- 氏名
- 植田 俊(うえたしゅん)
- 助成実績
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スポーツチャレンジ研究助成(基本):第17期生
視覚を用いない〈みるスポーツ〉の可能性を探る実践的研究―スポーツ・ソーシャル・ビュー開発の試み―
本研究は、視覚障害者が支援者としての健常者と関わりながらいかにスポーツを観戦しているのか、その内実を明らかにすることを通じて、視覚を用いないでスポーツを「みる」楽しみを享受できる新たな方法「スポーツ・ソーシャル・ビュー」の開発に挑戦する。ポイントは、競技に関する予備知識の事前習得とプレーや動作を解説・表現する言葉やキーワードの組み合わせが、当事者にどのようなイメージとして結実するかである。
成果報告(2024年3月)
本研究では、視覚を用いないでスポーツを見て楽しむ方法(スポーツ・ソーシャル・ビュー)の開発を目指して、①視覚障害者のスポーツ観戦の現状調査と、②新たに開発した方法の現場での実践・効果検証を当事者と一緒に行なってきた。
その結果、①一言でプレイや戦術を伝達できる表現を駆使し情報を「多量化」すること、②複数人でそれぞれ異なる観点から説明を行ったりラジオ・テレビ・ネット中継の解説を活用したりして情報を「複層化」すること、③触れる道具や現地放送・歓声、選手の声やプレー音・振動などを動員して情報源を「多感覚化」すること、④ピッチに接近する・離れる、応援団の中に入る等、観戦する位置や文脈を変えることで情報への触れ方を「多方向化」すること、そして⑤次に起こりうる展開を予想するなど「未来」の予測とその結果検証を協働して行うこと、これらによって非視覚スポーツ観戦の可能性は拡がっていくことが分かった。スポーツチャレンジ研究助成(基本):第16期生
〈障害者―健常者〉関係をゆるがすアダプテッド・スポーツ実践―協働的実践としてのタンデム自転車の事例―
協働的なスポーツ実践を通じて、スポーツにおける規範的な〈障害者―健常者〉関係がゆるがされ脱構築されていくプロセスと新たに構築される関係の内実を、視覚障害者と晴眼者によるタンデム自転車実践の事例から明らかにする。課題解明のポイントは、自転車を上手く乗りこなして共に「楽しむ」ために直面する課題を克服していく協力の過程が、視覚障害者・晴眼者が各々もつ「障害者像」「支援者像」をいかに解体しているかである。
成果報告(2023年3月)
本研究では、協働的なスポーツ実践を通じて、規範的な〈障害者―健常者〉関係がゆるがされ脱構築されていくプロセスと新たに構築される関係の内実の解明を、視覚障害者と晴眼者によるタンデム自転車実践の事例から試みた。その際、視覚障害者の日常生活およびタンデム実践への参与観察を行い、1)視覚障害者―晴眼者(≒支援者)の関係を日常生活中とタンデム実践中とに分けて把握し、双方が行う相互作用を捉えた。その上で、2)タンデム実践の経験が、既存の関係や認識にどのような影響を与え、その新たな構築につながるのかを分析した。結果、日常生活では行為をパターン化し一部を支援者に分担させることで状況把握を手放しているが、タンデム実践ではパイロットと行為を同期させながら状況を予測し対処しており、「見えない」ことで日常生活にもたらされる「予期できなさ」の捉え方を相対化する視座や関係が、実践を通じて経験されていることが分かった。
スポーツチャレンジ研究助成(基本):第14期生
スポーツにおける〈視覚〉の社会的構成に関する研究―ブラインドランナー -伴走者関係と相互作用に着目して―
スポーツにおける視覚障害者の〈視覚〉が、スポーツ実践を支援する健常者との相互作用を通じて構築されていくプロセスと〈視覚〉の内実を、ブラインドマラソンにおけるランナーと伴走者の事例から明らかにする。課題解明のポイントとなるのは、伴走者との関係を通じて、視力の低いブラインドランナーがどのように自らの「見え方」=〈視覚〉を構築し、ランニング時における「安心感」を獲得しているか、という点である。
成果報告(2021年3月)
コロナ禍のため、インタビュー・参与観察による調査の遂行が計画通りに進まない時期もあったが、結果として研究開始前の想定以上の成果を得ることができた。既存の量的調査結果の及び先行研究の整理を通じて、視覚障害者のスポーツ環境は「人」によるサポート、特に視覚障害者が「体を動かしたい」と思った時に支援者が対応できる環境整備のあり方(クラブ、指導者、ガイドヘルパーの人材配置など)の解明に未だ課題があることが分かった。
一方で、ブラインドマラソンランナーへの調査を通じて、視覚障害者たちがランニング時に構築しているイメージ(=空間認識)の内実を明らかにすることができた。彼らは決まった場所に在ったり聞こえてきたりする「動かないモノ(=空間情報)」(例:街路樹、街灯、コースの傾斜・凹凸、スタート地点からの距離、環境音)の情報を活用し、自分が今走っている位置や場所の状況をイメージしていた。しかし、ランニング時に最もリスクとなる、時と場合によって変化するためにイメージしにくい「動くモノ(=時間情報)」(例:他の利用者、季節ごとの路面の変化)に対しては、伴走者からの情報提供や誘導によって回避していた。
この調査結果から、ランニングにおける視覚障害者の〈視覚〉は、人と空間との相互作用によって構築される社会性を持つものであることが解明できた。そのプロセスにおいて、時間情報が空間情報へと変換されることが重要となる。
年度別チャレンジャー一覧
助成対象者のチャレンジ概要