スポーツチャレンジ賞

スポーツ界の「縁の下の力持ち」を称える表彰制度
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第14回 奨励賞 山下良美

第14回 奨励賞 山下良美

女子国際主審・サッカー1級審判員として国内外の試合で主審担当。スポーツ界における女性活躍を牽引

「足でモノを蹴るなんて、普段はお行儀が悪いと禁じられているのに、サッカーって足でボールを蹴っていいんですよ(笑)」茶目っ気のある表情でサッカーの魅力について語る山下良美さん。「しかもあれだけ大きなゴールに11人で一つのボールを入れるだけなのに、なかなか点が入らない。ルールは単純。でも色々な戦略が考えられるし、仲間と一緒にゴールを追い求めるチームスポーツとしての魅力も面白い」と目を輝かせ「サッカーへの熱はいつまでも冷めない」と続ける。だから審判をするにあたって、「次のプレーはこうかな」「ここでパスを出してくるかな」「攻撃の組み立てはこうかもしれない」などゲームの流れを読み、最もプレーが見やすい位置に動いているときに「え?そこにパス出すの?」「そんなコントロールするの?」と思いがけない名プレーを誰よりも間近で目の当たりにすると、審判冥利と純粋に喜びを覚えるそうだ。

そのサッカー大好きな山下さんが、審判を始めたのは大学の先輩に誘われたことがきっかけ。当初は興味がわかなかったと振り返る。しかし社会人チームでプレーしながら審判員を兼務する中で、日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)の副審を担当できる2級の資格を取得した際に、女子のトップリーグに関わる責任の重さを実感。自身がプレーしているときは審判員の存在を気に留めたことがほとんどなかったからこそ、「自分が憧れる女子サッカーのトップリーグのフィールドに立ち、サッカーの魅力をより多くの人に伝えられるなら、審判員という新しい関わり方もある」と審判への道を決意した。

とはいえ、審判は心身ともにタフさが求められるハードな職務。1試合で走る距離は10kmを超える。プロの審判員ではないため、試合がない日は普通に働いており、帰宅後トレーニングに励む。メニューは基本、審判試験で行われる体力テストと同じもの。持久力、スピード、筋力、瞬発力など満遍なく鍛えなければならない。しかも「チームメイトやコーチのいた選手時代とちがい、とても孤独」だと言う。さらに試合に向けては、チームの状況や選手の特徴など、情報収集も欠かさない。とにかくひたむきで、向上心にあふれ、勤勉。常により正確な判定をするための努力を怠らない。だからだろう、選手への声の掛け方や自身が下した判定について、「こうしたらもっとよかったのではないかと、毎試合、反省ばかり」と山下さん。「見返したくない試合もある(苦笑)」が、客観的に見て分析し次に活かす。とにかく今できること、目の前の試合一つひとつに全力で取り組み、改善を重ねることで、Jリーグで主審を担当する今のポジションにたどり着いた。

そんな山下さんにとって最も印象深い試合は、主審を務めた2015年の皇后杯全日本女子サッカー選手権の決勝戦。日本女子サッカー界を牽引してきた澤 穂希さんの引退試合であり、2万人を超える観客が詰めかけた。「自分がサッカーを始めたとき、女の子はほとんどいませんでした。チームにはもちろん私だけ。だから、女子サッカーの試合にこれだけの人が集まり、いろんな人が女子サッカーの話で盛り上がっていて、とにかくそういう雰囲気が良かった。これだけ多くの人を惹きつける、日本の女子サッカーの力を感じたんです」

女性審判員として注目されることに抵抗がないわけではないが、審判や女子サッカーへの興味関心をかき立て、ひいてはサッカーの振興につながるなら嬉しいと山下さん。

「Jリーグで私が主審を担当できたのは、先輩方の莫大な功績のおかげです。全国の女性審判員がそれぞれの立場で信頼を積み重ねている努力を無駄にせず、基準をクリアし1級の資格を取れば、誰もが男女どちらの試合も担当できるのが当たり前になるよう、次につないでいきたい。そのために目の前の試合に一つ一つ集中するだけ」

感情が突き動かされるタイプではないと自身を分析する山下さんだが、「選手が安心してプレーに集中できる環境をつくり、お客さんが夢中になれるゲーム運びのためにも、最近は選手のプレーだけでなく内面にもフォーカスする審判を心がけています」。どこまで上り詰めても「もっと良くするには?もう一歩先へ」の気持ちは微塵も揺るがない。

第14回 奨励賞 山下良美

山下 良美(1986年生・東京都出身)サッカー1級審判員・女子国際主審

兄の影響で、4歳ごろからサッカーを始める。以来、女子サッカー部がなかった高校時代を除き、大学卒業後までも社会人チームでプレーを続けるほど、サッカーに傾倒。大学時代に国際審判員として活躍する先輩に誘われ審判員としてのキャリアをスタートさせると、2012年に女子1級審判員、2015年から国際審判員(女子主審)に登録。2016年、2018年にFIFA U-17女子W杯、2019年にはFIFA女子W杯とAFC CUP2019(男子)で主審を担当。2019年12月に1級審判員に登録され、天皇杯やJFLで主審を務める。そして2021年Jリーグ史上初の女性審判員として主審を担当。第32回オリンピック競技大会(2020/東京)でも主審として参加した。