スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

INTERVIEW
FUMIO USUI × TOMOKO HAGIWARA

【対談】臼井二美男×萩原智子

スポーツの効能みたいなもの

スポーツにかかわると、性格がだんだん陽性になっていく

萩原臼井さんの存在を知って、自分にフィットする義足を作ってもらえたって喜んでいらっしゃるランナーの方も大勢いると聞いています。

臼井でもやはり、ランナーになるまでにはかなり時間がかかりますよ。義足をつけた瞬間から選手、なんて人は一人もいない。最初は足を切断して、心身ともにどん底の状態でやって来る。まず歩くことからスタートし、先が見えるようになってきたら走ることを覚える。でも、まだその時点では、選手になるのは無理です。学生なら学業に戻り、社会人なら元の会社に復職する。そこをサポートした後に、話がスポーツのことに移ってゆきます。

萩原なるほど、たしかにそうですよね。

臼井人間として自立していなければ、なかなかスポーツにはたどり着かない。安定して続けるには、まず自分に自信を持たないといけないんです。だから私は、学生だったら学校にちゃんと行かせるし、社会人であれば仕事を見つける手伝いもします。仕事がないと、特に男の子は続かない。やっぱりどこかで自分に自信がない、みたいなのが出ちゃうから。

萩原患者さんのすべてをサポートする、大変な労力ですね。

臼井30年間やってきて、患者さんはたぶん500人、600人います。若い人に徐々に任せてゆく、そういう年齢にもなってきましたが、ただ単にバトンタッチすればいいってわけでもないですから。

萩原若いお弟子さんってどのくらいいらっしゃるんですか?

臼井職員は28人いて、スポーツ系を手伝ってくれる人は5人くらいかな。最近は、最初からスポーツ用義足をやりたいって学生が来るんですよ。でもそれはありえないことなんです。スポーツ用義足には、お年寄り用の義足、子ども用の義足、いろんな要素が詰まっていて、最後まで責任を持って仕上げるって意味では、スポーツ選手もおじいちゃんもあまり関係ない。仕事を全うし、なおかつその人の個性を義足でサポートできるような、そんな若い技師があと5人くらいいればいいなって思うときはあります。基本的にはスポーツ用義足ではなく、一般の義足をたくさんやって、嫌な思いも良い思いもいっぱい経験すべきですよね。

萩原義足がフィットする前と、フィットした後で、やはり人はすごく変わりますよね?

臼井いわゆる良い義足、適合するっていうんですけど、そういう義足に出会うと、履いていることを忘れる感じになります。一歩歩くたびにどこか痛かったりすると、顔つきまで変わっていっちゃいますもんね。

萩原良い義足に出会うことでポジティブな気持ちになれると。

臼井あとね、親御さんもすごく変わります。障害、特に先天性の障害だと、お母さんのストレスはすごく大きい。お母さんには、子どもに対する罪悪感というのが根本にあったりする。スポーツにかかわると、子どももお母さんも、コミュニケーション能力が上がってきて、性格がだんだん陽性になっていく。本人も家族もたくましくなる。そのへんは、健常者以上に効果が大きいです。スポーツの効能みたいなものをすごく感じますよ。

人は出会うことで変わっていけたりもする

萩原臼井さんは若い頃スポーツをやられてたんですか?

臼井そんなにはやっていませんでしたね。中学で卓球部、高校では空手部で応援団。で、映画研究部とかにも入っていて。変な高校生活でした。大学に進んでからは、音楽にもはまって、勉強なんかしないで8年間ほどずっとバイトばかりしていました。バーテンをやったり、トラックの運転手をやったり。

萩原でもそうやって若い頃からいろんなものを見たりやったりしたから、臼井さんは広い視野で世界を見られるのかなって思うんですけれど。

臼井大体昼間の2時くらいになると、だんだん自己嫌悪になってくるんです。おれはこのままアルバイトをしてていいのかな、とか。友達はもう大学を出てどこかに就職したり、結婚したりしているのに。でもこの仕事に就いてからは、一日があっという間に過ぎていくようになりましたね。

萩原迷ったことは一度もないんですか、この仕事は自分に合ってるのかなって。

臼井ないです。むしろ30年間毎日毎日、時間が足りない、って感じています。義足って、1人に1個じゃないですか。1人1個作るには、1人の人に対して、作り上げますよ、っていう約束をするわけです。その約束をちゃんと成し遂げるには、それなりのエネルギーが必要ですから。

萩原臼井さんを通して感じるのは、出会いってすごいな、ってことなんです。臼井さんが義肢装具士の仕事に出会ったこともそうですけど、選手たちも一般の人も、臼井さんに出会ってどんどん変わっていく。地方には臼井さんみたいな義足のトータルサポートをしてくださる方って少ないと思うんです。だから、いつどこで、臼井さんのような人に出会えるかって、すごく重要なことですよね。

臼井確かに出会いは大切で、人は出会うことで変わっていけたりもします。スポーツばかりではなく、皆で集まってたまに高尾山に行ったり、江ノ島を散策したり、先週はミュージカルを見に行ってきましたよ。中には運動が得意じゃない人もいるから、そういう人たちも楽しめる部分は作っているつもりです。基本はその集まりみたいなものに来ていれば、義足のことでそんなに泣くことはない、そういうコンセプトがベースにあるんです。

<次のページへ続く>



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