
モノ作りに対する考え方
佐藤正直なところ、最初は遠藤さんの考えていたプロジェクトの全体像が見えなかったんです。遠藤さんについてインターネットで調べて、なんかインドで義足を作っているらしいぞ、みたいな認識しかなくて。なので、ちょっと胡散臭さはありましたね、笑。やっぱりこの人も商機としてのパラリンピック東京大会だけが目当ての人なのかな、と。
遠藤まあそうだよね。実際、東京でのパラリンピック開催が決まってからは、そういう人たちも多かったんだろうし。それでも圭太はまだマシな方で、僕の話を聞いてはくれました。
佐藤実際に会って話してみると、ああこの人は大丈夫だってすぐにわかりましたから。新しいブレードを作るというプロジェクトに対する興味や期待感はありましたし、とにかくそこに、あの、為末大さんが加わってくれる、というのが一番の魅力でしたね。
遠藤為末大とは2012年からの知り合いで、このプロジェクトの前から、彼自身も義足というものに陸上選手の視線から興味を持ってくれていました。いつか、なにか一緒にやりたいねと。
YMFSしかしアスリートにとって競技用の義足をそれまで使い慣れていたものから新しいものに変えるというのは、それなりのリスクを伴うものではないのでしょうか?たしかまだその時点では、遠藤さんの新しいブレードは形にすらなっていなかったんですよね?
佐藤たしかに大きな変化が起こることは間違いないです。ただそれをリスクと捉えるのか、良い変化が起こる可能性と捉えるのか。僕は後者でしたね。
遠藤僕個人の考えとしては、アスリートは間違いなくいろいろなブレードを試したほうがいいと思うんですね。リスクがあるとすれば、いろいろなブレードを試していく過程で、いろいろな事情から絶対このブレードを使わなきゃいけないっていう制約が生じてしまうことだと思います。だから僕は、現物ができたタイミングで、もしそれが気に入ったら履いてほしいし、もし気に入らなかったらごめんなさい、そんなアプローチでしたね。
YMFS選手の側からすれば、そこにメリットを感じるから参加している、一方で遠藤さんとしてはまだ試行錯誤の段階。選手にこれだというものをすぐに提示できないことに、焦りや引け目みたいなものはなかったのですか?
遠藤日本では一般的に、新しい技術を用いた新製品などはプレスリリースまでひた隠しに隠して、できた上がったモノを、はいこれをどうぞ!と選手に使ってもらう企業が多いと思います。でも僕自身のモノ作りに対する考え方は異なっていて、プロジェクトの初期の段階から選手と一緒に話しながら試行錯誤して作っていった方が、最終的によりいいものができると思うんです。その方が選手にとっても納得のいくものができるんじゃないかと。
佐藤まあダメならダメで、元々使っていたブレードに戻せばいいだけだったので。あとは、いま遠藤さんが言いましたけど、いいものができなかったらごめん、って最初の段階で先に謝ってもらっていましたから。だったら、うまくいかなくても許してあげるしかないな、と、笑。
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