スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

妻木充法
FOCUS
MITSUNORI TSUMAKI
妻木充法の足跡

「淡々と、人を、癒す」

マリオ・ビジーニとの約束

2015年4月20日、東京都千代田区にある如水会館には、妻木の受賞を祝うべく、日本サッカー協会会長 大仁邦彌氏をはじめ、大勢のサッカー関係者が訪れた。その中には、原博実、西村雄一、清雲栄純といった妻木にとっては馴染みの深い顔も数多く見受けられた。

「自分のこと以上に嬉しかったね。ああいう式って、一次会が終わったらみんなとっとと帰っちゃうけど、二次会になっても誰も帰んなかったでしょ。あれって、やっぱり妻木さんの人柄なんだよ」(原博実)

今現在、妻木充法は週3回、西葛西にある東京メディカル・スポーツ専門学校に足を運んで治療を行い、年に3回ほど上級者対象のゼミを開催している。他にも、自宅で古くからの患者さんたちを診ているが、以前に比べれば、生活のリズムはそう慌ただしくない。長い間苦労をかけてきた奥さんには、FIFAの仕事もブラジルのW杯が最後だ、とすでに伝えてある。

でもね、と妻木は困ったような微笑みを浮かべながら付け加える。

「FIFA仲間のマリオ・ビジーニとも、ほんとにブラジルで最後にしようって約束してたんですよ。でも今回、こういう賞を頂いたら、やっぱりもう少し続けなきゃいけないのかなあ、って考えるじゃないですか。おまけにマリオはマリオで、またFIFAの仕事やり始めてるらしいし」

きっと奥さんはため息をついて、がっかりするに違いない。

でも、FIFAに集う世界中の審判員たちにとっては、この上ない朗報である。

<了>

写真・文

近藤篤

ATSUSHI KONDO

1963年1月31日愛媛県今治市生まれ。上智大学外国語学部スペイン語科卒業。大学卒業後南米に渡りサッカーを中心としたスポーツ写真を撮り始める。現在、Numberなど主にスポーツ誌で活躍。写真だけでなく、独特の視点と軽妙な文体によるエッセイ、コラムにも定評がある。スポーツだけでなく芸術・文化全般に造詣が深い。著書に、フォトブック『ボールピープル』(文藝春秋)、フォトブック『木曜日のボール』、写真集『ボールの周辺』、新書『サッカーという名の神様』(いずれもNHK出版)がある。



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