スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

日本スケート連盟 スピードスケート科学サポートチーム

パシュートには科学の出番がある

紅楳がことあるごとに主張し、繰り返し根気よくヨハン・デビットに伝えようとした科学サポートチームの知見の一つが、先頭交代の頻度を含めた、チームパシュートのレース戦略についてだった。

今現在、国立スポーツ科学センターの主任研究員を務める横澤俊治は、科学サポートチームの一員として、長くチームパシュート競技における選手の動きを分析してきた一人である。

「バンクーバーオリンピックの前からチームパシュート競技の分析はすでに始めていたんです。ただしまだ当時は、エムウェーブの天井にカメラシステムも設置されてなかったし、我々としても分析や理論に対する確証はつかめていませんでした。ただ当初から、パシュートは狙い目だな、パシュートには科学の出番があるな、という意見は強かったですね」

チームパシュートは3人の選手が縦一列になり、先頭の選手が入れ替わりながら1周400mのリンクを男子は8周(3,200m)、女子は6周(2,400m)を滑り、3人目の選手のブレードの先端がゴールした時点のタイムで競われる団体競技である。

時速50キロ以上にも達する選手たちにとって最大の敵は、自らのスピードが生み出す風圧となる。隊列を組み、先頭を滑る選手がその風圧を受けながらチームを引っ張り、後方の2人の選手は前方を滑る仲間の身体を風よけとして利用しながら体力を温存、3人で先頭を交代しながら、いかに疲れを分散するかが、この競技のキーポイントのひとつとなる。

「一番のタイムロスになっているのは、先頭を滑る選手が一旦列を離れ再び列の最後部につく先頭交代の場面です。まずは強い選手ができるだけ長く先頭で引っ張って、先頭交代の回数を減らすと、当然タイムロスは減らせるわけです」

そしてもう一点、先頭交代の一連の動作についても横澤は説明してくれる。

「先頭を滑っている選手は一度その位置から離れると、なるべくすぐに隊列の後方につきたいわけです。それまでのやり方は、列からほんの少し横にずれ、そこから最後部に下がって列に戻る、というものでした。しかしこのやり方だと、先頭を滑っていた選手は最後部に下がるためにかなりの減速を強いられる。その状態から隊列に戻るためにもう一度加速して、スピードに乗ったままの2人を追いかけなきゃならない。」

トップスピードからの減速、そしてトップスピードへの再加速は、当然ながら選手の体力を奪う。そして、前を滑る2人には隊列を維持したいという心理が働き、追いつきやすいように無意識にスピードを抑えてしまう。

「我々、科学サポートチームが導き出した結論は、むしろ先頭の選手は一度大きく横に膨らんで列から外れ、そのまま減速することなく隊列の最後列に戻るほうがタイムもスピードもロスが少ない、というものでした」

<次のページへ続く>



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