第8回 YMFSスポーツ・チャレンジャーズ・ミーティング

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スポーツ討論会

日時 3月14日(土) 19:00〜21:00
パネリスト・司会 瀬戸 邦弘(せと くにひろ)
上智大学 文学部 保健体育研究室 講師、YMFSスポーツチャレンジ研究助成 第6・7・8期生
テーマ スポーツで夢を創る・実現する “スポーツ知”で繋がる未来を目指して

スポーツで夢を創る・実現する
“スポーツ知”で繋がる未来を目指して

“スポーツ知”の創出 個人の夢からみんなの夢へ

瀬戸皆さんはいま、個人レベルで夢に向かってチャレンジを行っていますが、今回の討論会ではそこから一段階ステップアップして、皆さんの専門性や創造性を存分に発揮しながら、他のチャレンジャーとともに共有、チャレンジできる「みんなの夢」を創出したいと思っています。その夢をここでは仮に‟スポーツ知“という言葉で表します。‟スポーツ知“の実現。具体的には、この討論会用に分けられたそれぞれのグループの中にいる「障害者(パラ)スポーツに挑戦している仲間への個人レベルでのサポートとその夢を共有しチームの夢へ昇華、実現する過程」を考えてみます。たとえば佐藤麻梨乃さんの所属するAグループ(会場にはA〜Fグループの6グループが形成されている)であれば「チーム佐藤麻梨乃」を結成し、構成員が一丸となり、佐藤選手をサポートし、その夢を実現するためにみんなの知恵を結集することになります。また同時にその夢をグループ全体で分かち合える集団の夢・目標に昇華させることをも目指します。一番初めにお話ししましたが、ここに参集している皆さんは、日々、自分の専門性を高めてご自身の夢の実現を目指していますが、今回は、その専門性を他者のために活かし共有し、新たな集団としての夢を創出するプロセスを体験していただきたいのです。

現在、私たちはYMFSスポーツチャレンジ助成を受けているわけですが、この助成制度にて育てられた我々には、そこで培った力を飛躍させる、さらなる可能性が残されていると考えています。一つ目は「チャレンジャー間の専門性に依拠した交流」です。二つ目は、「助成終了後にチャレンジャーたちが自身の成果を原資に、積極的に携われるプランやビジョンを創出すること」となります。現在は個別のチャレンジが終了すると自身のチャレンジも一区切りがつき、また同時に財団との関わりも希薄になる傾向があります。これはちょっと「もったいない」なぁという気持ちが強くあります。つまり、自分たちのチャレンジを下地としてみんなで更なる夢(チャレンジ)をふくらませることができると考えているのです。今回はこの二つについて考えて新たな可能性を創出してみたいと思っています。

ところで最近今使用した「もったいない」という言葉が世界中で注目されているのはご存知かと思います。「もったいない」とは、そもそも「物の価値が十分に生かされていない」状態を指しますが、アフリカ・ケニア出身の環境保護活動家にしてノーベル平和賞受賞者である故ワンガリ・マータイさんが4つの「R」(Reduce, Recycle, Reuse, Respect)を使ってこの日本固有の価値観を「MOTTAINAI」というローマ字に乗せて世界中に広めてくださいました。今回、私は当財団の「もったいない」を解消するために、マータイさんの提示した四つのRにもう一つあらたな「R」を加えてみたいと思います。昨夜のミーティング開会式において、本財団木村理事長のお話にも登場しましたが、それはチャレンジャー同士の「化学反応」、Chemical Reactionの「R」となります。ここにはさまざまなスポーツに関する優秀な人々が集っていますが、それはあくまで個人レベルでのお話です。本討論会では一人一人の才能を一つのテーマを軸にコラボレーションさせて、個人の発想はさらに豊かに、また新たな集団として魅力的な集合的な知としての‟スポーツ知“を創造し、スポーツの社会で果たす更なる可能性を考えることを目指します。


別になくってもいいもの!? スポーツってなんだろう

瀬戸さて、本題に入る前にまず確認。我々が普段使っている「スポーツ」という言葉の社会における意味と位置です。結構何気なく使ってしまうこの概念。果たして我々スポーツを生業とする者たちの間でも正確に共有されているのか否か考えてみましょう。スポーツって何だろう。辞書的に簡単に言えば「人間が考案した施設等を使い、特別なルールに則り身体を基としたコンペティションが行われる。また、その競争を実現するための独自の身体技法や鍛錬が存在する」という感じになるでしょうか。

話は変わりますが、たとえば今日、討論会が終わって、ここに座っているレスリングの田中幸太郎選手が廊下を歩いていると、ふと目の前に神様が降りて来たとします(一同:笑)。神様は田中選手にこう語り掛けます。「こんにちは、私は神様です。あなたは①食事、②睡眠、③スポーツ。この3つのうち、どれかひとつを今日いっぱいでやめなければいけません。どれを選びますか?」と。突然の無茶な質問ですが神様なので否定できません(一同:笑)。さあ、みなさん、どうしましょう。Aさん、あなたならどうされますか?

Aうーん。スポーツやめます。

瀬戸Bさんはどうでしょうか?

B僕もスポーツです。食事と睡眠ををやめたら生きていけません。

瀬戸そうですね。みなさんのおっしゃるとおり。普通はこの問いに迷いません。なぜならば①②は我々が生命を維持するために絶対に必要なものとなります。つまり①②がないと人は死んでしまいます。一方で③スポーツはどうでしょうか。スポーツが世の中になくても、誰も死ぬことはないですね。そう考えると我々が命を懸けて挑んでいる対象は社会になくてもいいものなのかということになってしまいます。でも「いや、世界のヤマハがその必要性を考えて財団まで創って助成しているのだからスポーツは社会において必然性があるに違いない」とお考えになる方もいるかもしれません。こんな話があります。ある有名な落語家さんの話ですが、この落語家さんはオートバイが大好きで、特にヤマハのオートバイが大好きでした。この人は「なくてもみんな困らないんだけど、あると嬉しくなるものをつくるんだよな、ヤマハって会社は」こんなことを言っていたそうです。ひょっとしたら、ヤマハって会社は世の中に必要ないものが大好きな変わった会社なのかもしれませんね(一同:笑)。

冗談はさておき。でも、一方で、世の中を注視するとそこはスポーツに溢れかえっています。たとえば毎日のニュースにはメディアを問わず必ずスポーツコーナー、スポーツ欄がある。欧州サッカーの本田圭祐選手や香川真司選手の活躍、マーくんの肘の回復具合、オリンピックやパラリンピックの情報に世の中の人々は夢中です。自分の人生には直接何にも関係ないのに(一同:笑)。なくてもいいもののはずなのに、関係ないものなのに、人々はそれらの情報を求めて、それらに一喜一憂してるんですよね。不思議ですね。ここで瀬戸は仮説を立てました。「なくてもいいのに、なければ駄目な存在」ということは、逆にとても重要な存在として我々の社会に溶け込んでいる。すでに現代社会を形成し構成する必要不可欠な要素としてスポーツは存在しているのではないかと考えるのです。


スポーツの社会における意義とその価値

瀬戸今日の討論会のもう一つのポイント。つまり、スポーツの存在意義、必然性について考えていただく必要があろうかと思います。皆さんのスポーツ観は、ひょっとしたらみんな少しずつ違うのかもしれません。ですから何がスポーツなのかをみんなで共有して、位置を確認した上で、具体的なプランを考えていただくほうが良いかと思います。今日見つけたいことのまず一つ目は「スポーツの世界の意味や意義を再確認・再発見する」ということになります。その上で「チームとして協働しながら、チャレンジャー個々の視野を広げる。そして、また、他者の能力を理解して、個人のチャレンジの可能性というものを再発見・再確認するということ」にもなるのです。その上で「個人の夢をみんなで見る夢に」という今回の課題が初めて達成されると考えます。このプロセスを経て“スポーツ知”というもの、つまり、‟共有される夢“の形を皆さんで具体的なものとして考えていただきたい。個々のチャレンジャーが1年間のチャレンジで培った経験をさらに進化・深化させて掘り下げていく。今回初めて参集された第9期生の方には、これから自分たちが進めていくことへのスパイス(示唆)として本討論会を使っていただきたいと考えています。

さて、討論の形式です。8人ずつの6グループに分かれていただきましたが、ここから先はそれぞれのグループで討論していただきます。まず対象者である方の障害者(パラ)スポーツを取り巻く環境が如何なるものであって、どのような課題があるか共有していただければと思います。50分間のディスカッションの後、各チーム10分間のプレゼンをお願いします。これはケーススタディですから、前提条件として、皆さんが現在所属している学校や研究室等の施設はすべてこのミッションのために自由に利用できることとしましょう。それから、もう一つ重要なこと。オリンピックやパラリンピックなど一時期の夢を達成するだけでなく、自身の愛するスポーツと一生付き合っていけるような枠組みの創出も視野に入れたサポートを期待します。

それでは、オリジナリティに富んだおもしろいサポート計画を作成し、ここにいる人々を魅了してください。ですので、これは当意即妙、頓知のような課題とも言えますね。それでは始めてください!