クローズアップレポート

伊藤 健太

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伊藤 健太

水泳/選手


迷いは捨てた。100mで勝負!
〜50m自由形のスペシャリストがくだした決断〜

インカレでつかんだ自信

2011年9月4日、日本学生選手権(以下:インカレ)・最終日。伊藤健太選手は100m自由形•決勝の舞台に立っていました。本来、専門としている競技は50m自由形。しかしこの100m自由形に伊藤選手は、自分が望む未来「ロンドンオリンピック出場」を託す覚悟で臨んでいました。

伊藤選手は高校、そして大学と50m自由形を専門に取り組んできました。「やればやっただけ記録が伸びたし、タイトルも獲得してきました。何度か100mを専門にすべきとのアドバイスをいただきましたが、僕は根拠のない挑戦ができない性格。だから成功体験のある50mでオリンピックを目指すと決めていたのです」。そして今シーズンも伊藤選手は50m自由形で国際大会代表選手選考会(4月)とジャパンオープン(6月)を連覇。8月のユニバーシアード代表に選出され、ロンドンに向け着実に前進を続けてきました。ところがこうした輝かしい結果とは裏腹に伊藤選手の気持ちは決して晴れやかではありませんでした。「シーズン前半に目標としていた日本記録を更新できず、泳ぎもいまひとつ。ただそれでも自分には50mしかないと言い聞かせていましたね」。

迎えたユニバーシアード、50m自由形で伊藤選手は予選落ちという厳しい結果に直面します。しかしそのときすでに伊藤選手の頭には「100m」の文字が強く擦り込まれていました。

「日本代表コーチ陣から、ユニバーシアード期間中に100mへの切替えを勧められたのです。実は8月に行われた世界水泳のメドレーリレーで日本は4位となりました。このとき第3泳者まではトップをキープしていながら、自由形でかわされメダルを逃したのです。日本にとってメドレーリレーはメダルを獲らなければならない種目なのに、獲れなかった。そう考えると日本競泳界にとって100m自由形で強い人材を育てることが課題となっていたと思います。その課題を解決するため代表コーチ陣が選んだ一人が僕だったのかもしれません。50mの状況が良ければマイナスに捉えていたかもしれませんが、このときはコーチの方々の言葉を素直に受け止めることができました。僕に期待してくれているんだって」。

ユニバーシアード終了後、伊藤選手がインカレに向けて取り組んだのは100mの練習でした。それは伊藤選手の苦手な根拠のない挑戦でしたが、「逆にいえば100mでオリンピックを目指す根拠を作る挑戦でした」と伊藤選手は話します。

100m自由形の予選をトップで通過した伊藤選手は記者たちに「絶対に結果を出してみせます!」と胸を張って答えます。「自信なんてありませんでしたよ。でも引き返せないよう自分にプレッシャーをかけたのです。ただ、不思議とプレッシャーはありませんでした。自分は挑戦者でしたから」。

そして100m自由形決勝、伊藤選手は50mをトップでターン。残りの50mはライバル選手と二人で抜け出し、どちらが勝ったのかわからないままゴールを迎えます。数秒後、電光掲示板に48.78秒というタイムが映し出されると会場が大歓声ではじけます。それは大会新記録であり、今シーズンの100m自由形日本ランキング1位、日本歴代2位の記録だったからです。そしてこの記録を出したのが伊藤選手でした。と同時に「100mでオリンピックへ行こう!」と、気持ちを固めた瞬間でもあったといいます。

ドリームチームの一員として金メダルを狙う

伊藤選手が100m自由形でロンドンを目指そうと決心したのは、インカレでの優勝や日本人の適正のほかにも理由がありました。それがオリンピックに出場できる可能性の高さです。50m自由形で出場できるオリンピック種目は1つ。これに対して100m自由形は個人の100m、400mフリーリレー、400mメドレーリレーの3つがあり、しかもフリーリレーは日本ランキング4位以内に入り、上位4人の合計タイムが標準記録を上回っていればよいのです。

伊藤選手は「ランキング4位以内も簡単なことではありませんが、そこを狙っていては大きな成長も臨めないしモチベーションも上がりません。そこで照準を合わせたのが400mメドレーリレーです。メドレーリレーは各種目のNo.1の選手でチームを作るので、必然的に来年に行われる選考会では1位を狙わなければなりません。さらにタイムが良ければ個人の100mでも代表になれるだろうし、日本のトップ4人の合計タイムによっては400mフリーリレーも出場でき、メドレーリレーに照準を合わせることでいろいろな可能性が見えるのです」。

さらに伊藤選手の目標は大きく膨らんでいます。それがオリンピックでのメダル獲得です。ロンドンでは柔道や体操などと並び、日本競泳陣に多くのメダルが期待されています。現時点でメンバーは決まっていませんが、平泳ぎの北島康介選手、背泳ぎの入江陵介選手など世界のトップスイマーが揃っている日本にとって男子400mメドレーリレーはまさにドリームチームであり、「金メダル」の獲得が期待される種目の一つなのです。

「50mでオリンピックを目指している時は出場することが目標でした。100mに照準を合わせた今は違います。オリンピックに出場するのであればやっぱりメダルが欲しい。でも、過去の戦績や世界水泳の結果が示している通り、日本の100m自由形は50mほどではないにしろ世界に遅れをとっています。仮に僕が今の実力のままメンバーに選ばれたとしても世界水泳と同じ結果になってしまうでしょう。メダルを狙う以上はどんな状況にあってもコンスタントに48秒台を出せること。それには日本記録を更新するだけでなく、47秒台を視野に入れた練習が必要になります。100mについてはインカレでの泳ぎが自分にとってのマックスでしたが、実際は失敗もあったし課題も見えています。そういう意味で、100mの限界はまだまだ先にあります。それにこれまで50mで築いてきたスプリント力も生きるはず。本当にこれからが楽しみです」。

以前の伊藤選手にとってオリンピックとは自分のためのものだったことでしょう。そしてこの気持ちは今も変わらないことでしょう。しかし「メダルを意識したことで、日本のために力を尽くしたいという気持ちが芽生えてきました。大げさに聞こえるかもしれませんが、100m自由形の選手はメドレーリレーにおいてキーマンだと思います。だからこそ僕が日本に金メダルをもたらすつもりで、もっともっと強くなりますよ」。

決戦の4月、さらにロンドンオリッピックに向け迷いを消し去った伊藤選手が100m自由形のスペシャリストになる日も近いかもしれません。



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