第7回 YMFSスポーツ・チャレンジャーズ・ミーティング

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スポーツ討論会

日時 3月16日(土) 19:30〜21:00
パネリスト・司会 伊坂 忠夫
公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団 理事・スポーツチャレンジ助成 審査委員
立命館大学スポーツ健康科学部教授(副学部長)
テーマ 「チャレンジする」ということ
討論概要 「チャレンジ(challenge)」を辞書で引けば、「挑戦」と日本語訳が出てくるとともに、①特に諸競技で選手権保持者に挑戦すること、②困難な問題や未経験のことなどに取り組むこと、やりがいのある仕事、という意味で使われている。スポーツでも、研究においても対象となる目標(ゴール)を設定して、そこへの到達をめざしてチャレンジすることは、人間としての創造的活動であり実践である。
今回のスポーツ討論会は、チャレンジスピリットに溢れた、体験チャレンジャーと研究チャレンジャーとともに、「チャレンジすること」の本質に迫る議論を巻き起こしたいと考えている。

テーマ:「チャレンジする」ということ

伊坂きょうは、タイトルにありますように「チャレンジするということ」について、皆さんと考えたいと思います。まず「チャレンジ」という言葉について、私も学生たちと同じようにはググってみました。するとヒットしたのは2400万件。多いですね。さらに「チャレンジ スポーツ」でググると1400万件、「チャレンジ 研究」では1920万件ヒットしました。しかもなんと、「チャレンジ 研究」の1番目に出てくるのが、YMFSスポーツチャレンジ助成、さすがです。一番ですね(笑)。次に、これまでチャレンジをしてきた人たちは、たくさん本をお書きになっているので、これをAmazonで調べてみました。皆さん、挑戦という言葉を使った分野で、どんな本が多かったと思いますか?

A心理学だと思います。

伊坂はい、Bさん。

Bスポーツ。

伊坂もう1人。

Cビジネスですか?

伊坂正解です。さすが。トップは「ビジネス」です。なぜか? 一番チャレンジしなあかん人たちが集まっている分野かもしれませんね。「スポーツ」は意外と少なくて355件でした。あとはテクノロジー、科学、教育、ノンフィクション。いずれにしましても、ビジネスの分野が非常に多いということです。さて、話は変わりますが、ここ静岡県と言えば、富士山。富士山に登ったことがある人? おー、結構、おられますね。ありがとうございます。じゃあ、登ったことのない方にお聞きします。富士山の登頂率。何パーセントの人たちが登頂に成功すると思います?

D6割。

伊坂素晴らしい。正解は65パーセント。初心者だと50パーセント。もちろん、登らずに帰る人もいるので雑な統計ですけど、だいたいこれぐらい。でも、富士山くらいだと一般の方でも登れるし、子どもでも登れますよね。じゃあ、世界最高峰・エベレストの登頂率。

E5パーセント。

F20パーセント。

伊坂ごめんなさい。じつはその数字はなかったんです。ただし、死亡率というものがありました。9.3パーセント。当然、サンダル履いてエベレストに登る人はいません。エベレストに登ろうと思うのはプロですよね。それこそ、バンブーを背負ったり、シェルパを雇ったり、お金もかかりますし、相当な準備をしています。世界に8000メートル級の山っていうのは、14あります。その中でエベレストが一番高い。でも8000メートル級の山のなかでも一番危険なのがアンナプルナ、8091メートルで10番目の高さですが、死亡率が1番。どのくらいの死亡率だと思う?

G20パーセント。

伊坂ここはですね、なんと恐ろしい。40.8パーセント。だから、普通は、登ろうと思わへんね。でも、登らはるねん。なんと、ものすごいチャレンジャーやけど、チャレンジした人は、何人いると思う?

H10人。

伊坂正解は130人。そのうち53人がお亡くなりになっている。厳しい山やね。だからこそ、冒険家としての冒険心をくすぐられるのかもしれません。でも、その人たちは、死のうと思って登らへんね。本気になってチャレンジして、自分が頂点を極めたいということでやらはるわけやね。でも、やっぱり、こういう危険な目になる。なので私は皆さんにはお勧めしません。こんなとこ行かんで結構です。他にもいろんなチャレンジの仕方があるかと思います。

「チャレンジ」を辞書で引きますと、一つ目に出てくるのは「いろんな競技、選手権保持者に挑戦すること」っていうのがあります。二つ目は「困難な問題や未経験のことなどに取り組むこと。やりがいのある仕事」。だから、ビジネスの世界で挑戦という言葉をたくさん使うわけね。

つまりチャレンジっていうのは、身の回りのこともあるし、非日常もありますし、いろんなレベルのチャレンジがあるということは、皆さん、多分、お気づきやと思います。きょうは皆さんに、日常を振り返ってもらいながら「目標、ゴールを設定して、そこへの到達を目指してチャレンジすること」。これが、やっぱり、人間としての創造的活動であり、実践であるというのが、私自身の考えているところです。

私が一方的にしゃべるというわけではありません。きょうは、二つのグループワークを用意していますので、皆さん自身で話し合っていただいて、皆さんの共通するところをお話しいただきます。

その前に、もう少し話をさせていただきますと、これは、競技力を表すのによく使われる図です(図1)。皆さん自身が競技力を高めるために、身体的な能力だとか、スキル・技術やとか、心理的なもの。これ全体で、皆さんが競技力を高めるためにいろんなことをトレーニングしたり、体を作るために食べたり、コーチングを受けたり、研究成果を入れたりということがある。実際のパフォーマンスにあたっては、環境とか情報とか用具、道具とか、いろんなハードウエアとか状況を分析しながら、最終的にこの競技成績を得ているわけですね。なので、皆さんにとっては、周りのハードやソフトや、あとはハートと書きましたけれども、こういうものを大事にしながら、自分の競技力を高めて競技成績を求めていくというようなものが、スポーツだと思います。

(図1)

その中で、スポーツがいろんなことのチャレンジの一つだということは言うまでもないと思いますが、かつてオリンピックで唯一、長距離3冠を取った人がいます。5000メートル、1万メートル、マラソン。誰でしょう?

Iザトペック。

伊坂そう、ありがとうございます。ザトベックさんね。彼はすごい人で、古いほうのロンドン五輪で金メダルと銀メダルを取って、その次のヘルシンキで3冠を取ったわけです。その時に、こうやって顔をしかめて走るんで、人間機関車と称された。彼は当時としては、インターバルトレーニングというのを初めてやった人でした。彼がインターバルトレーニングをやりだしたころには、「あんな練習、アホやで」「死んでまうで」という評判でした。だから、誰も一緒にトレーニングをしなかった。できなかったというのが正解かもしれない。ところが、インターバルトレーニングなんか今なら中学生でもやりますね。

不思議なことに、器械体操の技もそうですよね。塚原さんが鉄棒で、いわゆるムーンサルト、月面宙返りをしました。彼はその技の開発に2年ぐらいかかっているんだけど、2週間後には同じ技をしはる人が出てくる。面白いのは、人が何かチャレンジしてブレイクスルーした後、それを使う人がどんどん出てきます。それがその分野の発展につながっていくわけです。

もう一つの例はQちゃん(高橋尚子さん)で、彼女が最後の合宿の時、3400メートルの高地レーニングを行ったと。普通は「そんなのあかんやろう」っていうんだろうけど、それぐらいしなあかんということの判断と、まさに、当時の常識を破ってやったということだよね。ただ、その時には、多分、綿密な準備があった上でされているわけね。これもまさに、一つのチャレンジかと思います。

私はよく、お馬さんの記録と人間の記録を表すこういう図を使って学生に説明します(図2)。人間の記録は、1マイル(1600メートル)の世界記録。当然、タイムが良くなれば下にいきますので、人間の記録は、ずっとこの間、記録更新しております。一方で馬は、これはケンタッキーダービーの記録なんですが、この50年間、ほとんど変わっていません。

(図2)

では、馬と人間の違い、誰かお願いします。

J馬は、動物。

伊坂そうやな、動物やな。人間も、動物やけど。四つの足と二つの足、いろんな言い方がありますが、お馬さんには「目標」がありませんね。尻はたたかれるけど、目標がないね。人間はというと、自分で尻をたたくよね。人にたたかれたらあかんな。これは体罰ですから。そういう世の中で、やっぱり自分で目標を持てるというところが、人間の記録がどんどん伸びている理由ではないかと。

次に、これは高跳びの記録です。最初にはさみ跳びが流行した時代があって、次にベリーロール。それからフォスベリーが始めたフォスベリー・フロップ。いわゆる背面跳び。選手がこれらを考え出して、技術がどんどん進化してきた。そういう意味では、選手の皆さんというのは、クリエーターであり、いろんなものを発明していく人たちだと思います。こちらはスケート。スケートは、昔はこんなダボダボの服だったのに、今はこういうピチッとした、いわゆる空気力学を考えたスーツですね。長野五輪の前はブレードが離れるクラップスケートやね。計算してみたら、やっぱりブレードを離してあげると蹴り出しで5パーセント速度が上がるうえに、痛みまで軽減できたと。これは、研究者とコラボでやった話です。スポーツ科学も、パフォーマンスの向上に十分に役立てられるという例になります。

それでは皆さん、今からグループワークをやっていただくんですが、きょうのゴール設定は、チャレンジャー同士が議論し、(1)「チャレンジすることを、問い直す」。そして、今後のチャレンジを明確にするために、皆さんが想定されている(2)「トップアスリート、あるいはトップリサーチャーの特長、共通点は何か」ということを探っていきましょう。

では、始めます。ポイントはアイデア。アイデアというのは、組み合わせです。どう組み合わせるか。足すか、引くか、かけるか、割るか、ルートか。いろいろな演算子がありますね。では、お願いします。