年度別チャレンジャー一覧

助成対象者のチャレンジ概要
小倉 裕司
氏名
小倉 裕司(おぐらゆうじ)
助成実績
スポーツチャレンジ研究助成:第1期生
日本人におけるACTN3遺伝子型と筋線維組成の関わり~ACTN3遺伝子型はタレント発掘のツールとなり得るか?~

スポーツパフォーマンスには様々な要因が影響を与えます。日頃のトレーニングや体調管理はもちろんのこと、それ以外にも多くの生物学的あるいは環境条件等があげられますが、遺伝子学的背景もその主要な要因の一つであると考えられています。最近では、“2世アスリート”が国内外のスポーツ競技会で活躍する場面が多くなるなど、我々スポーツ科学者でなくともアスリートの遺伝的背景と競技能力には深いつながりがあることを予想できると思います。骨格筋は、運動を行う上での出力器としての役割を持っています。そのため、その特性や構造を決定あるいは調節する遺伝子がスポーツパフォーマンスに強く影響を与えることは想像に難くありません。最近、そのような遺伝子の一つとして、骨格筋内のαアクチニン3タンパク質を作り出す際に必要なACTN3遺伝子に注目が集まるようになってきました。骨格筋におけるαアクチニンタンパク質には、αアクチニン2および3という二つの種類が存在しているのですが、このうちαアクチニン3タンパク質は、ヒト骨格筋では速筋線維中にしか発現しないという特徴を持っています。また、αアクチニン2タンパク質よりも構造が頑健であると言われており、速筋線維を動員するような高い筋出力において様々なメリットをもたらすと考えられています。そのACTN3遺伝子型には、RR、RX、XXという3つのタイプが存在し、R型の遺伝子配列をもたない人は、αアクチニン3タンパク質を作り出すことができません。そのため、世の中にはαアクチニン3タンパク質を持っている人と持っていない人が存在することになります。近年、海外の研究グループが、あるトップアスリート集団のACTN3遺伝子型分布を調べた結果、スプリント・パワー系種目ではRR型およびRX型を持つアスリートの割合が高いことを報告しました。つまり、αアクチニン3タンパク質を速筋線維内に持つことが、高い筋出力を必要とするスプリント・パワー系種目には向いていることを示しています。これとは反対に、その研究グループは、長距離走者のような持久性種目の選手たちでは、スプリント・パワー系種目と比べてR型を持たない人(XX型)の割合が多くなっていることも発見しました。この結果は、ACTN3遺伝子型を調べることが、スプリント・パワー型および持久型という二つの競技種目への適性を判断する材料になるかもしれないことを意味しています。自分の競技適性をあらかじめ知ることができれば、その事実を自分のトレーニングプランに取り入れることによって、より効果的なトレーニングを行うことができると考えられますまた、このことは、体力特性面から見たスポーツタレント発掘に寄与することも期待されます。私たちは、このACTN3遺伝子型と、従来から遺伝的要因を受けやすくスポーツパフォーマンスと関連性の高い生理学的パラメータとして利用されている骨格筋の筋線維組成を比較することによって、スポーツパフォーマンスの向上のためにこの遺伝子型を調べる根拠をより確かなものにしようと研究に取り組んでいます。