
- 氏名
- 阿部 衛(あべまもる)
- 助成実績
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スポーツチャレンジ研究助成(基本):第18期生
ローマ帝政前期における競技文化に関する研究
本研究では、競技祭の文化的な広がりに注目し、地中海世界を舞台に行われた競技祭の日程やそれに伴う選手の動き、そして競技の裾野を広げ、社会に根付かせた仕組みについて考察する。
本研究の独自性は、ギリシア競技祭を、一部の民族や特定の選手に注目して論じるのではなく、地中海世界の慣行、そしてスポーツ文化という広い視野で捉えようとする点にある。また、古代地中海世界の競技祭研究で得られた知見を現代のスポーツに還元しようとする点も特徴である。成果報告(2025年3月)
西洋の古代地中海世界における人々と「スポーツ」の関係性を捉え直すことを目標に、この一年、運動競技と剣闘士競技の研究に取り組んできました。剣闘士競技では、剣闘士=奴隷という通説を覆し、競技として古代ローマの人々と関わっていたことを明らかにした研究が、今秋に学術書として刊行される運びとなりました。
また、運動競技では、社会的に高い地位についた運動選手に注目し、その事例を収集、分析しました。その結果、好成績を収めた選手が地中海世界の諸都市から市民権を与えられただけでなく、複数の都市で評議会議員を務めたという事例が多数確認されました。これは、地中海世界で運動選手が高く評価されていたことに加え、活躍した選手にはその経験と人脈を生かした活動が期待されていたことを示しており、古代における運動競技の社会的意義に新たな一面を加えることができると考えています。
YMFSのサポートに、心より御礼申し上げます。スポーツチャレンジ研究助成(基本):第17期生
ローマ帝政前期における競技文化に関する研究
本研究は、帝政前期における帝国東方ギリシア語圏の運動競技祭の社会的意義を競技と人々の関係性に注目し、解明することを目的とする。特に社会の下層民を分析対象に設定し、競技との関係性を評価していく。そして、同様の研究手法で考察した剣闘士競技と組み合わせて考察することで、両競技をギリシア文化とローマ文化という枠組みから昇華させ、地中海世界における人々の慣行として捉え直すことが本研究の究極的な目標である。
成果報告(2024年3月)
この一年間、ギリシア発祥の運動競技祭がローマ帝政前期の地中海世界においてどのような意義を有していたのかを課題とし、その解明に努めてきた。
前半では、これまで注目されてこなかった帝国西方(特にイタリア半島)におけるギリシア競技祭がどの程度定着していたのかを検証した。その結果、選手レベルで帝国西方の競技祭が他地域のそれと同等に扱われていたことが判明した。
後半では、社会における位置づけを把握すべく、競技の裾野の広がりに注目した。この点を検討するために、トップ層ではない、いわば「二流」の選手を調査した。その結果、選手たちが、名を捨てて実を取る、現実的な選択をしていたこと、そしてそのような選択を可能にする多様な競技祭の選択肢や、選手の活動を支える手厚い支援が、地中海世界に存在したことが確認された。
残りの期間は、予定されている学会発表はもちろんのこと、論文として研究をまとめる準備も進めていきたい。