- 氏名
- 佐渡 夏紀(さどなつき)
- 助成実績
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スポーツチャレンジ研究助成(基本):第14期生
慣性特性からみたスプリンターの身体的特徴の解明:身体の動かしやすさに対する人間の適応可能性に迫る
スプリンターの身体特性をスイング動作に関わる慣性(動かしにくさ)の観点から検討し、動作との関係を明らか にする。男性上位・下位スプリンターを対象にMR画像と加速疾走動作を、同様の年齢・身長・体重といった特性 を有する一般男性のMR画像をそれぞれ取得する(予備実験後にn数を確定)。身体組成を考慮した最も高精度な 手法で下肢と骨盤の慣性係数を算出、群間で比較し、併せて競技者の走動作との関係を検討する。
成果報告(2021年3月)
従来、形態のトレーニング適応は求められる力発揮に関連する筋群のサイズが検討されてきた。しかし、筋の発達を筆頭とする身体の変化は質量分布の変化を伴い、力学的な身体の動かしにくさ:慣性の変化が伴うと予想される。本チャレンジでは、スプリンターを対象にこの慣性に着目して身体の特徴を検証した。男性スプリンター11名、特定のスポーツに従事しない健常男性12名を対象にMRI水強調画像と脂肪強調画像を取得した。大腿・下腿・足部について、輝度分析によりMRI各画像の各ピクセルの身体組織を同定し、セグメントの質量分布及び慣性データを算出した。全てのデータは先行研究の方法に則り身体サイズ(身体質量や下肢長)で正規化した。健常男性に比べてスプリンターで大腿の質量が大きかったが(p<0.001、d=2.01)、下腿と足部の質量に有意差は認められなかった。下肢質量はスプリンターで大きかったが(p<0.001、d=1.73)、股関節周りの下肢慣性モーメントに有意差は認められなかった (p=0.15、d=0.62)。従って、全力疾走動作への適応としての下肢の変化・発達は近位部に集中すること、その結果身体の中での力学的な下肢のスイングのしにくさ(慣性)は下肢質量の増大に対して大きく変わらずに発達していることが明らかになった。この成果は身体が持つ可塑性に対して慣性という新たな視点を提示するものであり、本チャレンジで設定した分析手法の確立や研究課題成果に関する目標通りのものと考える。
年度別チャレンジャー一覧
助成対象者のチャレンジ概要