第7回 YMFSスポーツ・チャレンジャーズ・ミーティング
特別講演
日時 | 3月16日(日) 13:00〜14:30 |
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講演者 |
坂牧 政彦 株式会社 電通 スポーツ局 2020東京オリンピック・パラリンピック室 マーケティング部長 |
演題 | 東京2020オリンピック・パラリンピック開催決定を受けて ~招致活動を通じて日本が伝えたかったこと〜 |
講演概要 | 2012年1月8日に立候補ファイルを提出して以来、8ヵ月間にわたる招致活動の中で、東京が訴え続けてきたことは何だったのか。2013年9月7日のブエノスアイレスで、なぜ東京が勝利できたのか。最終プレゼンテーションを中心に、招致活動を振り返ります。 また、2020年大会開催に向けたさまざまな活動の中で、今回は特にマーケティング活動に着目しながら、オリンピックビジネスの構造の説明とアンブッシュ活動、全国に広がるムーブメント、復興支援等の視点でオリンピック・パラリンピックのあり方に関して説明します。 |
演題:東京2020オリンピック・パラリンピック開催決定を受けて
〜招致活動を通じて日本が伝えたかったこと〜
YSCMの最終日、3月16日に、株式会社 電通の坂牧政彦氏を迎え、特別講演を開催しました。
今回は、①東京が招致活動を通じて訴えたこと、②オリンピックマーケティングの構造とアンブッシュ広告、そして③東京オリンピック・パラリンピックが日本にもたらすもの、についてお話いただきました。
①東京が招致活動を通じて訴えたこと
まず最初に、東京が招致活動のプレゼンテーションで訴えたことについてご紹介します。実は、招致レースは長期間に渡っており、プレゼンテーションは全部で4回ほど行っています。2013年5月にロシアのサンクトペテルブルクでスタートし、6月、7月にはスイス・ローザンヌの国際オリンピック委員会(IOC)本部、最後4回目が、9月7日、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われたIOC総会でした。
この4回のプレゼンテーションで何を訴えることが重要だったかというと、「Why=なぜ東京なのか?」ということでした。しかし、他の候補地と比較し、東京は「Why」で強みを見いだせなかったのです。そこで、東京が考えたのがこの戦略でした。
東京のプレゼンテーション戦略
「Why=なぜ東京なのか?」(開催理念)
スローガン「Discover Tomorrow」を掲げ「How=どう実現するか?」を訴える
「Why」→「Why & How」の両立
このように東京は、最終プレゼンテーションに向け、それまで弱かった「Why」の補強と他の候補地との差別化を図るべく、「How=どう実現するか?」を強みとして導き出しました。さらに、いかにオリンピックを実施していくかについての項目を、このように具体化しました。
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- ①デリバリー
- :実現能力の高さ
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- ②セレブレーション
- :選手を祝福するおもてなしの姿勢
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- ③イノベーション
- :革新的なオリンピックの実施
最終プレゼンテーションを前に、東京の「How」の強さは十分に理解されていました。そこで、さらなる強みとして東京が準備したのが「スポーツの力」です。私たち日本人は、東日本大震災を通じて「スポーツの力」が、どれだけ重要であるかを身に染みて感じていました。そこで「日本なら、東京なら、スポーツの力を世界に向かって発信していくことができます」ということを、最終プレゼンテーションで訴えようと考えたのです。
その最終プレゼンテーションではまず、高円宮妃久子さまが、震災に対する世界中のスポーツ界からいただいた、さまざまな協力や援助に対してのお礼が述べられました。続いて、佐藤真海選手が「スポーツの力」を誰よりも感じている人物として登場します。
この中で佐藤選手は、19歳の時に骨肉腫で右足、膝下を切断したこと、その後、走り幅跳びでアテネ、北京に出場し、さらにロンドンを目指している時に、故郷の気仙沼が震災に遭ったこと、震災後6日間、家族に会えなかったことを語る中で、自分を救ってくれたのが「スポーツの力」だったと説いています。さらに彼女は、「スポーツの力」を広めるため、さまざまな講演やイベントに参加して、これが、カール・ルイスさんなどのスーパースターにも伝わり、「スポーツの力で」日本の復興を支えようという動きが世界中に広がっていったことを伝えました。
その後、竹田恆和さん(日本オリンピック委員会 会長)が、日本の運営能力の高さ、セレブレーション、イノベーションなど、とにかく日本は「How」の部分が一番強いということを伝えました。水野正人さん(招致委員会 副理事長兼専務理事)は、オリンピックヴィレッジから8キロ圏内に、約95パーセントの競技場があることや、新しい国立競技場がランドマークとして造られるなど、大会計画の特色を訴えました。
猪瀬直樹さんは、東京の魅力を紹介するとともに、東京マラソンを通じての都市力、運営能力の高さ、財政力の強さを、滝川クリステルさんは日本人のおもてなしの心をについて、太田雄貴選手は選手の立場から、東京がいかに選手にとって負担のないコンパクトで素晴らしい大会であるかを語りました。
安倍晋三首相は、国として、このオリンピック・パラリンピックは絶対にやるべく、すべて保証をしますということ。また、「スポーツ・フォー・トゥモロー」プログラムを通じ、オリンピックムーブメントを広げていくということを、この場で発表しています。
このように、「Why & How」の両立、「スポーツの力」を「オールジャパン」でプレゼンテーションしたことで、招致を勝ちとることができたのだと思います。
②オリンピックマーケティングの構造とアンブッシュ広告
オリンピックを開催・運営するには、施設の建設費、開催経費、選手強化費など、多くの資金が必要となります。このため、IOC、大会組織委員会、各国オリンピック委員会は、それぞれのオリンピック資産を販売する形でパートナー(企業など)を募り、そのパートナーの皆さまにご協力をいただきながら、大会を開催・運営しているのです。ロンドンの際は、このような単位でパートナーを募っていました。
オリンピックマーケティングの構造
ロンドン
組織 | 呼称例 |
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①国際オリンピック委員会 | オリンピック公式パートナー |
②大会組織委員会(イギリス) | ロンドンオリンピック公式パートナー |
③各国(日本)オリンピック委員会 | 各国(日本)代表選手団公式パートナー |
ご覧のように、ロンドンで日本は、JOCがパートナーを募るだけでしたが、東京は日本が開催するため、②と③共通のパートナー見つけなければなりません。これが、「ジョイントマーケティングプログラム」になります。
東京
組織 | 呼称例 |
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①国際オリンピック委員会 | オリンピック公式パートナー |
②大会組織委員会(日本) | 東京オリンピック公式パートナー |
③日本オリンピック委員会 | 日本代表選手団公式パートナー |
この「ジョイントマーケティングプログラム」はいつスタートするかというと、2015年1月1日からです。つまり、現時点のパートナーの皆さまも含め、権利が発生するのは2015年1月1日なので、東京オリンピックに関係するオリンピック資産を使用することができません(一部IOCパートナーを除く)。これを使用してしまうことを「アンブッシュ広告」と言います。これは、正当な権利を保持していないにもかかわらず、販促活動などに使用することを言います。
では、なぜ「アンブッシュ広告」がいけないのか。それは、オリンピックが、パートナーの皆さまのご協力で成立っているため、パートナーでないにもかかわらずオリンピック資産を使用できるのであれば、誰にもパートナーになってもらえず、オリンピックが開催できなくなる可能性があるからです。
しかし「アンブッシュ広告」について明確な法的根拠はありません。そのため、IOCにはオリンピック憲章というものがあり、オリンピックという言葉そのものでなくとも、明らかにオリンピックを示している表現はオリンピック資産であり、IOCに独占的に帰属し、使用許諾の権限があるとされています。これに対して日本は、立候補した際に安倍首相が署名したため、今後は、国として何らかの法的な処置が生まれてくると言われています。
③東京オリンピック・パラリンピックが日本にもたらすもの
ひとつは、「復興支援」ということがあるでしょう。東京都は、八戸から東京までの1000キロリレーを去年スタートしており、それを今年、来年と実施しますが、今後はさらに発展していく可能性も考えられています。地方との連携でいうと、事前、直前に日本国内で合宿が行われることが予想されますが、各自治体がこの機会を積極的に活用して、東京だけのオリンピック・パラリンピックにせず、そのムーブメントを全国に広げることも重要になってきます。
さらに、2020年は今から6年後ですが、私たちが想像できないこと、たとえば車が自動で走っているとか、電気の代わりに水素で車が走っているなど、日本だから示せる、近未来のショーケースとして、オリンピック・パラリンピックが活用されることと思います。
また、ロンドン、ソチと、パラリンピックがとても盛り上がりましたが、こうしたムーブメントの中で、エスカレーターやスロープといった物理的なバリアフリーだけでなく、精神的なバリアフリーが進んでいく必要があります。たとえば車いすの人を、みんなが支えて階段上っていくなど、東京、そして日本が変わっていくきっかけになることが期待されます。
最後になりますが、2020年の大会で日本は、25個の金メダル獲得を目標にしています。しかし、それが次の大会に続いていかなければ意味がありません。そのためにも、2020東京オリンピック・パラリンピックで積み上げるすべてを、後世に残していくことが非常に重要であると感じております。以上で私の話を終わります。ありがとうございました。
講演者
プロフィール
坂牧 政彦(さかまき まさひこ)
株式会社 電通 スポーツ局
2020東京オリンピック・パラリンピック室 マーケティング部長
1990年、慶應義塾大学法学部法律学科を卒業。同年、株式会社電通 スポーツ・文化事業局に入社。以後、スポーツマーケティングの分野に従事し、世界体操選手権鯖江大会、大相撲地方巡業プロジェクト、FINA(国際水泳連盟)マーケティング、東京マラソンなどのスポーツイベントに関わってきた。2020東京オリンピック・パラリンピック招致活動へは、2012年4月より参加。2013年11月、2020東京オリンピック・パラリンピック室 マーケティング部長に就任。