- 氏名
- 金 勝烈(きむよんする)
- 助成実績
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外国人留学生奨学金:第1期生
長期運動が脳内機構と運動神経伝導速度に及ぼす影響(運動出力に着目して)
末梢運動神経伝導速度(MCV)の変化については、Erlanger and Gasser(1937)の報告以来、数多くの研究がなされている。さらに近年、測定機器の進歩により、同一神経束内に含まれる最小伝導速度から最大伝導速度までの相対神経線維数を推定するcollision法が確立され、MCVに加え末梢運動神経伝導速度分布(DMCV)についても検討されるようになった。 MCV、DMCVに影響を及ぼす因子はいくつか考えられるが、その一つとして長期間の継続的な運動トレーニングが挙げられる。しかしながら、長期運動によるMCVの変化はないとした報告もあり、見解は一致していない。その理由の一つとしては対象の選出方法が挙げられる。そこで本研究では単一種目の競技者に対象を限定し、上肢を中心に長期間にわたる運動トレーニングを行っている車椅子長距離選手のMCVとDMCVを collision法を用いて検討することで、長期運動トレーニングが上肢の末梢運動神経伝導速度に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】スポーツ競技者9名(年齢31.6±2.2歳)、非競技者12名(年齢31.0±1.9歳)が本実験に参加した。運動群は10年以上の競技歴を持ち、現在も継続して競技を続けている車椅子陸上長距離選手とした。 非運動群は、特定の運動経験のない成人男性12名であった。また、測定神経は正中神経と尺骨神経とし、DMCVの測定は、橘のCollision法に準じて行った。【結果及び考察】 本研究の結果は、非利き手において正中神経のDMCVと尺骨神経のMCV、DMCV-peakに有意差が認められた。つまり長期運動トレーニングは、従来から報告されてきたMCVだけではなくDMCV-peakにも影響し、それは日常的に頻繁に用いられる利き手よりも非利き手に影響があらわれやすいと考えられる。即ち、MCVは先天的にある内因的な要因(遺伝的要因)以外にも、外因的な要因(長期の継続的なトレーニングのような後天的な環境要因)によっても変化に大きな影響を及ぼす可能性が示唆される。 今後の課題としては、今回の結果が遺伝的要因によるものか、また、偶然的なことでたまたま出ている結果なのか、あるいは長期間のトレーニングによる結果なのかをさらに詳しく調べる必要があると考えられる。 そこで、次の研究では下半身を優先的に用いる競技者群と一般人を対象にMCV、DMCV-peakを検討する必要がある。
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