スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

Scrum Unison(スクラムユニゾン)

橘田智緒、丸岡知恵、そして北川茉以子②

一方、丸岡知恵は撮影アシスタントの仕事をこなしながら、ある時はスタジアムで歌詞カードをファンに配り、ある時はサブカメラを回したりと、黒子の役に徹した。橘田同様、丸岡もまたラグビーには全く縁のない人生を過ごしてきた。

「本当に失礼な話なんですけど、実はトシさんのことすら知らなかったんです」

彼女の興味の対象は中学生の頃からずっと音楽だった。気がつけば、自由に表現し、大きなエネルギーを発信している人たちに惹かれる自分がいた。自分で音楽ができないのなら、せめて音楽を発信している人たちの近くにいたい。大学を卒業した丸岡は迷うことなく映像の仕事を選択した。

今回橘田がこのプロジェクトに関わることになり、さすがに一人では大変だろうということで、同じ会社で働く彼女がサポートに付くこととなったわけだ。

「私、日本人とタイ人のハーフなんですけど、自分は特にどっちの国の国歌もそんなに歌わない。だから、そもそもみんな他国の国歌なんて歌うんだろうか、ってけっこう懐疑的でした」

スクラムユニゾン7人目のメンバー、北川茉以子は、恵比寿のスタジオで午前中の撮影がちょうど終わった頃、おにぎりやサンドイッチでパンパンになったビニール袋を両手に現れた。

「廣瀬から、今スタジオで撮影している、と連絡があったとき、ちょうど近くにいて、これから短い休憩に入るタイミングだったんです、笑」

結局この差し入れがきっかけとなり、北川はそのままスクラムユニゾンの最後のメンバーとして、事務局の運営と広報を任されることになる。東京でエージェント事務所を経営する北川は、廣瀬がまだ東芝でプレーしていた頃からの知人である。2019年に廣瀬が東芝を退社し独立した後、スクラムユニゾンを始動する予定だ、という話も聞いてはいた。

何気なく差し入れに行っただけの北川だったが、気がつくと広報とマネジメントのスペシャリストとしてチームの活動に参加することになっていた。

「基本的に私以外のメンバーはそれぞれがクリエイターであり、それぞれに専門の立場から、こうしたい、ああしたい、という思いを持っています。当然ズレは出てきます。私はそのメンバー間のズレを調整する役とでもいうんでしょうか。一度だけ、もうお願いだからみんな怒らないで、ってお願いしたことはありますけど、笑」

組織委員会から活動が公式に認められ、その後オフィシャル版の映像も制作。前述のオリジナル版とともにYouTubeチャンネルに公開

後日談ではあるが、当初ゲリラ的に活動していたスクラムユニゾンは、大会直前になってラグビーワールドカップ2019組織委員会からオフィシャルな活動として認められる。恵比寿のスタジオで3回にわたって撮り終えた20カ国分の国歌ビデオの他に、最終的にはワールドカップのロゴが入ったオフィシャルな映像も作ることになった。

「オフィシャルの立場をうまく手に入れないと、自分たちのやりたいことが伝わりきらない。私はそう判断しました」

北川はほとんど毎日のように組織委員会に足を運び、スクラムユニゾンにとって一番居心地のいい立ち位置を勝ち取った。

<次のページへ続く>



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