スポーツチャレンジ賞
写真との出会い
高校1年生の春だった。
その日の午後、越智貴雄は母親から用事を頼まれた。
ちょっとこれ現像に出してきてくれへん?
越智は母から手渡されたフイルムを掌の中に握り、自宅からさほど遠くないところにあるカメラ店まで歩いて行った。
運命はいつでも思いがけない時に、思いがけない方向へと動き始める。
そのカメラ店で、彼は人生を変えるような一枚の名作に出会い立ちすくんだ、わけではない。
お使いを頼まれた高校1年生は店内の受付カウンターへ向かう途中、通路脇に陳列してあった販売用の写真立てに体のどこかを当ててしまい、床に落ちた写真立ては派手な音を立てて壊れてしまった。
すみません!これ弁償します!
音を聞きつけて出てきた店長に、越智は詫びたが、店長の応対は彼の予期せぬものだった。
いいよ、いいよ、そんなこと気にしなくて。それより君、怪我とかしてないか?
写真やっている人っていい人ばっかりなんかもな。
数日後、越智は父親にカメラを買ってくれないか、と持ちかけた。
最初の返事は、Noだった。それでもしつこく頼み続けると、じゃあ試験で90点以上取ったら、という条件を提示された。ちなみにそれまでの越智のテストでの平均点は3、40点とかなり低めである。
父親には勝算があったが、越智にも勝算があった。カメラのためなら必死で勉強できるし、択一問題の試験ならなんとかなる。次の試験で越智は90点を取り、見事人生初のマイカメラ、Nikon社製の一眼レフをゲットし、そこからはどこへゆくにもカメラと一緒の人生がスタートした。
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