第8回 YMFSスポーツ・チャレンジャーズ・ミーティング

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スポーツ討論会

瀬戸時間です。それでは順番に発表していただきましょう!まずは走幅跳びの鈴木徹選手のサポートチームからお願いします。

私たちのチームは、まず研究助成を受けている者と体験助成を受けている者が分かれて、それぞれ具体的にどういうサポートができるかと考えました。体験のほうからはNTCなどの施設や最新のトレーニング情報を提供する、また営業職を生かしてスポンサーを見つけるという案が出ました。また、海外経験豊富な選手からは、ヨーロッパの情報提供や現地の知人の紹介なども案として挙がりました。これらは海外遠征の負担を少なくする方法などに使えそうです。研究者は、日ごろから現場へのフィードバックを考えている者が多く、そのデータを鈴木選手に提供します。また学会に参加して入手した新しい情報を入れていくこともできると思います。

ここからがポイントなのですが、私たちが現在の研究や競技を極めていくことで、チームの中から大金持ちが生まれるかもしれません。特許を取ったり、ベンチャー企業を起ち上げて成功したりということですね。そうすれば、鈴木選手のスポンサーとして、競技に打ち込める最適な環境を整えることができます。チーム鈴木は、鈴木選手が引退しても、継続的なサポートを行なっていきます。以上です。

瀬戸ありがとうございました。次は砲丸投げの神下豊夢選手をサポートするチームの方。お願いします!

はい。私たちの最終目標は、神下選手の最終目標です。彼は教員になって、子どもたちに夢を持たせる、そしてその大切さを教えられるようになりたいという。そのためには、自分自身の感動体験や成功体験を伝えなくてはならない。2016年のリオパラリンピック出場、さらに2020年東京大会にも出場する。そして彼の教え子を東京パラリンピックに招待し、その感動を生徒たちに伝えるという夢を私たちは全力でサポートします。

彼は現在9メートルという記録を持っています。この記録を13メートル以上まで伸ばさないといけない。2016年のパラには砲丸投げがないということで、2020年を目標に考えました。神下選手自身も動作分析が重要であると理解されているので、そういった知見に加え、我われはトレーニング環境を整えることに注力します。まずは国内の練習場を整え、さらに陸上競技で有名な大学に留学中のメンバーがいますので、そのトレーニング施設を使わせてもらったり、世界トップレベルの指導を受けていけるような支援を行います。我われの中にはバイオメカニクスの専門家はいないのですが、大学関係者とコンタクトを取り、彼の研究、持ってきた情報というものをディスカッションできるような環境を整えることができます。

さらに、お金も必要です。スポンサーを探しましょうと。実際にスポンサー獲得活動の経験のあるレーシングライダーがこれを担当します。スポンサー企業を探しながら、プランニングやマネジメントのサポートも行います。また、体調管理においては、私の専門の腸内細菌をやっていきます。腸内細菌によってパフォーマンスを高めた神下選手が東京パラリンピックでビッグになって、その結果、食品会社などがスポンサーにつきます。「コンディショニングは腸内から!」というわけです(笑)。最初に申し上げましたが、彼の夢は子どもたちに夢を与えるということです。我われもケーススタディに終わらせず、実際、サポートしていきたいという気持ちが湧いてきました。以上で終わります。

瀬戸はい、では次です。2018年冬季パラリンピックを目指す、チェアスキーの梅野裕理選手のサポートチームのみなさん、よろしくお願いいたします。

彼女の目標は2018年のパラリンピックに出場することです。ここでは、その目標を達成するために何をすべきかということで考えました。まず彼女は、2017年3月までにパラリンピックに出場するためのポイントを海外で獲得しなければなりません。そのためには資金と指導者、トレーニング環境を整えなくてはなりません。私たちは役割分担によってそれらの課題に取り組んでいきます。では各担当から、サポート内容の紹介をさせていただきます。

私は自分の経験を活かし、トップアスリート・コンサルタントという立場で、梅野選手やスタッフにチームビルディングを提供します。また選手村や食事環境の情報も提供します。

僕はプロセスを管理するために、ワークシートを作成して彼女と一緒に考えていきます。

マネジャーを務めます。私は筑波コネクションを駆使して、トレーニング環境を整えるとともに大会の情報を収集します。栄養管理についても筑波の研究室から情報を得ます。彼女が最高のコンディションで戦えるように、コネを使いまくるのが私の役割です(一同:笑)。

競技特性を理解するとともに、彼女の遺伝子や代謝を明らかにすることで強みを探ります。もちろん、パラリンピック以降もサポートします。

私は彼女のトレーニングの有効性を判定したり、トレーニングによる身体の変化を研究し、強化の現場にフィードバックします。

僕はヨーロッパとオーストラリアのネットワークを使って、指導者を探したり、練習場所を確保したり、そういうことに奔走します。

私はPRマネジャーです。梅野選手がどんなストーリーで人生を送ってきたか、競技の魅力は何なのかということを社会に発信し、皆さんの中にイメージを与えたいと考えております。最終的には、梅野選手を業界のオピニオンリーダーにしていきます。パラスポーツを語るなら梅野選手、そういう人間に育てます。実際、業界を代表する人には企業の支援も付きやすいですし、現役を終えてからはコメンテーターの仕事もできると思います。

瀬戸ありがとうございました。一人一人の担当が明確でわかりやすいものですね。それでは棒高跳びの佐藤麻梨乃選手のサポートチームのみなさん、よろしくお願いします!

我われのチームは、名前に佐藤選手の名前[麻梨乃]に因んで、チームマリノスを名乗ります(一同:笑)。佐藤選手の夢は、2017年のデフリンピックで世界記録を更新し、金メダルを獲得すること。さらに彼女は、後進の育成のための環境をつくるということも大切にしています。まず、プランニングに当たっては、研究メンバーによる動作分析や、生化学的な分野が役に立つ。鍛えるべき筋肉の選定などを行った場合に、さらに生化学的な観点の研究を進めて最適なプランを提供します。また彼女はいま、指導者がいないことに困っています。そこで当財団の体験助成OGで五輪選手(ロンドンオリンピック日本代表)我孫子智美選手をコーチとして招聘します。さらに、同じようなトレーニングをしている体験メンバーがおりますので、新しい環境の提供、食育指導、セラピストによるメンタルケアなどを提供します。彼らが一緒にトレーニングすることで、困難を乗り越えていく原動力になれるかもしれません。こうした活動をチェックすることで、YMFSにはどのような分野の人を助成すべきかという情報を提供することもできるだろうと考えております。このようなかたちで「ヤマハスパイラル」を構築していけたらと思っております。

スポーツとは何か、というお題がありました。対象となるアスリートをみんなが全力でサポートする。それもスポーツの一つのかたち。それによって、夢や希望、自分たちの研究成果が得られるかもしれません。これが一つ。それから、これは決して一方通行じゃなく、たとえばある研究者がミトコンドリアの情報を提供すると。それはアスリートにとっても利益になりますが、ひょっとしたらその情報は間違っているかもしれない。でも、それはそれで、ギブ・アンド・テークという等価の価値が返されるということではなく、そういうつながりを生みだすことが大切なのだと。実際いまここに、こういうつながりができました。以上です。

瀬戸ありがとうございました。それでは陸上・短距離の芦田創選手のサポートチームのみなさん、お願いします!

チーム芦田の発表を始めたいと思います。やはり僕をサポートしてくれるチームですから、主役は僕だろうと(一同:笑)。僕は、2020年東京パラリンピックで金メダルを獲得するということを夢にしています。なぜならば、それが最大の自己表現であり、マイナースポーツの発展、また日本のスポーツ界の価値向上につながると考えるからです。しかし、私には夢とは別に野望があります。じつは僕の記録なんて、女子の世界陸上で飛べてしまうんです。つまり僕は障害者アスリートという枠でとどまっているということです。本当の意味で僕はアスリートと呼んでもらえる記録を出しているのかと問われると、自分では「アスリートではない」と思っています。ですので僕は、男子の全国レベル、具体的には全国大会に出場するような記録を破って、健常者と障害者の垣根を越える存在になりたいと考えています。

この試みを「プロジェクト創社長」と題しました(一同:笑)。資本金120万円。YMFSスポーツベンチャー企業支援の第1期生となります。会社のメンバーは、それぞれCEO、顧問、美人秘書兼国際部長、営業部長、科学サポート部長、広報部長で構成されます。この会社では、パラアスリートのマネジメントを事業にします。競技支援はもちろん、アスリートのブランディングも行います。僕自身が志向するスポーツによる自己表現を具現化します。みんなで話し合う中で「スポーツとは自己表現の具現化である」という意見になりました。

でも、僕は跳びたいんです。ちゃんと競技をやりたいんです。それで各部長には国内外の強化拠点での営業、手厚い練習計画の提供、科学サポート、地理学的なアプローチで支援をしてもらい、僕自身はみんなの期待に応えて東京パラリンピックの金メダリストになります。そして僕が金メダリストになった後は、パラスポーツの土壌が整い、みんながパラリンピックを見に行きたいと思える社会になっていることでしょう。ご清聴ありがとうございました。

瀬戸とてもユニークでした。では最後、水泳の上垣匠選手をサポートするチームの皆さん。お願いします!

まずスポーツとは? と考えたとき、健常者であれ障害者であれ、私たちはそれは自己表現の手段であると考えました。スポーツはなくても生きていけるわけで、なのにケガをはじめとするリスクもある。とは言え、スポーツに取り組む以上、やっぱり上を目指していくわけです。そして勝っていく過程で、やっぱり自分をもっとアピールしたくなるのだと思います。私たちのチームは、世界初「UEGAKI泳法」を生み出します(一同:驚)。上垣選手ならではの泳法を生み出して、2020年東京パラリンピックで金メダルを獲ります。さらに、UEGAKI泳法をブランド化し、いま専門としている400mから、2020年には新たにパラリンピック種目になるオープンウォータースイミングに転向します。それでは、水泳の専門家から詳しいところを説明します。

はい。まず上垣選手は、健常者とは違った特性や個性を持っています。既存の泳法の範囲ではなく、オリジナルの泳ぎを創造します。先ほど説明があったように、リオが終わったら、より長い距離を海で泳ぐオープンウォーター競技に転向します。彼はとても大きなエネルギーを持っています。でも、そのエネルギーをより効率的に、より長く使う必要があります。泳力は、前に進むだけの推進力とそのときに受ける抵抗力で出ます。僕たちは後者の抵抗力に着目しました。抵抗力を減らす一つの方法が、引く動作を減らすこと。これまではキックを打つことが当然でしたが、キックをしないで下肢を浮かせればそれで体力の温存もできます。ただし下半身を浮かせるためには強力な体幹が必要ですから、体幹トレーニングや栄養管理、そして乳酸測定といった専門家のサポートが重要となります。またオープンウォーター競技には、海でのトレーニングが欠かせません。そこはボート競技のスペシャリストがサポートしていきます。しかし、この計画を遂行するためには大きなお金が必要です。そこで我われはYMFSに助成申請することにしました。事務局の皆さん、よろしくお願いします(一同:笑)。

余談になってしまいますが、ディスカッションの最後に上垣選手に聞きました。「2020年に金メダルを獲ったら、その後、どうしたいですか?」と。その答えを聞いて、私たちは感動してしまいました。だから私たちはどうしても彼のチャレンジを成功させたい。その言葉は、本人に話してもらいましょう。上垣選手、金メダルを獲ったら、どうしますか?

上垣はい。えーと。親に感謝します。

どうです? これはスポーツではないですか? これこそスポーツの良いところの一つではないかということで結論づけさせていただき、終わりにします。ありがとうございました(一同:拍手)。


夢は実現されるために存在する。

瀬戸皆さん、発表ありがとうございました。それぞれのチームの個性があって、とても楽しい発表でした。各グループが、チームとして個人の枠組みを超えたチャレンジの可能性を存分に見せてくださいました。ところで、たとえば研究によって「これが正しい」「これが効率的」とされる成果をスポーツの現場にもって行くと、現場にいる方たちと「正しさや合理性」についての考えが異なったり、意見が合わなかったりすることがあります。それは研究者にとっても現場にとっても望むところではありません。今回のケーススタディのように、自分がいる場所、それから他者性と当事者性、自分が持っているものを持ち寄って、新たな視点を確保して視野を広げていけたら、ひょっとしたらこんな部分も氷解していくことがあろうかとも思います。

さらに、です。新たな可能性が芽生えることもあるでしょう。誰かを支えようとみんなで盛り上がって、いや本当にそこにチャレンジしてみたくなり、「じゃ、やろう!」と言った瞬間それは現実になります。皆さんはそれだけの能力をお持ちだし、可能性もある。こういった形で接点を持って、その人たちが持っているものを頂戴すると同時に自分も提供する。先ほどの発表にも出てきたギブ・アンド・テークです。それを1対1の交換ではなく、みんなでもっと素敵なものに変えていきませんか? ということができるはず。みんなで共有される、生み出されるようなチームとしての主体性ができたら、それはとてもおもしろいんじゃないかということです。


ヤマハファミリーで新たな夢を

瀬戸いくつかの班の発表にも出てきました。現時点の一過性の目標からスポーツを生涯にわたって付き合う対象へその枠組みをシフトしていただけました。YMFSの助成は基本1年間ですから、短い目標を立ててそれを実行するということになります。オリンピックやパラリンピックを目指すのは大きな目標であると同時に、若いある時期の大きなイベントに過ぎないとも言えるのです。そうしたときに、ここで学んだことや実践したことを継続して、いかに次のステップに進んでいけるかということが重要になります。ここにいる仲間たちの知恵を拝借しながら、自分の可能性をどんどん広げていく。そういう発想を持っていただければと考えています。私自身も3年間助成をいただいて、そう実感しています。もしここをファミリーというならば、個人的には到達できなかったことをOB・OGになった人たちが個人や仲間たちと継続していく、新しいことにもチャレンジする。助成が終わった後こそ本番である、と。私はそう思うのです。

最後になりますが、こうした機会を与えてくださった浅見俊雄審査委員長をはじめとする審査員の先生方、いつも我慢強く支えてくださった事務局の皆さん、そして企画から運営まで協力してくださったOB・OGの仲間たちに本当に感謝しています。それから、熱心に討論していただいた参加者のチャレンジャーの皆さん、本当にありがとうございました。心から感謝いたします。みんなで世界というキャンバスをもっとワクワクするスポーツの色に染めていきませんか。以上です。ありがとうございました。


パネリスト・司会

スポーツ討論会
プロフィール

瀬戸 邦弘(せと くにひろ)
上智大学 文学部 保健体育研究室 講師、YMFSスポーツチャレンジ研究助成 第6・7・8期生