- 氏名
- 田中 美吏(たなかよしふみ)
- 助成実績
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スポーツチャレンジ研究助成:第1期生
心理的プレッシャーによってなぜ運動パフォーマンスが低下するか?-認知的側面と行動的側面の影響-
心理的プレッシャーが原因で実力を十分に発揮できないことに悩み、その克服を課題とするスポーツ選手は非常に多い。この問題を解明するために、運動心理学研究には大きな期待が寄せられている。そこで本研究は、スポーツや運動を行うときのプレッシャーが予測スキルを中心とした認知的側面、ならびにフォームや力量調節を中心とした行動的側面に及ぼす影響を詳細に調べて、プレッシャーによる運動パフォーマンス低下のプロセスを明らかにすることを目的とし、3つの実験と2つの調査を行っている。実験①では、プレッシャーが野球のバッティングにおける予測スキルに及ぼす影響を調べており、今現在、実験スケジュールを組み予備実験を行っている。この実験では、心拍数、脈拍、呼吸という生理的指標の測定も試み、全ての指標に対して正確な測定を行うことができた。また、観衆に予測スキルを評価させるというプレッシャーを被験者に対して付加したが、大画面のディスプレイを採用することで、被験者の予測パフォーマンスの様子が観衆にもはっきりと見えるため、高強度のプレッシャーを喚起できた。今後は、さらに数名の予備実験を行い、準備を整えてから本実験に取り掛かる予定である。実験②では、プレッシャーが野球の投球フォームに及ぼす影響を調べており、大学野球部員20名を対象にプレッシャー下で投球を行わせる実験を終えた。そして今現在は、プレッシャーが投球における関節間協応(コーディネーション)の制御に悪影響を及ぼし、その結果、投球のパフォーマンスが低下するという仮説をもとに3次元動作解析を進めている。今後の分析により、全身の多関節を使用する複雑な動作にプレッシャーが及ぼす影響を明らかにしたい。
実験③では、プレッシャーがゴルフパッティングのフォームおよびグリップ把持力に及ぼす影響を調べており、プロゴルファーや大学ゴルフ部員などの31名を対象とした実験を終えた。賞金10,000円に挑戦するというプレッシャーを付加するなど、これまでの実験にはない高強度のプレッシャーを被験者に対して付加し、今現在、3次元動作解析などの分析を進めている。分析の途中経過として、プレッシャーによりパッティングフォームのフォロースルーの大きさが縮小するなどの興味深い結果が得られている。調査①では、大学運動部に所属する13名のスポーツ選手を対象に「あがり」の症状や対処方略に関する半構造化面接を行った。そして、面接で得られた言語データを分析した結果、13カテゴリーから成る「あがり」の発現構造モデルが構築され、パフォーマンス低下の原因として安全性重視方略、知覚・運動制御の混乱、身体的疲労の3カテゴリーが抽出された。さらに、「あがり」はパフォーマンスの低下によって悪循環する現象であることが示された。この調査により得られたモデルの妥当性や信頼性を検証するため、今現在は、調査②において数百名のスポーツ選手に対して質問紙調査を行う準備を進めている。
年度別チャレンジャー一覧
助成対象者のチャレンジ概要