第11回ヤマハ発動機スポーツ振興財団スポーツチャレンジ賞表彰式を開催しました
4月15日(月)、東京都千代田区の如水会館にて、「第11回ヤマハ発動機スポーツ振興財団スポーツチャレンジ賞表彰式」を開催しました。
平成30年度は、功労賞に20年以上にわたって日本パラリンピックノルディックスキーチームの監督を務められた荒井秀樹氏、奨励賞に平昌オリンピックスピードスケート競技における日本のメダルラッシュを支えた日本スケート連盟スピードスケート科学サポートチームを選出。表彰式では当財団の木村隆昭理事長から、それぞれ表彰状とメダル、賞金(目録)、記念品を贈呈しました。
選考経緯の説明に立った浅見俊雄選考委員長は、「受賞者のみなさんの功績は、まさに『縁の下の力持ち』的なチャレンジとして称賛されるべきもの。これからの活躍にも期待したい」と挨拶。会場には大勢の来賓や関係者が祝福に訪れ、「今年はラグビーワールドカップ、そして来年は東京オリンピック・パラリンピックと大きな大会が開催されることを契機に、スポーツ庁では生活の中に自然とスポーツが取り込まれていく『スポーツ・イン・ライフ』を目指した取り組みを行っているが、受賞者の方々の功績は前向きで活力に満ちた一億総スポーツ社会の実現に大いに繋がるもの」と話された安達栄氏(スポーツ庁健康スポーツ課課長)をはじめ、山田登志夫氏(公益財団法人日本障がい者スポーツ協会常務理事)、平田竹男氏(内閣官房参与 東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局長)、天野好人氏(公益財団法人日本スケート連盟専務理事)から祝辞が贈られました。
表彰式の終了後には受賞者を囲んで交流会も開かれ、「スポーツ界は、本年のラグビーワールドカップ、2020年東京オリンピック・パラリンピック、2021年開催の関西ワールドマスターズゲームズと、世界的なビッグスポーツイベントを控え、スポーツを活性化させる絶好のチャンスを迎えている。これまで以上に深い連携で、我が国のスポーツがさらに充実・活性化し発展を迎えられるようご尽力を賜りたい」と話された泉正文氏(公益財団法人日本スポーツ協会副会長兼専務理事、当財団評議員)の挨拶、「スポーツに親しむ環境をどう作るかが一番大きな課題。みなさん方がそれぞれの分野で大変なご努力をいただいていることに感謝と敬意を表しつつ、さらなる活躍に期待し、今後のスポーツ振興にもご協力を」という塩谷立氏(衆議院議員、当財団評議員)の祝辞に続き、平岡英介氏(公益財団法人日本オリンピック委員会副会長兼専務理事)の乾杯の発声、出捐企業を代表して日髙祥博氏(ヤマハ発動機株式会社代表取締役社長)からのお祝いの言葉が続き、なごやかなひと時を過ごしました。
さらに、受賞者のチャレンジの軌跡をスライドや映像で紹介するとともに、奨励賞を受賞されたスピードスケート科学サポートチームから直々に、どのような実験や検証を行って来られたのかを紹介いただく他、新田佳浩氏(パラリンピック金メダリスト)、黒岩彰氏(公益財団法人日本スケート連盟強化部副部長)など、大勢の関係者から受賞者にまつわるエピソードが披露されました。
コメント
功労賞・荒井秀樹氏 (日本パラリンピックノルディックスキーチーム監督)
今回いただいた賞は、縁の下の力持ちとして、支えた方に贈られる賞とのことですが、よく考えてみますと、一番支えてもらったのは、僕自身ではないかと思います。1998年の長野パラリンピックの時は、本当にゼロからのスタートで、選手たちを大学のスキー部の合宿に連れて行って一緒に強化させてもらったり、今日もこの会場に来ていただいていますが、当時大学生だった大平紀夫君は、そのままワックスコーチやガイドとしてがんばってくれました。そのほかにも小林深雪選手のガイドを務められた小林卓司さんや中村由紀さんなど、支えてくださった方がたくさんいます。
さらにパラノルディックスキーチームを20年近くにわたって支えてくださった、ヤマザキビスケット株式会社の代表取締役社長・飯島茂彰さん、古くから応援してくれたセガサミーホールディングスのみなさん、いつも食材を提供していただいた日本生活協同組合連合会のみなさんなど、多くの方々に支援いただいています。中でも株式会社日立ソリューションズがパラのスキー部を立ち上げてくださって、トリノ、バンクーバー、そして平昌でも成果を挙げることができました。
また本来、僕らが励まさなければならないのに、逆に選手たちからものすごく応援してもらっているのが正直なところです。ですからこれからも選手とともに、パラリンピックを日本で少しでも発展させていきたい。
今回の受賞を機に初心に返って、これからもがんばっていきます。2022年冬季オリンピック・パラリンピックの成功、そして2030年には札幌にオリンピック・パラリンピックをなんとしても招致したいと思っています。今日は本当にありがとうございました。
祝福メッセージ|山田登志夫氏(公益財団法人日本障がい者スポーツ協会常務理事)
1998年長野パラリンピックの時、それまで国内で冬の障がい者スポーツは盛んではなく、厚生労働省が荒井さんを見込んでヘッドコーチとして障がい者スキーの組織化、選手強化、指導育成を要請いたしました。荒井さんは要請に応えて地道に選手を発掘し、選手強化を行い、長野での日本勢は金メダル12個を含む合計41個のメダルを獲得する大快挙。荒井さんはそれ以降も5回のパラリンピック大会で連続してメダリストを輩出するという活躍ぶり。昨年の平昌パラリンピックでは、金メダル3つ、銀メダル4つ、銅メダル3つ合計10個と多くのメダルを獲得し国民にたくさんの勇気と感動を与えてくれました。荒井さんは日本の冬の障がい者スポーツを世界レベルまで引き上げるという功績を残され、現在に至っております。2022年の冬季パラリンピックでのさらなる活躍に期待しております。
祝福メッセージ|平田竹男氏(内閣官房参与 東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局長)
荒井監督は2007年に早稲田大学の修士課程に入学され、私のゼミでパラリンピックの振興について学ばれました。私にとっては、初めてのパラリンピックの研究についてのお手伝いでした。荒井監督の生き様を通して、パラリンピックに対する情熱を教えてもらいましたが、荒井監督が一貫していることは、メダルの獲得ではなく、選手本人を幸せにすること。だからこそみんなが荒井監督の周りに集まってくるのです。
荒井監督が僕にパラリンピックのことを教えてくれていることで、私が力を入れているのが、バリアフリーです。バリアフリーは物理的なバリアフリー、情報のバリアフリーとありますが、2020年のレガシーとして日本の社会に取り入れたいのは心のバリアフリーです。学習指導要領の改正で心のバリアフリー教育が盛り込まれたり、教員免許の更新時に障がい者教育のテストを行ったり、さらに東京都議会では建築物バリアフリー条例改正案が公表されるなど、社会が動いております。荒井監督におかれましては、より日本の共生社会、そしてパラリンピックの振興に今まで通り尽力いただければと思います。
祝福メッセージ|新田佳浩さん(パラリンピック金メダリスト)
パラリンピック、障がい者スポーツというのは、かわいそうな人たちがやっているスポーツだと認識されていた時代に荒井監督にスカウトされました。海外での大会の映像を見せてもらって、障がい者スポーツがスポーツとして捕らえられていることに衝撃を受け、僕は、パラリンピックを目指して競技を始めました。
監督が最初に僕に言ったことは、ご飯を食べている時に「新田君、左手をちゃんと出しなさい」ということです。3歳の時に左手に怪我をして以来、左手を使って何かをするということをやっていなかったことに最初に気づかせてくれたのが監督でした。
僕自身、長野では、メダルを取れませんでしたが、バンクーバーと平昌で金メダルを取ることができました。平昌の時は37歳でしたが、歳だからという常識や考え方をどんどん変えていくことを教えてくれたのが、荒井監督だったと思います。
若い選手もどんどん出てくる中で、選手としてもう少しがんばっていきたいと思います。年齢を重ねてもがんばっているな、そういう人がいるんだな、スポーツっていいよね、と思ってもらえる世の中になったらいいですね。
奨励賞・紅楳英信氏 (スピードスケート科学サポートチーム統括)
ソチオリンピックの後、体制が一新され、現場に近いところで科学サポートできたことが大きかったと思います。体制変更で一番大きく変わったのは、日本スピードスケート界初の外国人コーチの起用と年間を通じて活動するナショナルチームの結成です。中でもコーチが優秀で、日本の持っていた力を引き上げることに非常に長けていました。選手に寄り添うコーチであり、また非常に合理的な考えをする人で、データをとてもよく使ってくれました。そのことが選手にも伝播し我々と議論する機会を増やしてくれました。そして何より日本の選手がそもそも強かったし、優れていました。
今回科学サポートチームとして受賞しましたが、レース分析だけでは好成績につながりませんし、科学と言っても生理学の面からの検討や過去のデータ、トレーニング計画の状況に、コンディション、栄養的側面など、当然、選手の助けも得ながら、色々なことを考えていかなければなりません。
また我々が今、科学サポートを行いやすい環境にいられるのも、先人のみなさんが、非常に良い環境を作ってくださったからですし、そして何よりも現場が、我々の科学のサポートを使ってくれてこそです。本当に多くの人が関わった中で代表しての受賞という意識でおります。
今回の受賞をきっかけにスピードスケートに科学分析というものがあるんだということを認知してもらい、中学生や高校生に興味を持ってもらえたら嬉しいですし、またスケート競技人口増大の一助となればいいなと思っております。
祝福メッセージ|天野好人氏(公益財団法人日本スケート連盟専務理事)
平昌前のソチオリンピックではスピードスケート、ショートトラックともメダルに届かず、本当に悔しい思いをしました。そこで新しい強化体制を整え、ナショナルチームを結成し、外国人コーチを招聘。コーチは、医科学面を重視しており、トレーニングにおいては科学的な計測分析を常に行いたいという要請があり、合宿中や遠征時でも常時帯同するよう現場に徹したサポート体制を確立。トレーニングだけでなく風洞実験、そして選手の滑走動作や競技フォームの改善、滑走パターンの検証などを行い、データをコーチや選手に提供して共有し、強化現場が一体となって対応しました。
平昌オリンピックでの好成績は、こうした努力の結果、選手・コーチ・科学班が一体となって互いの信頼関係を築き、全員で競技に向き合ってきたことで成し遂げられたのではないでしょうか。
表彰制度としてコーチや監督を表彰する制度はありますが、今回の表彰のように科学班などの縁の下の力持ちにスポットを当ていただける制度はあまりなく、非常にありがたく思っておりまして、今後のスポーツ界の発展に大きく寄与することと考えております。
祝福メッセージ|黒岩彰氏(公益財団法人日本スケート連盟強化部副部長)
組織変更を受けて海外から招聘したヨハン・デビットコーチは、データをすごく重視しているんです。コーチとほとんど365日一緒にいて、科学的なデータをどれだけ利用しているかということを知っているのは私だけです。
私は40年前から科学というものに出会い、科学と現場、これなくして世界で勝てないというのを自分で実感していたので、科学の有用性をよく理解しています。ただし本来、表に出ちゃいけないんですよ。黒子に徹し、縁の下の下で、這いずり回るような努力をしているのが、多分科学だと思うんです。みなさん、受賞式の席での記念撮影の様子を見ていたと思いますけれども、サポートチームのみんな、暗いですよね(笑)。「笑ってください」と何回言われてもなかなか笑えない。これが科学班なんですよ。
スポーツにおける科学というのは表に出ないけれども重要だ、ということをみなさんにお伝えしたいと思っておりました。そういう目に見えない黒子に徹しているメンバーを今日こうやって公の場で表彰をしてくれて本当ありがたいと思います。
こういうメンバーが必ずや2022年の冬季北京オリンピックに向けて、さらに縁の下の強固な力を確実につけてくれるはず。スポーツですからやはり勝ち負けはあります。メダルへの期待もあります。ただ私はそのメダルを狙うのではなく、それに基づくプロセス、これをしっかり積み重ねて強固な組織として臨みたいと思っています。次回の北京にもぜひみなさんご期待ください。