スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

HIDENOBU KOBAI × AKIRA KUROIWA

「やっぱり最後に大事なのは人間の部分」

YMFSお話を伺っていると、科学サポートチームが貢献できそうなことはまだまだたくさんありそうですね。日本の選手をさらに強くしていく方策とでも言えばいいんでしょうか。今現在、話せる範囲の中でこういう実験にチャレンジしたいということはありますか?

紅楳そういえば、巨大な扇風機を最近購入しました。リンクに人工的な風を起こすためです。

YMFS風ですか?

黒岩例えば、カルガリーやソルトレークといった標高の高い場所では空気抵抗が低くなり、選手のスピードが上がってタイムが良くなり、カーブでは平地よりも遠心力が強くはたらきます。そういう環境を日本で作るとなると、完全に密閉された室内を作って減圧する、という方法が一つあります。

紅楳あるいは、空気圧を下げる代わりにリンクの中で追い風を人工的に起こすという方法もあります。追い風の中で選手がトレーニングをすれば、滑るスピードが上がり、当然カーブのところで通常よりも大きい遠心力がかかります。その感覚を選手に身体で覚えてもらいながらトレーニングをするわけです。

YMFSなるほど、それぞれのリンクの特性にあった滑りを追求していくわけですね。

紅楳あとは、これは個人的な興味ですが、氷上でのブレードに対する力のかかり方を計測してみたいですね。レース中に実際どのくらいブレードが撓んでいるのか、とか。色々センサーをつけると計測することは可能ではあるんですが、試合の時の状況とは全く異なってしまう。欲しいのはレース本番そのもののデータなんです。

黒岩そういうことも、科学者の人たちから提案してもらって、ヘッドコーチが判断する、というのが現場の基本的な流れです。科学者の人たちがどんなに正しいことを主張していても、現場にいるコーチや選手たちが聞く耳を持たなければ、結局は宝の持ち腐れになってしまう。やっぱり最後に大事なのは人間の部分ということになりますね。

YMFSそれでは最後に、次の北京五輪に向けてのお二人の思いや考え方をうかがえますか?

黒岩僕は間違いなく今のこの日本代表ナショナルチームは、北京五輪でさらに上の結果を出せると信じています。そのために今の日本に必要なのは何か、そこを考え、答えを見つけ出すことが課題だと思っています。

紅楳私もそう思います。ここ最近男子選手もかなり伸びてきているので、次の北京五輪では相当期待できるでしょう。あえて課題を挙げるとするならば、ちょっと競技の部分とは離れてしまうかもしれませんが、いい意味での仕事のマニュアル化ではないかな、と考えています。特定の人の特定の能力に頼り切った仕事の仕方では、その人たちがいなくなった瞬間、同じパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。これまで積み上げてきたことが、結局また元に戻ってしまうかもしれません。今それぞれの立場にある人が、いつどんなときに何をすべきなのか、これまでの経験や知見をまとめ、組織として共有することが必要なのではないでしょうか。

<了>

写真=近藤 篤 Photograph by Atsushi Kondo

インタビュアー

黒岩 彰

AKIRA KUROIWA

1961年 9月6日 群馬県生まれ。第14回サラエボ冬季大会(1984)スピード・スケート男子500m、1000m出場。第15回カルガリー冬季大会(1988)スピード・スケート男子500m 銅メダル、1000m出場。

現役引退後は、監督として後進の育成につとめた後、プロ野球・西武ライオンズの広報課長、運営部長、球団代表などを歴任。2003年よりOAJ理事に就任。2008年4月1日付で、富士急行スケート部監督就任。現在は、公益財団法人日本スケート連盟のスピードスケート強化副部長として後進の指導にあたると共に、公益財団法人日本オリンピック委員会のJOCアシスタントナショナルコーチとしてスピードスケート選手の選手強化、育成に力を注いでいる。



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