第5回 YMFSスポーツ・チャレンジャーズ・ミーティング

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スポーツ討論会

互いの「価値観」を理解し合うことが重要

杉本先ほどの必要性から一歩進めて、自分自身のスポーツに対する価値観とはどのようなものか、グループに分かれてディスカッションしてみましょう。

では、Aグループからお願いします。

留学生A私は外国から来た留学生です。スポーツの良いところは、言語の壁がないことだと考えました。ルールを守ったらみんなができる。スポーツのキーワードとして「勝負」ということもわかるのですが、私も選手をやっていた頃、大会出場をかけて同じクラブの仲間と戦ったことがあって、それがいやでした。それよりみんなで楽しく運動し、その中での他者との絆をつくることをめざして研究しています。

杉本ありがとうございます。では、次のグループお願いします。

研究Dまとまってはいませんが、私なりの言い方をすると、極論になりますが、好きだからやっている。それに尽きます。そこに付随して健康というものがある。その付随するものの魅力によって幸せな気持ちになる、悔しい気持ちにもなる、いろいろあるかもしれませんが、価値観という質問でしたら、好きだからやっているという答えになります。

杉本ではCグループ。

体験Cやっぱり、コミュニケーションを取りやすいということだと思います。

体験D同じグループなのでぼくからも。ぼくは3歳から18歳までハンガリーに住んでいまして、最初の7~8年は現地の小学校に通っていながら、言葉をまったく覚えられなかった。でも、フェンシングを始めたことで友達ができました。だから、コミュニケーションという意見に賛成です。また、人間形成ができるという点でも大切だと感じます。

杉本ありがとうございます。では、次のグループ。

研究E研究者同士で話しましたが、共通していたのはリフレッシュという価値です。ジョギングなどでリフレッシュするというのが、共通の意見です。

杉本はい、ありがとうございます。各グループで共通部分も見えつつ、まったく皆さんが同じ意見を述べたわけではありません。今言ったように、それぞれの価値観を互いに理解し合うかどうかが大切です。

自分は選手時代、研究データをまったくあてにしていませんでした。それはなぜか。研究者は研究者の立場でしか話をしてくれなかったからです。また選手は選手の立場でしか話をしない。ぼくは、大学卒業後にベルリンのアスレチッククラブに入りました。当時、指導を受けた高名なトレーニング学の専門家はこう言いました。「お互いがお互いの仕事をきちんと理解して、科学者が出したデータを指導者が加工する。研究者は加工されることを理解してデータを出してくる。選手はそのデータがどういう形で出されたのか、そのバックグラウンドを理解する。そうでないと研究データは無用の長物だ」と。

日本はどうでしょうか。トレーニングの現場で考えてみると、まだ微妙にしていないようにも感じます。研究データが良い悪いではなく、互いの価値観がぶつかりもしない。そういう状況だとぼく自身は認識しています。だから今、皆さんから出てきた価値観というものをまず聞く。そこから始めないと、少数派がさらに少数派になっていってしまうと考えるのです。

この討論会のお話をいただいた時、とても良い企画だと思いました。研究者とアスリートが一緒に話せる機会というのはなかなかありません。学会に行っても、自分の分野の人との交流がメインになってしまいます。でも、できる人というのは、必ず外の世界とリンクをし、社会とコミットメントしているものです。価値観の融合や、ほかの分野とリンクを考えていかないと、井の中の蛙になってしまう。この中では熱い議論が交わせても、外の人に評価してもらえるような議論にはならないかもしれない。そういうことだと思うのです。