スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

臼井二美男
FOCUS
FUMIO USUI
臼井二美男の足跡

失われたものを取り戻すために

義足を作ることの意味

4月から9月まで見習いの期間を過ごした後、臼井は正社員として正式に採用された。鉄道弘済会で働き始めて最初の2年間、臼井は先輩たちが作った義足の仕上げを担当させられる。

早く自分も直に患者を担当したい。臼井は自分に与えられたタスクをこなしつつ、他のベテラン職人たちの仕事を積極的に手伝い、観察し、質問し、少しずつ自分のものとして吸収していった。

病気、事故、様々な理由で手や足を失った人々が毎日センターを訪れてくる。職場で目にする光景はそれまでの人生で見たことがないものだったが、臼井には長年のバイトで培った経験があった。とにかく一生懸命にやっていればなんとかなる、それが臼井の確信だった。

2年後、臼井はようやく一人の患者の義足を最初の行程から担当させてもらえるようになる。

義足は完全なオーダーメイドで、この世の中に同じ形をした足はひとつもない。義足の難しいところは、それが単に形の問題だけではないところ。ズボンのベルトをきっちりと締めなければ気が済まないオジさんがいるように、と臼井は説明する。ゆるめが心地よく感じる人も入れば、きつめがいい人もいる。ある人の皮膚はやわらかく、ある人の皮膚は硬い。痛みに対する許容範囲も人によって大きく異なる。

自分ではいい義足を仕上げたつもりでも、相手が納得しないことも頻繁にある。こんなものはけるかぁ!周りの目がある中で患者から義足を投げつけられたこともあった。

しかし臼井は腹を立てなかった。長い時間痛みと共に生きていれば、人間不機嫌にもなるし、性格も変わるさ。

あるいは、一人の中学生の足形をとり、ようやくその子の義足が仕上がって仮合わせをしたあと、その少年の様態が急に悪化して亡くなった、という知らせを受ける、そんな経験もあった。

たしかに自分の作った義足をはいて、それでその子の命が長引く保証はない。しかし同時に、ぎりぎりの状況の中では、良い義足をはくことで、さあこれで歩くぞとモチベーションが上がり、免疫力が上がり、その結果命が長引くケースもあるだろう。

義足に命がかかっている人もいる。そして、その新しい足を作るのは自分しかいない。自分があきらめてしまえば、その人は足を失う、ならば作り続けるしかないじゃないか。嫌なことがあっても、凹みそうなことがあっても、自分の悩みなんてとても些細なことなのだと、臼井は思うことにした。

<次のページへ続く>



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