クローズアップレポート

今井 沙緒里

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今井 沙緒里

陸上(短距離)/選手


「GO AHEAD」 前進あるのみ!
〜世界陸上からさらなる一歩を踏み出すために〜

失敗したスタートダッシュ

2011年世界陸上(韓国・テグ)、その最終日9月4日、女子4×100mリレーの予選、今井沙緒里選手は日本代表のアンカーとして競技場に立っていました。来年開催されるロンドンオリンピックへの出場を目指す今井選手にとって、その布石となる世界陸上への出場は今シーズン掲げた目標のひとつであり、厳しい選考を勝ち抜いて、レギュラーメンバーの座を勝ちとったのです。

しかし、ここに辿り着くまでには大きな困難を乗り越えなければなりませんでした。「昨年のシーズン中に肉離れを患い、冬季練習の期間を治療に使っていたので、シーズンが始まった時点でコンディションの調整に大きな遅れがありました。そのため、すぐに結果がでないことはわかっていたのですが、実際に結果がでない試合が続いたことで、焦りばかりが積もっていきました」。さらにそんな今井選手に追い打ちをかけるかのように、ライバルとなるメンバーが、春先からが着実に記録を伸ばしていったのです。

「一気に追いつめられた感じでした。そこでゆっくりピークに持っていくのではなく、ちょっと強引にでもコンディションを上げる方向に切り替えました。ナショナルトレーニングセンターでリハビリを行い、普段はあまりやらないウエイトトレーニングを取り入れ、崩れていた左右の筋力バランスを補強しました」

しかし、大会は今井選手のコンディションが上がるのを待ってくれるわけではありません。セイコー・ゴールデングランプリ川崎の4×100mリレーでは、福島千里選手、北風沙織選手、高橋萌木子選手、市川華菜選手で組んだ日本代表Aチームが、日本新記録を樹立。さらにアジアGPに代表として帯同したものの、やはり4人のメンバーに入ることができず補欠という位置に甘んじ、今井選手はライバルたちの数歩後ろを追いかける状況が続いていったのです。

心技体の進化

「セイコー・ゴールデングランプリ川崎のとき私は、日本代表のBチームとしてリレーを走っていました。目の前で新記録を達成されたことは今でも忘れられませんし、同じ3走の福島さんに離されてしまったことも脳裏に焼きついています。でもこのときに“だからもっと前進するんだよ!”という声が聞こえたような気がしました。“悔しい”で終わるのは簡単。だけど走りたいのは自分で、自分が変わらない限り前には進めない。それからです“私が走るんだ”って信念を持って言えるようになったのは」

こうした気持ちの変化に加え、今井選手は代表チームに帯同する中で、先輩トップランナーの動きを観察して良い点を取り入れたり、自分なりの課題をみつけ克服する努力を行っていたのです。「ひとつひとつの動作に対する意味、意識の入れ方が変わりました。それにピッチ走法からストライド走法よりの動きを取り入れたり、スタートでの加速を高めるため、動き出し直後の姿勢の改良やゼロからのダッシュ力を高めるトレーニングなどを取り入れてきました」。今井選手が所属する至学館大学の伊藤康太コーチも「通常の練習メニューをこなすだけでなく、必要な要素を補うため自分でオリジナルメニューを考えるようになりました。トップ選手との交流は競技に対する意識と行動を変えましたね」と、教え子の成長を誇らしげに話してくれました。

さらに、シーズン開幕から取り組んでいたコンディションがピークに近づいたことで、今井選手の心技体が整います。そして日本選手権では200m3位、アジア選手権でも200m3位、リレーではアンカーを務め金メダルの獲得に貢献します。こうした結果、世界陸上の代表メンバーに選出されたのでした。

「選出されたからといって本番を走ることができる訳ではありません。もう一度“絶対に私が走るんだ”と、気を引き締めました。合宿ではアップから露骨なくらいアピールしましたね。“自分はもう5番目じゃない、走る準備はできている”って」

そして4×100リレー予選の直前に行われたタイムトライアルで、今井選手の思いは結実、メンバー入りを決めたのでした。

エースへの挑戦

迎えた世界陸上の女子4×100mリレー予選、第3走の福島選手から「いけ! いけ今井!」という言葉とともにバトンを受け取った今井選手。「普段はおとなしい福島さんが発した大声は、私の背中を力強く押してくれました。でも私を含めバトンのミスが2つあるなどで5位、予選を突破できませんでした。せっかく掴んだチャンスに結果を残せなかったのは悔しかったけれど、世界陸上は大きな経験になりました。そのなかでも特に印象に残っているのが、福島さんの言葉です」

試合を終え、集まったメンバーにエースの福島選手は「やっぱり全員が標準記録を切るくらいの力が欲しいよね。そしたら今度はもっと盛り上がって走れるよ」と言ったそうです。この一言に今井選手は現実を突きつけられたといいます。「あれは、世界と対等に戦うためのベースは個々の能力であり、今のままでは世界に通用しないということです。ようするに世界陸上を走れたことに満足していてもダメ、もっと前に進まなければダメってことなのです。話は単純で、100mのタイムを上げなければいけません。私はスタートの加速が課題だとわかっているので、そこをこの冬の間に強化したいと考えています」

このように今井選手にとっての2011年シーズンは、世界との差を痛感した一年となりました。しかし、国内ではトップに近づいた一年だったと言えるかもしれません。現在、女子短距離界のトップランナーといえば、誰もが福島選手の名を挙げることでしょう。今井選手も「まだ私も福島さんの後ろを走っています」と認めた上で「でも、距離は縮まっていると思います」と自分に言い聞かすかのように言葉をつなぎました。そして「まずは国内でトップに立たないといけません。リレーでロンドンに出るのは目標ですが、やっぱり個人でロンドンに行きたいから」。今井選手の言葉には福島選手に「離されない」ではなく「追いつくんだ」という強い気持ちがみなぎっていました。ただ前だけを見つめる今井選手、勝負の2012年はもうすぐそこまで来ています。「GO AHEAD」、今井選手の前進に終わりはありません。



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