スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

INTERVIEW
FUMIO USUI × TOMOKO HAGIWARA

【対談】臼井二美男×萩原智子

スポーツの効能みたいなもの

この人はこうだったらもっと素敵なのにな、とか、ちょっと後押ししてあげよう、とか。そういう意識が強いです。人のために何かをしたいとか、そういう気持ち?

誰でも、どこかに人間として愛せる部分がある

萩原単純な質問なんですが、臼井さんはなぜそんなに良い義足を作れるんですか?

臼井やっぱりさっき言った、それぞれの人との『約束』、それを果たそうとするからだと思います。ちゃんと歩けて、前はできなかった買い物や旅行に行けるようにするとか。一緒に行くとあんまり長く歩けなくて旦那さんに悪いから、と遠慮していた女性が、夫婦一緒に旅行に行けるようになったとか聞くと、お互いに嬉しいじゃないですか。当然感謝の言葉もあるし、その人の気がよくなってくるのを見ると、手は抜けない。その連続ですよ。

萩原人のために何かをしたいとか、そういう気持ち?

臼井たまたま知り合った人の、足りない部分をイメージするんです。この人はこうだったらもっと素敵なのにな、とか、これができなくて困ってるみたいだから、ちょっと後押ししてあげよう、とか。そういう意識が強いです。映画やドラマで、夕陽の中、恋人同士が走ってきて抱き合うシーンがあるでしょ。そういうとき、手がない人にとって、その映像というのはあまり現実的じゃない。特に思春期なんかだったら、大きな欠落感を覚えるかもしれない。だったら、抱きしめられる義手を作ってあげよう、走っていける義足を作ってあげようとか思うんですね。

萩原そういう風に考えられるバックボーンは、どこで生まれたんですか?

臼井映画評論家の淀川長治さんが書いた本に、「私はまだかつて嫌いな人に逢ったことがない」というのがあるんですけど、高校生のときに一回読んだんです。深い意味はわかんなかったけど、世の中で、どんなに悪いことをする人でも、どこかに人間として愛せる部分があるんだっていう話でした。思春期にそういう言葉、ものの考え方に影響されたのは確かですね。

萩原人間って、人と違うところを気にしてしまい、人と違ってどうしようとか思ってしまうこともあります。私は背が高くて、小学校のとき170センチで。男の子によくからかわれたんです。それがコンプレックスで仕方なかったんですが、ある指導者と出会って、背の高さについて初めて褒めてもらったんです。その言葉が自分の人生をすごく変えてくれました。

日本の障害者スポーツはバランスよく進んできている

臼井去年、マレーシアで行われたアジアユースって大会にいったんですが、向こうでは義足とか車椅子の選手が少ないんですよね。圧倒的に少ない。日本は身体障害者への総合支援だって、結構万遍なく、それなりの義足とか車椅子を国が与えてるんですよね。ところが、アジアの他の国では、まだまだそのへんがあまり行き届いてなくて、まあ、水泳は一応プールと施設があって、指導員もいればなんとかなりますけど、道具が必要なスポーツに関しては、まだアジアはすごく遅れていますよね。

萩原そういう部分は、欧米のほうが圧倒的に進んでいますよね。

臼井間違いないです。日本の場合でも、まだ生活用の車椅子と生活用の義足で止まってて、それ以上はいまのところダメですから。

萩原生活用のものに関しては補助がでるけれど、スポーツ関係は費用が出ないと聞きました。

臼井まったく出ないです。その線引きがすごく難しいみたいで。例えば、車椅子テニスやりたいんですけど、っていう人にも車椅子を渡さなきゃいけないのか、とか。渡したけれどその後全然やらないで家に飾ってるだけ、みたいな状況が起こったらどうするんだ、とか。6年後に向かって、使えるお金はいろんな形で出てくるだろうから、そのへんの整備は必要だと思います。

萩原私も、文科省の有識者会議に参加させていただいてるんですけど、まだ現場の声が反映しにくい。だから臼井さんみたいな技術者や指導者の方たちがどんどん意見を言えるような場があってほしいと思います。

臼井障害者スポーツの指導員の人数なんかは以前よりちょっと増えていますよね。ボランティアや理解者の数も増えて。そのあたりのことは徐々に始まってるような気がします。せっかく2020年東京でやるじゃないですか。繰り返しになりますけど、アジアの中で考えるなら、日本の障害者スポーツはバランスよく進んできていると思います。そこをしっかりと利用して、立派な施設を作るだけじゃなく、アジアの人たちと交流する、仲良くしていいと思うんです。

萩原情報の共有であったりとか、技術の共有であったりですね。たしかに日本では、今までパラリンピックの記事は、新聞の生活面や医療面に載ってることが多かったのが、ロンドンパラリンピック以降、スポーツ面にバーンと載るようになってきました。

臼井国民性もありますからね。ロンドンパラリンピックのレベルまでたどり着くのは大変なことだと思いますけど、日本は良い方向に向かっていると思いますよ。10年くらいで国民の意識は上がってきている。パラリンピックは競技性も高くなってきていますからね。前は義足で日本選手権とか出てるだけで、立派なことをやっているという印象があったけど、今は世界の情報がリアルタイムでわかるから、練習量、練習の仕方、義足の精度、すべてを上げていかないと世界とは戦えない。

<次のページへ続く>



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