公開シンポジウム「障害者スポーツ競技団体の実情 ~東京2020パラリンピック終了後の課題と今後の展望~」

公開シンポジウム「障害者スポーツ競技団体の実情 〜東京2020パラリンピック終了後の課題と今後の展望〜」を開催しました

公開シンポジウム「障害者スポーツ競技団体の実情 〜東京2020パラリンピック終了後の課題と今後の展望〜」を開催しました

公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団(YMFS)は2024年2月17日(土)、東京・御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターにて公開シンポジウム「障害者スポーツ競技団体の実情 〜東京2020パラリンピック終了後の課題と今後の展望〜」を開催しました。本シンポジウムは、2012年度から取り組んでいる“障害者スポーツを取り巻く環境調査”の一環として実施したものです。

今回は、公益財団法人笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクターの小淵和也氏から、障害者スポーツ競技団体を対象とした「組織の形態と事務局運営」、「組織の構成と運営」、「実施事業」の項目についての調査結果のご紹介。

さらにパネルディスカッションを、小淵氏をコーディネーターに、一般社団法人日本車いすラグビー連盟 事業企画委員長の青田竜之介氏、一般社団法人日本車いすテニス協会 副会長の岩﨑満男氏、特定非営利活動法人日本ソーシャルフットボール協会 理事長の佐々毅氏、特定非営利活動法人日本パラ射撃連盟 常務理事の田中辰美氏を迎えて開催。東京オリパラの招致が決定した2013年から開催まで(2013〜2021年)と、開催終了後から現在まで(2021〜2024年)の課題や変化、そして現在を起点とした未来(2024年以降)に向けての展望について、それぞれの立場からお話しいただき、報道、行政、競技団体、企業、学校などの来場者の皆さんに、各団体の実情を共有しました。

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基調報告

「障害者スポーツ競技団体の実態調査」に関する結果報告

小淵和也氏(公益財団法人笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター)

調査概要

日本パラスポーツ協会のパラスポーツ競技団体協議会に登録のある競技団体を対象に、2023年7〜10月にかけて「組織の形態と事務局運営」、「組織の構成と運営」、「実施事業」の項目についてアンケートを実施しました。78の障害者スポーツ競技団体を対象に実施し、71の競技団体からご回答いただき回収率は91%でした。

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調査結果

法人格について

パラ競技団体とデフ競技団体は、全団体が法人格を取得していました。非パラ競技団体に関しては、74.2%が法人格を取得していました。

事務局の設置状況について

パラ競技団体は全団体で専用の事務局を設置しています。これは、パラサポ(日本財団パラスポーツサポートセンター)の存在が大きいのかなと思います。非パラ競技団体とデフ競技団体は、団体役員の自宅に併設という形が最も多く、悩ましい実態を表しています。

職員の雇用(専従職員)について

パラ競技団体は約9割で専従職員がいるという結果です。一方で、非パラ競技団体は16.1%、デフ競技団体は7.7%と、両団体は専従職員が配置できていない状況がわかりました。

アスリート委員会の設置状況について

パラ競技団体はこの調査を2017年度に実施しており、前回は33.3%でしたが、今回は96.3%に上がっていました。これはガバナンスコードなどの影響もあるのかと思っています。デフ競技団体は、今回初の調査でしたが、84.6%の団体で設置しています。非パラ競技団体は、2017年度が11.5%、2023年度は19.4%で微増でした。

競技登録者数について

2021年7月と2023年7月、東京パラリンピックの前後で比較をしており、約4,500から約5,000となり、平均値も増えました。団体チームの登録数も105から119に増えているほか、審判員の数も増えています。しかし、非パラ競技団体とデフ競技団体は大きな変化を見ることができませんでした。つまり、パラリンピックの競技団体は、ある程度、東京パラの影響があったという一方で、それ以外の団体は、その影響がないことが、この数字から見えてきました。
一般の競技団体(中央競技団体)との競技登録者の比較では、全人口の約1億2,400万人に対して競技登録者の平均は約10万、中央値が7,200でした。一方の障害者は、最新の障害者白書では手帳を持っている方が約1,160万人。全人口の約1割ですが、競技登録者数は平均値で260人、中央値で100人と大きな差になっています。

スポンサー数について(支援企業や協賛企業等も含む)

パラ競技団体は2018年度が171、2022年度は224と、2019年に220になってからそれほど変わっていません。一方、非パラ競技団体は、2018年が57で2022年度は125と倍以上に増加しています。

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団体運営について

2015年1月以前、東京オリパラの組織委員会ができてから2020年8月まで、2020年9月から2021年8月まで、東京パラが終わった2021年9月以降という4つの時間軸で調査しました。サマリーとしては、パラ競技団体は開催決定から大会まで、予算、事業数、人員とも、約6割の団体で増えました。
大会終了後、約4割の団体で予算額は現状維持、約4割は予算が減少し、約6割の団体で事業数、人員は現状維持ということで、所感では東京パラの終了後、想像していたよりも減少していないと感じています。
非パラ競技団体は、東京パラの影響はあまりないというのが見て取れました。デフ競技団体は、今回初めての調査ですが、約3割の団体で予算が増加。事業数、人員は約6割で現状維持と、来年度以降に変化があるのではと思っています。

パネルディスカッション

「東京2020パラリンピック終了後の課題と今後の展望」

小淵和也氏より パネルディスカッションの主旨について

シンポジウムのテーマ「障害者スポーツ競技団体の実情 〜東京2020パラリンピック終了後の課題と今後の展望〜」にそって、東京2020パラリンピックを起点として、3つの時間軸で区切ってお話します。
1つ目は、「2013年に東京2020オリパラの開催が決定し、コロナ禍による延期を挟んで2021年のパラ開催」まで。2つ目が「東京パラの終了後から現在に至るまで」とし、それぞれどんな変化があったのかと、どんな課題があったのかをお聞きします。そして最後に、「今後の展開」についてディスカッションを進めていきます。

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競技団体の紹介

日本ソーシャルフットボール協会について

佐々毅氏(特定非営利活動法人日本ソーシャルフットボール協会 理事長)

概要

我々は精神障害者を対象として、サッカー、フットサル、フットボールの推進をしている競技団体です。理念として、ソーシャルフットボールを通じてつながり、自分らしく生きていくことを尊重し合う社会を実現することをミッションに事業を展開しています。
もう一つの特徴が、ソーシャルフットボール協会を含め、ブラインドサッカー、デフサッカーなど、7団体がサッカーを通じてつながり、日本障がい者サッカー連盟(JIFF)として組織化するという特徴的な組織構造を持っています。

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精神疾患、精神障害について

脳の病気では、脳の機能不調・誤作動が起きることで、さまざまな症状が現れます。見た目にはわかりませんが、記憶や注意の機能が障害されることで日常生活に支障が出てきます。病気としてはうつ病、適応障害、統合失調症、発達障害とさまざまで、認知症や依存症も含め精神障害と言われています。
特徴的なのは他の障害と比べ、症状や障害に変動があること。状態がその時々によって異なること、そして回復しえるものです。全部が治るとわけではなくても、イキイキと生活することができます。
現状、約8人に1人はメンタルヘルスの不調を経験しており、しかも15人に1人は、現時点でうつ病を発症し、治療しています。これは、他の病気と比べてもかなりの高い確率で、年間2万人以上の自殺者が出ているのが、日本の現状です。

活動内容

内大会があり、チームも約40の都道府県をカバーしていますが、精神障害者自体の人口が多いので、潜在的にはもっとチームができると思っています。
医療関係者が非常に多く、今後はメディア、Jリーグクラブなど幅広く連携を取りながら、事業を展開していきたと思っています。今年の4月に障害者スポーツ大会のオープン競技として、佐賀県で全国大会を行います。ウェブでのライブ配信をする予定なので見ていただければと思います。

日本パラ射撃連盟について

田中辰美氏(特定非営利活動法人日本パラ射撃連盟 常務理事)

概要

スポーツの要素とはパワーやスピードですが、射撃はそれらがあまり役に立ちません。逆に、体の条件を選ばず、その人の気持ちやモチベーションの高さなどで勝負が決まる競技です。
団体は1995年に設立し、その後、法人化を経て会員数は約120名。日本パラスポーツ協会(JPSA)を筆頭に、日本パラリンピック委員会(JPC)、健常者のライフル射撃団体である日本ライフル射撃協会など、いろんな団体と関わりを持って活動しています。
スタートは、国際障害者年が40年ぐらい前にあったのですが、それを機に健常者でライフル射撃をやっていた役員が、射撃は障害のある人にもやれることに気づき、ビームライフルという、教室や会議室でできる、電機仕掛けの射撃の装置で、養護学校の生徒さんらを対象にはじめたと聞いています。パラリンピックの正式競技としては2000年、シドニーで初出場を果たし、以後、なんとか連続出場を果たしており、今年のパリ大会も3名の出場枠を取って連続出場が継続します。

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活動内容

現在は約120名の会員数ですが、東京大会の組織委員会が設立された2015年は98名でした。パラリンピックにいろんなスポーツがある中で、障害のある人にとって、このスポーツは自分にできるのか、できないのかはとても大きなことですが、射撃は障害のある方を引き付ける魅力はあるのかなと思っていました。しかし、傾向としては微増というところでした。
連盟が開催している大会ですが、たくさんはできていません。事業実施はまだまだ弱い状況です。以前は、全日本選手権を年に1回やっていましたが、東京大会を迎える頃にもう一つ増やしました。さらに夏季大会をもう一つ増やし、現在、自主事業として開催している大会は3つとなります

予算規模

収入については経常収入だけご紹介します。最近の4年間は2,000万円超えるようになってきましたが、そのほとんどが助成金というのが実態です。

日本車いすラグビー連盟

青田竜之介氏(一般社団法人日本車いすラグビー連盟 事業企画委員長)

競技の概要

車いすラグビーは、1977年に四肢麻痺の人たちによってカナダで考案されました。ラグビーと言っていますが、バスケットボールやバレーボール、アイスホッケーの要素も入っているオリジナルの競技で、健常者のラグビーとは異なります。ボールも楕円形ではなく、バレーボールの5号球を使用しています。
タックルできる頑丈な競技用の車いすに選手たちは乗っていますが、一番の魅力は、その車いす同士がぶつかり合うコンタクト競技というところです。

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ミッション&ビジョン

この競技は男女混合で、障害の度合いも重度から軽度の方まで幅広い皆さんが、同じコート上でプレーができる競技です。スタッフには健常者も関わっています。そこで、車いすラグビーを通して、障害のある方もない方も、分け隔てなく喜怒哀楽を共有できる瞬間を数多くつくり出し続けることを、ミッション&ビジョンに掲げています。

日本代表

現在、強化指定選手は19名で、この中から12名の選手を選出し、海外遠征や国際大会に出場しています。世界ランキングは現在3位と、強豪国の一つとして数えられ世界からも注目されています。今年行われるパリパラは、昨年6月のアジア・オセアニアチャンピオンシップで優勝して1枠を日本代表が取りました。団体競技としては第1号でした。

国内での活動状況

クラブチームは日本全国各地で9チームあります。中部にはありませんが、それ以外の地域にはチームがある状況です。国内の選手登録者数は最新で99名、スタッフ登録が90名です。国内の大きな大会は、日本選手権大会を年に1回、千葉ポートアリーナで行っています。今年は、会場の都合で横浜になりますが、それに向け予選大会も日本各地で開催しています。昨年のアジア・オセアニアチャンピオンシップは、4日間で2万人の観客を動員しました。こうした大会は、連盟独自で招致活動を含めて進めたり、行政団体とコラボした大会も開催しています。
普及活動にも力を入れており、学校訪問やイベント参加で、車いすラグビーの体験会を実施しています。連盟独自の学校訪問は22校、イベント体験会は41件ですが、これ以外にも各チームや選手独自での学校訪問などもあるので、年間では約200件の体験会を実施しています。これ以外にも、新たな挑戦としてグッズ開発をしたり、最近では国際大会のパブリックビューイングを実施し、大会に行かなかった選手が解説者としてファンと交流を深めるイベントにも力を入れています。

日本車いすテニス協会

岩﨑満男氏(一般社団法人日本車いすテニス協会 副会長)

概要

私は、もともと車いすテニスのプレーヤーで、1992年のバルセロナパラリンピックの日本代表です。そしてこの時、車いすテニスがパラリンピックで初めて正式種目になりました。
当協会は1986年に日本車いすテニス連絡協議会として発足し、その後、1988年に日本車いすテニスプレーヤーズ協会という選手会のような協会が発足しました。そしてこの2つが統合し、1991年4月1日に新しく日本車いすテニス協会という名称で設立し、2015年4月1日に法人化しました。会員は400名弱です。

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車いすテニスの歴史

1970年代、アメリカのブラッド・パークスという方が、アクロバットスキー中の事故で車いすユーザーになり、何とか車いすでテニスができないかと考え、この原型を作りアメリカで大会を開きました。日本には70年代後半から80年代にもたらされたようです。

現状

クラス分けは、男子と女子のクラス、男女混合のクアードクラスという3つです。メダルについては、東京パラで男子は国枝氏が金メダル、女子はシングルで銀、ダブルスで銅、クアードもダブルスで銅を獲っています。
認知度は、国枝氏の活躍でかなり向上したと考えています。今も若手の成長が著しく、その活躍で認知度は維持できると考えています。
協賛金等は、東京パラでは微増でした。我々も広報室を設置し、広報活動を積極的に行ったおかげで、スポンサーの数も増えてきました。東京パラ後も増加しています。
育成については今後、ジュニアを主眼としてやってきたいと考えています。
東京パラ後は、国際テニス連盟(ITF)のクラス分けが厳しくなっており、この認定を受けないとITFの大会に出場できず、認定を受ける方がかなり少なくなっています。国内でのITFの大会数は東京パラの前までは減少しました。しかし、東京パラ後はITFのジュニアの大会を協会主催で初めて行ったほか、一般の大会に車いす部門を併催するなど、大会数としては増えています。今後も、維持か微増になると思っています。

[ディスカッションテーマ1]

2013年 東京パラ開催決定〜東京2020パラ開催(2021年)までについて

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岩﨑満男氏(一般社団法人日本車いすテニス協会)

国枝選手の活躍で、障害者スポーツが福祉からスポーツへ

パラスポーツの認知度の向上としては2つあると思っています。1つはスポーツ基本法が成立し、2015年にスポーツ庁が設置され、厚労省の管轄だったのが、スポーツ庁に一元化されたこと。そしてもう1つは、パラスポーツの象徴として、車いすテニス選手であった国枝さんの存在だと考えます。
東京パラの車いすテニスは、国枝さんで始まり国枝さんで終わりました。彼は、北京、ロンドンを二連覇していますが、絶対王者として車いすテニスのレベルを格段に進化させました。

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競技のレベルを上げるのは、簡単なものではありません。車いすテニスに技の難度があるとしたら、私の選手時代は、せいぜいAとかB。しかし国枝さんはG難度ぐらいのレベルに引き上げたのです。その結果、車いすテニスが一般の方にも観戦してもらえるレベルになり、車いすテニスを含めたパラスポーツ全体の認知度が飛躍的に高まったと思います。
以前は、車いすテニスを含むパラスポーツは福祉として見られており、試合結果は新聞の社会面でした。それが国枝さんの活躍も含めてスポーツ面に載るようになったのは大きな進化であり、パラスポーツ界では初の国民栄誉賞の受賞につながったのだと思いました。

司会東京パラまでに広報室を設置されていますが、この影響、効果はどういったものがありましたか?

広報室がなかった時はスポンサーの獲得が難しく、その課題をクリアするために専従のスタッフを迎えまたした。スポンサーさまとは密に連携をとることができたのは、かなり大きかったと思います。

青田竜之介氏(一般社団法人日本車いすラグビー連盟)

組織改革の実施。東京パラを境に知名度が格段に向上し、ボランティア登録も大幅増

2016年のリオパラで初の銅メダルを獲得しており、東京パラは自国開催でもあり、金メダルを絶対に取ると結果に注力をしていましたが、結果的には銅メダルで終わり選手たちも悔しい思いをしたので、それがパリにつながってくると思います。
連盟としては、内部の組織構造を改革しました。これまでは理事が委員長を兼務する体制でしたが、それを東京パラの直前に理事と委員長を明確に分けることで、細かなところに手が回るようになりました。スポンサーも増えてきて、それが今もずっと継続しています。

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東京パラで大きく変化を感じたのは、知名度が格段に上がったところです。NHKで全試合、地上波で放送され、SNSのフォロワーも、東京パラの前の300人から、TwitterやFacebookは一気に6,000人へ。あとは、ボランティアさんの登録も、東京パラの前までは年間で約20〜30名でしたが、東京パラをきっかけに増え、今は200〜300名の登録があります。

司会東京パラの直前に組織体制を改革し、理事と委員長を分けた効果があったようですが、これは今も効果が表れていますか?

今までは委員長が相談する相手は最終的に理事長しかいませんでしたが、今は委員長がまず理事に相談でき、それを専門的な知識を持つ他の理事に相談でき、さらに理事長にも相談できる組織体制が構築されました。意見が通りやすく、風通しのよい体制になったと思います。

田中辰美氏(特定非営利活動法人日本パラ射撃連盟)

東京大会は、射撃界の健常者と障害者をつなぐ素晴らしいレガシーを残した

東京大会の前に、新しい支援が生まれてきました。助成金の額も大きく増やしていただきました。その象徴がパラスポーツサポートセンターです。東京の赤坂という素晴らしい場所に、無料でオフィスが構えられます。今も継続してくださっていますが、人件費という極めて異例な助成金もありました。ところが使い切れなかったのです。いろんな処理をしないといけませんが、それをやる人材もいない状態で、ご支援をお受けするのが数年遅れました。

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また東京大会ということで、皆さん“レガシー”を残そうと言っていました。射撃は巨大なレガシーが残ったと思っています。射撃は同じ会場でオリもパラも実施しましたが、実は大会運営能力はパラ射撃連盟にはありませんでした。審判もいない。そもそも射撃というスポーツの認知が低く、日本で始めるのには制約がある中で、健常のライフル射撃のトップの方々が、一緒にやろうと言ってくださったのです。実際に、健常の国際競技役員の資格を持っている方々が総がかりで2回の大会をやってくれました。
この時に健常者の射撃しか見たことがない方たちは、世界中から集まった車いすの射撃の最高レベルの選手たちを目の当たりにしたのです。それで変わりました。健常も障害も同じだと気付いてくれたのです。

佐々毅氏(特定非営利活動法人日本ソーシャルフットボール協会)

以前は特別視されていたが、スッとパラスポーツとして受け入れられた感触がある

2013年から2020年の期間では、2013年に協会が設立されています。そもそも、精神障害者が手帳を受けとるようになったのが1995年。それまでは国から障害者として認められていませんでした。その後、厚生省の主導により三障害が一緒に、障害者スポーツ大会でバレーボールが行われるようになったのが、2006年ぐらいだったと思います。

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バレーボールに参加した選手は、以前実はサッカーをやっていた人がたくさんいて、精神科医や福祉関係者が広げ、草の根的にサッカーやフットサルのチームが全国的にできてきて、それをまとめたのが2013年でした。その後スポーツ庁ができて、それまでは自治体では、障害福祉関係の部署が担当していたのが、スポーツ関係の部署に移管された。これが一つ大きいと思います。福祉的な視点は必要ですが、精神障害者がスポーツを楽しむ機会をより多く得たり、気兼ねなく活動できるという部分で、障害者スポーツに入ったことが大きいと思っています。その結果、組織的には医療福祉関係者が、ある資金だけで回していたところから、小さな医療界だけでなく、いろんな連携、資金的にもいろんなチャンネルを作っていくことが必要だとし、それをどうするかを考え始めたのがこの期間になります。

司会東京パラがあり精神障害のスポーツ、フットサルというところも、認知度的は体感として上がっている感覚はありましたか?

精神障害というのはよくわかっていないけれど、なんとなく特別視されていたものが、スッとパラスポーツとして受け入れられた感触がありました。

[ディスカッションテーマ2]

東京2020パラ開催後(2021年)〜現在(2024)までについて

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小淵氏競技団体の方向性については2017年の調査から3つの視点が見えてきました。1つ目は障害者スポーツ競技団体として自立・自走する団体。2つ目は健常者の団体と一緒にメインストリーム化していく団体。3つ目が共同事務所としていくつかの競技団体が一緒になり、事務局機能を一元化して運営する形です。
そこで、予算やスポンサー獲得、事業の進め方を含め、この期間の競技団体として方向性についてお話しいただければと思います。

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岩﨑満男氏(一般社団法人日本車いすテニス協会)

スポンサーさまのご理解で、若手育成のための国際大会開催と海外派遣が可能に

3つの視点のうち、競技団体の自立、自走については、経常収益的にはスポンサーさま、強化助成金が全体の収益の8割ぐらいあります。
強化費は、実際にメダルを獲得するための財源ですので、普及・育成に使えません。若手に投資をしたいという観点では、やはりスポンサーさまのご理解や、自己資源、自己財源で進める戦略を立てないといけません。

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今回、かんぽ生命さまにご理解いただき、次世代の若手にてこ入れをしていただきました。具体的には、ITFの大会の中にジュニアの大会もありますが、今まで日本では開催されていませんでした。それが2023年、初めて3つの大会を新設し、そのうちの1つに協会の主催で、ジュニアのみの大会を開催しました。これにかんぽ生命さまの協賛金を使わせていただき、昨年の12月、優勝者、準優勝者を、特別プロジェクトとして支援し、コーチ帯同でトルコに派遣しました。これによりジュニアのランキングポイントも獲得でき、シニアのランキングポイントも獲得できたのです。

今年のワールドチームカップが5月にトルコで開催されますが、ジュニアもランキングポイントが向上したおかげで出場が有力になりました。

司会今までできなかったジュニアの大会を、スポンサーさまにお願いして開催したというとことですが、どう説明をして、ご理解いただいたのですか?

かんぽ生命さまが、ジュニアに力を入れたいと常々お話をされていたので、それに上乗せし国際デビューを早めにすることで、大きなチャンスを与えられるという議論をしながら、ご理解いただいた経緯があります。海外のジュニアの選手たち、例えばヨーロッパは国と国が近いので、ヨーロッパの試合だけでポイントを取れますが、日本のジュニアの選手たちは海外に行くチャンスが少なく、ポイントを取る機会が国内に限られているので、そこを重点的にお話して、海外遠征に行けるような支援についてご理解をいただきました。

青田竜之介氏(一般社団法人日本車いすラグビー連盟)

国際大会の誘致を実現。スポンサー・ファンとのつながりを丁寧に実行

我々は競技団体として自立、自走の方向性で動いており、国際大会の誘致に力を入れています。東京パラ後に事務局主導で招致活動をし、昨年6月にアジア・オセアニアチャンピオンシップを開催できました。事務局は4名の専任がいますが、全員が女性で、うち3名が子育て中で、朝、保育園まで送り出し、出社して招致活動をして、子どもたち寝かしつけた後に資料を作るなど、3カ月ぐらいかけて実現しました。

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達成できたことで気持ちがさらに前向きになり、今後も東京パラのムーブメントを継続的していけるよう、大会を招致していこうとなっています。さらに、独自の国際大会を開催すべく渋谷区とコラボした“SHIBUYA CUP”という若手育成の国際大会も進めています。

大会の実施にあたり、既存のスポンサーさまが協力してくださっていますが、定期的に会社を訪問し、連盟が何を考えているのかを担当の方々にじっくり説明しています。そこでは皆さまからアドバイや提案もあり、それを連盟で具現化してみる動きも生まれ、スポンサーさまとのつながりも、少しずつ変化しています。東京パラ以降、1社も減っていないので、今後も丁寧にお付き合いしていこうと考えています。

ファンづくりは、大会で選手を直に見てもらうのが一番ですが、アスリートが一緒になったファンづくりとして、パブリックビューイングの実施のように、大会の招致・開催以外の企画を新たにつくり、新たなファンの獲得につながる入り口を増やし、継続してファンの方々に支えてもらえるような団体を目指しています。

司会スポンサーさまのところで、定期的に会社訪問をしてじっくり話すというのは、やっていない取り組みですが、実際の成果、効果はどういうものですか?

この3月に健常者の方々に競技用の車いすに乗っていただいての大会を開催しますが、それも訪問の時に“できたら面白い”というお話から、実現させた企画です。そういう新しいことが生まれてくることがあります。

田中辰美氏(特定非営利活動法人日本パラ射撃連盟)

9団体による協働プロジェクト“P.UNITED”で、弱みを強みに!

先ほどレガシーの話をしましたが、東京大会のレガシーが我々にはありました。自力では大会を増やせないと思っていましたが、健常側の役員の方々が一緒にできることに気付いてくれたのです。

しかし、射撃はスポーツとしての認知が広がっていきません。これは大きな課題でなかなか解決できない。“スポーツなの?” 怖くない?“。実態は違うのですが、理解してもらえない。そこで健常側も、射撃は一つのスポーツであり、男女が一緒にできるし、子どもも高齢者もできる。さらに障害があってもできるという共生社会の実現につながるスポーツとして、我々との接点が生まれたんです。正直、今後日本のスポーツを変えていくためにも、スポーツ庁が“オリパラは一緒にやるべき”と言ってくださればと思います。射撃は健常も会員がなかなか増えずに苦しいので、2年前から進めていますが、これは大きな一歩だと思っています。

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それから“P.UNITED”についてです。我々の自己財源は600万程度。それまでは100万程度でしたが、自力で団体運営ができるようにといっても、正社員1人を雇う予算も確保できません。そこで、1人でできないのであれば、一緒にやろうということで昨年から始めたのが、9団体による協働プロジェクト“P.UNITED”です。実はスポーツ庁からスポーツ団体の組織基盤の強化の助成金が認められ、昨年からこのプロジェクトにいただいています。

そして重要なのはマーケティングです。団体として成り立っていくための資金を得ないと、将来はないという危機感があります。そこで今できる取り組みとして、マーケティングのプロに入ってもらいましたし、9団体が集まってこその魅力を出していきたいと考えています。

佐々毅氏(特定非営利活動法人日本ソーシャルフットボール協会)

サッカー関係者、指導者などとの連携を広めないと継続できない危機感が活動を後押し

この期間は、東京パラよりもコロナの問題が大きくありました。病院や施設母体のチームが多いことで、コロナ禍により完全に活動がストップしました。スタッフが他県に行けないとか、特に医療関係の感染対策は強く、いまだに続いています。2年間も活動しないと選手も離れ、最盛期は2,000人以上のプレーヤーがいましたが1,000人以下に落ち込みました。医療関係だけでは、こうしたリスクが出てきてしまうため、サッカー関係者、障害者スポーツの指導者などとの連携を広めないと継続できない危機感がありました。

一方、JIFF(日本障がい者サッカー連盟)としての活動は、これも広い連携が必要です。JFA(日本サッカー協会)としても、指導員に対して障害者サッカーの研修をすることが制度としてできました。我々は、共同事務局がJIFFにあり、その加盟団体で事務局の業務を共有していますが、電話や郵便の対応などに限られています。JIFF自体にもやはり体力が必要で、資金と人材があれば、助成金の取りまとめ等を一括で行うことで、各団体が情報共有できます。

やはり我々もスポンサー・パートナーさまの力を借りながら自走すべきと感じています。ただそのためにはwin-winの関係が必要です。
そもそもメンタルヘルスは大きな社会課題で、8人に1人はなんらか問題があり、うつ病、統合失調症、不安障害だけでも、社会的なコストは1年で8兆円を超えます。各企業も、多くの社員が休職やパフォーマンスを低下させるなど、メンタルヘルスの問題が非常に大きいのです。

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障害者雇用では、精神障害者の雇用が平成30年に義務化され、そこから拡大していますが、一方で定着率が低い。そこには、コミュニケーションの問題があるわけです。そこでこうした社会課題を一緒に解決していこうというお話をさせていただき、パートナー企業を募っていく戦略を考え、昨年1社のパートナー様を得ることができました。

[ディスカッションテーマ3]

今後(2024年以降)〜について

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佐々毅氏(特定非営利活動法人日本ソーシャルフットボール協会)

社会課題に向き合い、企業、一般の方、そして障害者自身の成長を促す組織体でありたい

まずメンタルヘルスの問題、社会課題と向き合って、企業、あるいは一般の方、そして障害者自身の成長を促すような組織体でありたいと思っています。
現状、まだ内部は非常に脆弱で、私が助成金の計算から、合宿の時は洗濯などの雑用をやっている状況です。ただ、我々も委員会をつくり、徐々に私の負担を軽くするなど、ガバナンスも強化して進めたいと思っています。

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田中辰美氏(特定非営利活動法人日本パラ射撃連盟)

いろんな人がいるけれど、みんな一緒に暮らしていこうと気付けるかどうかなんだ

P.UNITEDは、一つ一つは脆弱な9団体が手を携え、未来で生き残るための活動だと思っています。そもそもパラスポーツは、とても価値があると訴えてきました。では、何でパラスポーツっていいのだろうかと思った時に、みんな人間であり、障害があってもなくても、人間っていう存在を理解するための一つの切り口にすぎないんじゃないかと思っています。

公開シンポジウム「障害者スポーツ競技団体の実情 〜東京2020パラリンピック終了後の課題と今後の展望〜」を開催しました

共生社会と言いますが、障害があるから、メンタルの問題を持っているからということではなく、いろんな人がいるけれどみんな一緒に暮らしていこうと、そこに気付けるかどうかなんだと思います。日本ライフル射撃協会の皆さんも、同じだと気付いてくれました。僕もいろんなことをお手伝いしながら、だんだん気付いてきている気がしています。
我々がやっていることの価値はそこなんだと思っていますし、もっと多くの人に知っていただくためしっかりと活動していく必要があります。今、P.UNITEDに対し、仮に1企業が500万円サポートしてくれたとします。9団体なので56万円です。だから、もっとご支援いただけることを切に願っています。

青田竜之介氏(一般社団法人日本車いすラグビー連盟)

若手選手の発掘育成、そして日本がアジア全体の競技レベルをリードする

パリパラ以降も含め、日本代表選手の年齢が上がり、選手発掘もできておらず、連盟としても長く課題として抱えているのが若手育成です。そこで、若手育成の一つとして“SHIBUYA CUP”という大会があるように、選手になり得る人材を見つけ、育成できるような環境を整えることが今後の目標の一つです。
また、タイやインドが車いすラグビーを始めていますが、スタッフの育成も含め、国際レベルまで育っていません。そこでアジア圏の車いすラグビーをリードしていける立場として、車いすを直す専門のスタッフも含めてタイやインドに派遣して、技術面からサポートしていくなど、日本がリードして、アジア全体の競技レベルを向上していきたいと考えています。

公開シンポジウム「障害者スポーツ競技団体の実情 〜東京2020パラリンピック終了後の課題と今後の展望〜」を開催しました
岩﨑満男氏(一般社団法人日本車いすテニス協会)

日本のテニス協会との連携をより密にして国際化に対応していく

今後の在り方として2つあります。健常者団体との統合と事務局機能の一元化です。というのも、私たちは国際テニス連盟(ITF)の管轄に入っていません。ITFは、1つの国に1つの団体しか認めておらず、日本テニス協会とITFがつながっているので、車いすテニス協会はつながっていないのです。だから我々は、日本のテニス協会との連携をより密にして、国際化についていく必要があります。
事務局の機能一元化は、スポンサーさまとのコミュニケーション不足で資金獲得のチャンスを失ったり、選手とのコミュニケーション不足という課題に対応できるようにすることで、もっと車いすテニスを発展させていこうと中長期を考えています。

公開シンポジウム「障害者スポーツ競技団体の実情 〜東京2020パラリンピック終了後の課題と今後の展望〜」を開催しました

パネルディスカッションまとめ

小淵氏東京パラが1年延期になり、現在も平時に戻ったとは言いにくい中で事業を展開し、スポンサーの獲得をしていくのは、相当大変なことだと改めて感じています。それに対して皆さんは、創意工夫をし、いろんな形の新しい価値を提供し、多くの理解者を増やしていこうと取り組んでいる姿には、尊敬の念を抱かざるを得ません。
今年はパリパラがありますが、2025年にはデフリンピックもありますし、2026年にはアジパラと、いろんな国際大会が日本で行われます。そこで、いろんな方に興味もってもらいながら、競技団体の運営も少しでもよい方向に進んでいければいいのかなと思っております。

シンポジウムを終えて

藤田紀昭氏
(日本福祉大学スポーツ科学部教授、ヤマハ発動機スポーツ振興財団障害者スポーツ・プロジェクト プロジェクトリーダー)

本プロジェクトは2012年に開始しました。この間、障害者スポーツを取り巻く環境は大きく変化してきましたが、その中でしっかりとエビデンスを残せてきたと自負しています。具体的には、大学における障害者スポーツへの支援のあり方、現在も継続中である選手のスポーツキャリア。これは今年で76名の調査を終えています。2024年度は100名を目指して積み上げていきたいと思います。

公開シンポジウム「障害者スポーツ競技団体の実情 〜東京2020パラリンピック終了後の課題と今後の展望〜」を開催しました

また今日のメインのテーマでもありましたが、指導者や競技団体の調査。そして、地域の現場の実態や、パラリンピアンの社会認知度、メディアでの取り上げられ方。ケーススタディとして、パラリンピック教育の実態について調べてきました。これら独自の視点でエビデンスを残せてきたと思います。
2023年度も3月に、大学支援の実態、選手のスポーツキャリア、競技団体の調査。ケーススタディとして、パラリンピック教育について調査した結果をまとめた報告書を発行する予定です。ぜひ、ご覧いただければと思っています。そして調査にご協力いただいた選手をはじめ、関係者の皆さんに心から感謝を申し上げます。ありがとうございます。
今後も日本の障害者スポーツの実態を明らかにしつつ、情報提供をして障害者スポーツの発展、ひいては共生社会の実現に微力ながら貢献できればと思います。