立、そしてその先にある北京パラリンピックへの出場をめざしている。