スポーツチャレンジ賞
純粋なスケートの楽しさを知ってほしい
小島スケートが好きって思われた原点って、小学校のときに初めてリンクにいったときなんですか?
樋口そうです。滑るという感じが一瞬で好きになったんですね。
小島その「好き」という気持ちを持ち続ける秘訣ってなんですか。
樋口うーん、なんでしょう。初めの頃は滑る感覚が好きだったけれど、競技になったら違うこともいろいろやるじゃないですか。ジャンプも飛ばなくちゃいけないし、スピンも回らなくちゃいけない。そのときは、その滑るって感じが好きだっていうのは、ちょっと忘れていたかもしれない。選手としてのキャリアが終わって、今度は人に教えるようになると、まずスケートは滑ることができなければ次に何もやれないんだから、滑ることを教えるじゃないですか。すると、だんだん滑ること自体が好きだっていうのが戻ってきたんですね。ああこの感じ、いい感じだな、と。自分の足に自分の体を委ねる感じが好きなのかな、という気がします。
小島「足に体を委ねる」。
樋口だって、そうなるでしょう。それが例えば天気のいい日の屋外のリンクだったら、美しい空気も、太陽の暖かさも感じられる。僕はそういうものが一番好きです。だから子どもたちには、自然の湖のようなところで滑らせてあげたいって思うことがありますよ。競技からは外れてしまうかもしれませんが、そういうことがスケートそのものでしょう?僕は、まず純粋なスケートの楽しさを知ってほしいんです。
小島今回の表彰の話があったときに、どんな気持ちで受け取られたのか、率直に語っていただけますか?
樋口はじめはお断りしようと思っていたんです。大々的に表彰されるようなことを自分はしていないと思ったので。でも、実際に賞をいただいた後は、これからもっとスポーツのことにもがんばっていかないといけないなっていう気持ちが起きました。今日も、このようにお話する機会をいただいて、もっとスケートだけではなく他の芸術スポーツの世界の方々と交流があってもいいのかな、と思うようになりました。
小島「選手とコーチをつなぐ」から、今度は先生自身が競技の枠を越えて、「フィギュアスケートの世界を外の世界とつなぐ」わけですね。
樋口例えば今度僕が選手と合宿をするとき、例えば小島さんに来ていただいて、チアダンスを教えていただいたら、なにか枠を越えたものができるかなと思ったりしているんです。ご迷惑だろうけど。
小島いえいえ、ぜひ喜んで参加させていただきます。では最後に、樋口先生のこれからの夢やチャレンジについて伺えますか?
樋口やっぱり今は教えるのが好きだから、できれば、オリンピックを目指したいと思っている子たちにはその舞台まで行かせてあげたい。その子が持っている能力ギリギリのところまでは行かせてあげたい。でもやはり、なによりもまず楽しんでスケートをしてもらいたいですよね。
小島「楽しんで」って、キーワードですよね、今の時代のスポーツでは。上に行くにしても。
樋口僕も若い頃は、きつく怒ったりしていたけれど、やはり愛を持って、楽しく教えていくのが一番いい。そしてそれはどのスポーツでもそうだと思うんです。
<了>
写真=近藤 篤 Photograph by Atsushi Kondo
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