スポーツチャレンジ賞
教えている子が伸びないときは、聞いてあげること
小島私、実はパトリック・チャンさんが大好きなんです。
樋口彼は素晴らしいスケーターですよね。
小島心が洗われる綺麗さ、美しさを持っているような印象があるんです。
樋口僕はスケートそのもので言えば、パトリックが一番だと思います。彼はスケートを通して表現できていますね。他の選手は肉体を振り回している感じがする。スケートより肉体のほうが先、肉体の表現力が強い、とでも言えばいいのかな。
小島素人の私から見ても、スムーズで滑らかだなと思うのはそこかもしれません。スケートを活かした振り付けや表現の仕方とか。
樋口基本的なスケーティングが違うんです。小さい頃の貯蓄というか、スケーティングをすごく大事にして育ってきたんじゃないかなって気がしますね。あとは、加速していくものがすごく多い。押して滑るのではなく、押すけれど、それ以上に滑ることができるのが彼だと思います。
小島力むことなく、どんどんスピードがまるで自然に上がっていく、そんなイメージでしょうか。
樋口普通、ターンをしたら少しスピードが落ちてしまう人が多いのですが、彼の場合はさらにスピードが増していく、という感じを受けますね。フィギュアスケートは、第一点(主に技術的評価)と第二点(芸術的な評価)があって、第一点はどのジャンプを飛んだ、スピンを上手くできた、というテクニック。第二点、ファイブ・コンポーネンツというんですけど、それはスケーティングスキル、スケートそのものの上手さ、振り付けや音楽との調和、パフォーマンス、そういうもので点数を出していくんです。彼の場合は、それが出やすい。世界選手権に出る人の中でも際立っているかな。
小島先生はあるインタビューの中で「パトリック・チャンは、怒鳴られながら世界チャンピオンになったわけじゃない」とおっしゃっていました。あれは、素晴らしい表現だと思いました。
樋口いや、本当ですよ。彼は小さな時にも怒られてない。
小島それはパトリック・チャンのコーチやご両親、環境がよかったのか、それとも、そもそもカナダの教育方法なのでしょうか。
樋口両方ですよね。カナダの教育方法でもあるし、先生もすごく優しく優しく彼を育てたのがわかります。例えば、子どもがうまくできないと、怒って手を出してしまうようなお母さんもいるけれど、叩くってことはいけないことでしょう。「これは愛のムチです」って言うから、いえ、愛のムチなんてありません!って答えておきましたけれど(笑)。
小島自分が教えている子がなかなか伸びないときは、どんな風に接するんですか?
樋口伸びないときはしょうがない。でも、どうして?とは聞くようにします。なんでそういう態度を取るの? 何か苦しいことがあるの?と。思っていることを言えば、少しはすっきりするだろうし。基本的に教えることはいつも一緒、変わらないんです。
小島心のモヤモヤがあったり、抱えていることがあったりすると、それが表現に出てくるんでしょうか。
樋口重症だと、滑れなくなっちゃう子もいます。そういう時は、やはり聞いてあげることが大切なんだろうなって。この頃はそういう風に考えるようになりました。
小島先生はオープンマインドですね。基本的に日本人男性って、歳を取るほどより偏狭に、より閉鎖的になることが多い気がしますが、先生は開けていますよね。
樋口独り身だからじゃないですか(笑)。
小島先生の笑顔とオープンマインド、なんでも受け容れてくれるっていう安心感が選手としてはあるんでしょうね。
樋口そういう人は僕のところでたぶん大丈夫かな。でも、あんまりこう、いけー!、やれー!って感じじゃないから。だから僕のところで育っている子はのんびりしちゃうんじゃないかなって思うこともありますけど。
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