年度別チャレンジャー一覧

助成対象者のチャレンジ概要
佐藤 耕平
氏名
佐藤 耕平(さとうこうへい)
助成実績
スポーツチャレンジ研究助成:第1期生
呼吸法の違いがレジスタンス運動時の脳血流調節に及ぼす影響

脳は、体の中で、血液の供給不足で最も被害を受けやすい部位です。血液供給が数秒間中断されると意識消失が生じ、10分程度で致命的なダメージを受けるとされています。しかしながら、幸運なことに、これまでの研究では、多くの生理学的な状況下において、脳の血流量は一定に保たれる傾向があります。これを「脳の自動調節」といい、脳の血流に最も影響を及ぼす「血圧」に関連しています。ヒトでは急激な血圧の増減に対して、およそ数秒で脳の自動調節が働き、脳血流を一定に保とうとします。しかしながら、この血圧がある範囲(平均血圧で150mmHg前後)を超えた場合、血圧の増加に伴って脳の血流も増加します。ウエイトリフティング競技者が競技中や、トレーニング時に希に引き起こす意識消失(ブラックアウトという)の要因は、脳血流の減少が要因であると考えられています。ウエイトリフティング中の収縮期血圧は300mmHg(安静時は110-130mmHg程度)にも達することが知られています。この場合、前述した脳の自動調節からみれば脳の血流は増加するはずであり、ブラックアウトの原因とはならないはずです。つまり、高強度の運動中には、何か他のメカニズムが脳の血流の減少をもたらしていると推察できるのです。我々は、このメカニズムとして運動中の呼吸の仕方、が関係していると推察しています。ウエイトレーニングや高強度レジスタンス運動中に良く見られる呼吸法は「息こらえ」であり、この呼吸法が脳血流に影響しているという可能性が考えられます。アスリートや一般の方が、ウエイトトレーニングを行う現場では、よく「運動中は息を止めないように」と指導されていますが、これは経験的な脳血流の現象を防ぐ一つの手段ではないかと考えていますそれでは、息を止めなければ脳血流の減少は防げるのでしょうか。走ったりした時のような呼吸が増加した状態(過呼吸)でウエイトトレーニングを行うと、脳血流はどうなるのでしょうか。現在のところ、運動中の脳血流応答と呼吸法の関連性にはまだまだ不明な点が多いのです。

そこで、我々は、「呼吸の仕方」が高強度レジスタンス運動中の脳血流応答に与える影響を、実験的に検証してみようと考えています。具体的には、息を止めないで高強度のレジスタンス運動をした場合や、息こらえをしながら運動を行った場合、さらには過呼吸の状態で行った場合など、いくつかの呼吸条件での脳血流応答を明らかにしたいと考えています。近頃では、アスリートの競技力向上のためだけではなく、一般の方も健康維持の目的でレジスタンストレーニングを行う機会が多くなってきています。本研究課題では、「脳血流の減少を防ぐ呼吸法」という観点から、アスリートから一般の方までが安全にトレーニングを行うことができるような基礎的なデータを供給したいと考えています。