年度別チャレンジャー一覧

助成対象者のチャレンジ概要
柳下 和慶
氏名
柳下 和慶(やぎしたかずよし)
助成実績
スポーツチャレンジ研究助成:第2期生
スポーツ軟部外傷に対する高気圧酸素療法の有効性の検討 肉離れおよび内側側副靭帯損傷に対して

膝内側側副靭帯損傷の治癒・復帰においては、実質部の修復のみならず軟部の腫脹や痛みが競技復帰への期間に影響する。高気圧酸素療法(以下HBO)は血中や組織の酸素分圧を上昇させることにより、局所低酸素環境を改善し腫脹・浮腫を軽減する効果があり、欧米ではコンパートメント症候群に対してHBOが積極的に施行されている。HBOの浮腫軽減効果により、スポーツ外傷後の局所腫脹に対しても効果が期待され、足関節靭帯損傷に対する我々の検索でも、HBO直前直後の比較において有意な腫脹軽減効果および疼痛減少効果を認めている。ウサギによる膝内側側副靭帯損傷モデルでは、靭帯損傷の修復過程で重要な瘢痕組織が早期に形成されたと報告されている。しかしながら、臨床上の検討、詳細な回復過程・自覚的評価の検討についての報告はない。本研究は以上の背景により、競技レベル以上のスポーツ選手における急性膝内側側副靭帯損傷患者を対象にHBOを施行し、受傷後早期での治療効果およびスポーツ競技復帰時期を検討することにより、HBOの治療効果を検討することが目的である。

スポーツチャレンジ研究助成:第1期生
肉離れに対する早期競技復帰のための高気圧酸素療法の検討

高気圧酸素療法を皆さんご存知でしょうか。昨夏の甲子園で話題となったハンカチ王子こと斎藤祐樹選手が「いわゆる高気圧治療」を行ったことでも広く知られるようになりました。高気圧酸素療法(Hyperbaric Oxygen Therapy: HBO)とは、高気圧環境下での高濃度酸素吸入により治療する特殊治療法で、通常約2~3気圧まで加圧しほぼ100%の酸素を吸入することで、特に血液の血漿成分に溶解する溶解型酸素濃度を14~20倍に上昇させ、生体内気体の圧縮・溶解作用、溶解型酸素濃度の上昇による生体内低酸素症の改善作用等を発揮します。厚生労働省の保険収載基準では、2気圧以上60分以上の治療と定められ、一酸化炭素中毒、ダイバーで発症する減圧症、骨髄炎や虚血性疾患など各種疾患に対して適応されています。ちなみに、斉藤選手が使用した「いわゆる高気圧治療」の「カプセル」は1.3気圧程度までの加圧のみで 通常のHBOとは異なるものです。肉離れはスポーツ現場において高頻度に遭遇するスポーツ軟部外傷であり、再受傷も多い競技活動性を脅かす外傷です。受傷したスポーツ選手は、特にシーズン中やトップアスリートにおいては一日でも早い競技復帰を希望しています。肉離れ急性期は、線維断裂・血腫・腫脹で特徴付けられ、外傷により血管外への血漿流出とともに炎症細胞の浸潤を伴い、受傷部位の腫脹と微小循環不全を伴う低酸素環境を生じています。HBOは低酸素環境の改善に役立つだけではなく、血管透過性の改善などにより腫脹が軽減する効果を認められており、肉離れにおける早期治癒が期待されます。また、ウサギ筋損傷モデルではHBO群で有意に筋力が改善するなど、修復期・再生期における筋組織修復促進の効果も期待されます。しかしながらHBOのスポーツ外傷への適応に関しての基礎的・臨床的報告はまだまだ多いとはいえません。

本研究の目的は、肉離れ急性例に対しHBOを施行し、HBOの有効性の定量的評価と早期競技復帰が可能かを検討することにあります。対象はラグビートップリーグ選手20名で、肉離れ急性期に複数回のHBO治療を行います。当院の高気圧酸素治療装置は3室構造となっており16名同時に治療可能で(写真参照)、広い空間でゆったりと椅子に座って治療を受けることができます。このような複数の患者さんが同時に治療可能な装置を「第2種高気圧治療装置」といい、全国には53台のみです。検討項目は、VASによる自覚的評価、筋硬度計による受傷部位の軟部組織硬度等で、それぞれHBO直前・直後に計測し、腫れや痛みの評価を行います。さらに、HBO施行群と非施行群における競技パフォーマンス・競技復帰時期の比較検討を行います。本研究の結果により、特に早期競技復帰を希望するアスリートに対するHBOの有効性が示すことができ、今後有効な治療法として活用されることが期待されます。