スポーツチャレンジ賞

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YMFS SPORTS CHALLENGE AWARD SPECIAL CONTENTS

越智貴雄

パラスポーツを伝えるために

オーストラリアでの1年の留学を終えた越智はその2年後、大阪芸大を卒業し、半年ほど新聞社の遊軍写真記者として働くと、フリーランスのフォトグラファーとして独立する。

広告の仕事、雑誌の仕事、さまざまなジャンルの仕事をこなしつつも、意識の中軸は常にパラスポーツに置いていた。

2004年には「“パラスポーツ”を五感で“感じて欲しい”」という意味を込めて名付けたカンパラプレスという通信社(現・一般社団法人カンパラプレス)を立ち上げ、自らの写真に記事をつけ、パラスポーツの写真や記事の発信基地にした。メディアの福祉面ではなくスポーツ面に載るためのパラスポーツのニュースを世界に届けたかった。

シドニーについで、夏季はアテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロ、冬季はソルトレイク、トリノ、バンクーバー、ソチ、平昌、予算がない中、安宿に泊まってノミに食われながらも撮影を続け、パラアスリートたちの姿を追いかけ続けた。首筋、あるいは脇腹、ノミに食われた肌は荒れたが、心は充足感で潤っていた。

「僕だけじゃないですよ。あの頃はみんな、アスリートの人たちも、なんとか自分の活動を続けるために、たとえお金がなくても諦めなかったし、支援してくれる人を探し続けてましたから」

越智は元々大阪芸大で学び、写真に関する様々な知識とテクニックを持ち合わせたアート系の写真も撮れるフォトグラファーでもある。パラアスリートたちを被写体とした撮影活動はトラックや体育館だけにとどまらず、2012年には陸上アスリートの競技資金集めのため、ハイエンドのデジタルカメラを使いスタジオで撮り下ろしたセミヌードカレンダーを1万部出版し国内外で話題となった。

切断ヴィーナス/越智貴雄著(白順社・2014年)

2014年には、義肢義足を美しくかっこよく履きこなす女性たちを撮影した写真集「切断ヴィーナス」を出版し、かつての越智のように先入観でしかパラアスリートたちを見ない世界に大きな問いを投げかけ、自ら素晴らしい回答を示してみせた。

「きっかけはロンドンでのパラリンピックで、走り高跳びの選手の義足に、あるはずのない血管が浮き上がるのが見えたことなんです。義足にも血が通うんや!って。帰国してすぐに、義肢装具士の臼井二美男さんのところを訪ねました。そしたら臼井さんから、義足を表に出している人はまだほんの一握りの人なんだ、と聞き衝撃を受けました。じゃあまずは義足を臆せず堂々と見せている人を撮影してみよう、となったわけです」

2015年、切断ヴィーナスショーを初めて開催。越智氏(前列左)と義肢装具士の臼井二美男氏(前列右)、ヴィーナス達とともに。(写真提供:越智貴雄氏)

2020年には、延期されなければ東京パラリンピックの開幕式が行われる予定だった8月25日にJR高輪ゲートウェイ駅前広場で義足女性たちによるファッションショー「切断ヴィーナスショー2020」を無観客オンラインで行い、世界中の話題を集めた。

あれも伝えたい、これも伝えたい、気がつくとシドニーのパラリンピックからあっという間に20年が過ぎ去っていた。

<次のページへ続く>



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